中央公論・筑摩書房・王子製紙など実現、文庫本「用紙」共通化の道筋
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すぐれた編集者は、どんな紙を使うか、社内の資材や制作と言われる部署の目利きとともに入念に考えます。
えっ、紙なんてどれつかったった同じでしょ? と思うかもしれませんが、全然違うんです。
たとえばこの記事で「中質紙」という言葉がでています。「中質紙」というのは昔の電話帳で使われるようなザラ紙ですね。なので、軽いし、安い。それで、文庫の用紙に使われるわけです。しかし、この紙は陽にあたると、すぐ焼けてきてしまいます。
編集者として『137億年の物語』という本を2013年につくった時のことを思い出します。原書はイラストや写真をふんだんにつかった本で、アート紙を使っていました。上質紙はカラー印刷に向いています。でも、重いんですね。図鑑などに使われている紙と思ってもらってよろしい。
しかしこれをつかうと本の重量が3㎏ちかくになってしまう。また上質紙は高いので、定価の試算をとると1万円を越えていました。で、なんとか安くできないか、持ち運びができるような重さにできないか、と資材部に相談したところ、担当者が出してきたのが、王子製紙の「アドニス」という商品でした。これは中質紙でありなから、上質紙のようなコーティングをしていてカラー印刷に向いている。で、これを使って試作品をつくったらば800グラムつまり3分の1の重さにまで減らすことができた。
『137億年の物語』は3000円の定価で、18万部を超えるベストセラーになります。
というわけで、紙がベストセラーを出すこともあるんです。同じ文庫本でも、用紙は様々です。
赤味の強いもの、白色が強いもの...。
数年経過した時に、変色しやすいもの、そうでないもの...。
手前味噌ですが、講談社文庫の用紙は変色が少なく、いい紙だと思います。
では、この用紙の使用が、最終顧客の購買要因になるかといえば、必ずしもそうではありません。
とはいえ、先人が開発してくれた用紙のおかげで、かつてワクワクドキドキした気持ちを、ページをめくって思い出すことができます。紙質、装丁、活字(フォント)、組み方……いわば情報という無形のものに形を与えているすべてが、「本」という商品をかたちづくっているのだと思います。日ごろは意識していませんでしたが、手元の文庫本を改めて見比べると、確かに色味も手触りも微妙に違います。こういうニュースを目にすることで、これまで無意識の下にあった感覚が可視化され、本を手に取る楽しみが一つ増えたような気がします。