2022/3/11

【警鐘】上司の“強い成功体験”が女性活躍を阻む

NewsPicks Brand Design / Senior Editor
2021年現在、女性管理職の平均割合は8.9%(帝国データバンク調べ)。政府の掲げる30%には、まだまだ遠く及ばない数字だ。

女性活躍が進む企業は、そうではない数多の企業とは何が違うのか?

NewsPicksは、次世代の女性リーダー育成に向けたコミュニティ型プロジェクト「NewsPicks for WE」を始動。2021年12月18日に行われたローンチイベントでは、ロールモデルとなる女性リーダーや専門家たちが議論を繰り広げた。

イベント後半のセッションでは、日本企業で女性管理職の育成が進まない理由を、先進企業の事例を交えて探った。
前半のセッションはこちら

先進企業の女性リーダー育成術

──まずは、みなさんが考える「女性管理職・リーダー育成」のためのキーワードを見ていきましょう。
──10年ほど前から女性リーダーの育成に力を入れているリクルートの柏村さんのキーワードは「BET ON PASSION(情熱に賭ける)」ですね。
柏村 ダイバーシティ・ エクイティ・ インクルージョン(DEI)の本質は、個を尊重して一人ひとりに“期待し倒すこと”にあると、私は信じています。
 リクルートのベースは、性別問わず、全従業員の働き方の柔軟性。
 その上で、「女性自身の意識醸成・不安払拭」「ビジネスにおいて必要な能力・機会開発」「マネジメント層における意識のアップデートと女性メンバーの育成支援」の三位一体で取り組んでいます。
 代表的な事例は、28歳前後の女性社員が対象の「Career Cafe 28」です。
 この年齢層は、人生やキャリアに漠然とした不安を持ちやすい時期。そこで、外部講師を招いて、まず自分自身の棚卸しをしてもらおうという研修です。
 これと対をなす「Career Cafe 28 BOSS」で、今度はマネジメント層が女性メンバーに対するキャリア支援を学びます。
 実は上長も、彼女たちのサポートに悩むことは少なくありません。
 女性自身のやる気に火が点いても、上長のコミュニケーション次第では消えてしまう。だから、双方へ同時にアプローチしていく必要があるのです。
──IBMも20年以上、女性リーダー育成に注力して独自のノウハウを築いていますよね。
川上 1990年代からグローバル全体で、そして日本IBM独自でもダイバーシティに取り組んでいます。そのなかでのキーワードは「相互理解」です。
 性別や国籍、ライフステージの違いだけでなく、管理職と部下という立場も超えて、お互いへの理解と気遣いが必要なのです。
 実は以前に、日本IBMで女性管理職比率が伸び悩んだ時期がありました。なぜかを調査すると、女性社員たち自身が「管理職になりたくない」と。そこで2019年から始めたのが「W50」です。
 これは、管理職一歩前にある女性社員50人を集めて、管理職への心の準備をしてもらう年間プログラムです。
 なかでも効果的なのが、カバン持ちのように役員の1日に同行する「シャドーイング」
 管理職の仕事を間近で体感する機会を繰り返し持つことで、「意外とおもしろそうだ」「できるかもしれない」と意識が変わっていくのです。
 W50を始めて以来、「管理職になりたくない」という声は40%から10%程度まで下がりました。女性の管理職比率は初年度に5ポイントほどアップし、翌年からも上昇し続けています。

「女性活躍の推進」は誰のため?

──先進的な2社の取り組みを伺いましたが、さまざまな日本企業の組織改革に携わってきたピョートルさんは「Just do it.」と。
ピョートル はい。女性リーダー育成はもう、やるか・やらないか“決め”の問題。組織にも個人にも、今すぐ動いてほしいという願いを込めました。
 日本企業には、さまざまなバイアスに基づいた不平等な構造が残っています。女性リーダーを育てるには、固定観念を一つひとつ覆していかねばなりません
 そもそも私は、「管理職」という言葉が大嫌いなんです。ヒエラルキー的な日本企業の古い価値観が透けて見えるからです。
 マネジメントとは本来、チームを立ち上げて人を育む仕事。そうした認識が広がれば、悩んでいた女性たちも「できるかも」と思えるかもしれないですよね。
柏村 ピョートルさんのおっしゃる固定観念を覆そうという取り組みの一つが、仕事と育児の両立を体験するマネジメント層向けのプログラム。最近はVR研修にしていますが、過去には「育ボスブートキャンプ」という研修をしていました。
 マネージャーが、育児中のメンバーの家庭に同行し、 お迎えから寝かしつけまで実際に日々の育児を体験。そこで得た気づきをチーム内でシェアします。
 ワーキングマザー/ファザーに対する理解を深めてもらう任意のマネージャー研修です。
 自分と異なる立場の人の実態を知ることで、マネージャーは自分の中のアンコンシャス・バイアス(※)に気づく。相互理解は、共感とは似て非なるものなんですよね。
※ 誰もが持つ「無意識の思い込み」を指す。固定的な性別役割分担の意識や、性差に関する偏見・固定観念が、ジェンダーギャップの要因とされる
──女性に特化した研修には、「逆差別だ」などの声が出ます。「女性だけ研修を受けてもいいのか」と尻込みしてしまう人も……。
川上 そういうときこそ必ず、やる意義に立ち戻って対話をしないと。ダイバーシティ&インクルージョンの取り組みは、企業戦略として不可欠だからやるのです。
ピョートル その通りですね。企業とは社会、そして世界に価値を生み出すもの。にもかかわらず、女性を尊重しない企業は人口の半分を、LGBTQなら人口の十数%を無視しているのです。
 逆差別と捉える人には、「あなたの母親や女性パートナー、娘に、あなたと同じ機会が用意されなくていいのですか?」などと問いかけてみると、納得しやすいのではないでしょうか。
柏村 前提として、人的資本を生かし切れないのは企業としてもったいないという発想を持つべきですよね。

「管理職になる自信がない」を今日から変えるには

──管理職になる自信がない女性には、どんなマインドセットやスキルが必要でしょうか?
柏村 まず、完璧なリーダーは存在しないと知ってもらいたいですね。良いチームとは、お互いに強みと弱みを理解し、補完し合える関係にあるのです。
 それにはまず、自身が望む働き方や生き方、強み弱みを客観的に捉えて、言語化すること。そして、自分がしたいこと、興味のあることには徹底的に欲張りになってほしいんです。
 欲張りすぎて持てなくなったら、そこで手離せばいい。最初から無理だと決めつけずに、個人の情熱を大事にしてほしい。そう強く思います。
──川上さんは、若手女性たちにどんなアドバイスをしてきましたか?
川上 「私はできない」という言葉の根拠を今一度考えてほしい、と伝えるようにしてきました。多くの女性が「苦手を克服しないと、管理職になれない」と思い込んでいるんですよね。
ピョートル 女性は自分を過小評価し、男性は過大評価する。これは、男性がマジョリティの社会構造では典型的なバイアスです。
 だから女性には、コーチングを受けたりロールモデルを作ったりして、客観的に自分を評価して自己肯定感を育む機会が必要ですよね。
────女性リーダーを増やすには、本人だけでなく組織にも変革が必要ですよね。経営層のコミットメントが不可欠ですが、経営層を動かすためにボトムアップでどんな働き掛けができますか?
ピョートル 経営者のほとんどは数字で動きます。企業に多様性がないせいでどんな損失を生んでいるのか、ビジネスの視点から指摘しましょう。
 国内外レポートからの具体的なデータや自社の社員の声を拾ったり、男女比率とワークエンゲージメントの差などのファクトを組み合わせたりしながら、トップに重要性を示していくのが効果的です。

“心地よい同質性”から抜け出す方法

──経営層が「自社に男女格差はない」という認識でも、女性社員のチャレンジの機会が男性より少ないという調査結果が出た例もあります。
柏村 価値観は、自身の成功体験がベースに作られることが多いのですが、その体験が影響しすぎると、アンコンシャス・バイアスにつながってしまう。
 リーダー像やリーダーに求める要件もその一つ。
 確たる成功体験を持つマネジメント層や経営者ほど、理想とするリーダー像が強固で、自分と異なるタイプのリーダー創出が難しくなると感じます。
川上 柏村さんのお話のようなアンコンシャス・バイアスでよくあるのが、子どもが産まれたばかりの女性社員への対応です。「ワーキングマザーに難しい仕事を振らない。そんな自分は理解ある上司だ」と。
 でも、実は違います。まずは女性本人の意思を確かめる。さらに本人すら勘違いしているケースもあるので、一緒にキャリアプランから今どんな仕事を担うべきかを考える。
 これが、本来のマネージャーの役目です。
──中間管理職の意識がネックとなって、社内風土が変わらないという声は少なくありません。
ピョートル よく批判される“昭和のおじさん”は、集まると厄介ですが、大勢の中でなら彼らも多様性の一部です。
 企業単位でピープルマネジメントを考えるならば、好き嫌いやバイアスにとらわれず、メンバー全員が最高のパフォーマンスを発揮できるかという視点で、企業のシステムや人事制度を見つめ直してほしいです。
川上 同質性の高い環境は心地いいですよね。異なる視点が入れば、意思決定のスピードが落ちて、ビジネスには無駄に感じられることもあるでしょう。
 だからこそ数値目標を掲げ、給与に影響すると言ってでも取り組み続けなくてはいけないんです。
柏村 すべてが一足飛びには変わりません。自社のダイバーシティのフェーズに合わせて、目標を定め、制度を設計し、事例を作る。これを地道に繰り返すほかないのです。
 リクルートグループが2021年に出したコミットメントに、「2030年度までにグループ全体で取締役・上級管理職・管理職・従業員それぞれの女性比率50%を目指す」があります。
 これは高い目標です。この実現には、社内だけではなく社会との対話が不可欠。これから成功事例も失敗事例も発信していくつもりです。
 賛同してくださるステークホルダーとともに、社会全体のDEI実現に対しても貢献していきたい。長旅かもしれませんが、そうやって企業から社会を変えていけるのではと期待しています。