2022/3/7

【必修】4つの視点でわかる「日本の男女格差」のイマ

Newspicks Studios Senior Editor
ジェンダー後進国といわれる日本。政治や経済の分野では特に後れを取るが、企業におけるジェンダー平等の実現は急務だ。本記事ではさまざまなデータをもとに、その数字が意味する「働く女性のリアル」を分析。
ダイバーシティ経営、女性の働き方に精通する日経BPクロスウーマン編集委員の羽生祥子氏、ジャーナリストの浜田敬子氏が解説する。
日本のジェンダー課題を考えるにあたり、まずはマクロ視点であらためて現状を押さえておこう。

就労人口は男女半々。一方で女性管理職は15%以下

世界と比較して見えてくる日本企業のジェンダー不平等を象徴するのが、次のデータだ。
働いている女性の割合は世界各国と大きな差はないが、管理的立場(企業の課長職以上など)の女性は、14.8%と諸外国の半分以下。同じアジアのフィリピンでは働く女性の割合は日本より低いにもかかわらず、管理的立場の女性は50%を超えている。これについて、羽生祥子氏は次のように警鐘を鳴らす。
「ジェンダーギャップ指数においても、女性管理職の割合の少なさでも、世界と比べると日本の『ダメさ』ぶりが際立っています。中国や韓国は、国がジェンダー平等に一歩踏み込んだ施策を進めていることで、わずかながらも成果を上げています。
ただ、ほかのアジア諸国のジェンダー平等が進んでいるというよりは、あまりにも日本が“やらなさすぎ”です『ジェンダー平等はやらない』と意固地になっているのかと思わせるほど、世界の潮流からは遅れています」(羽生氏)
多様性のない組織はステレオタイプを助長し、それがイノベーションを妨げるリスクとなる。
世界のダイバーシティ先進企業の事例として、アマゾンではアンコンシャス・バイアスをなくす取り組みを行っているという。
「アマゾンでは会議の際に資料に『氏名』を書かないのがルールと聞き驚きました。
“役員の意見には誰も反対できないし、新人の企画書にはあら探しをして言いたい放題できる”というバイアスをなくすためだそうです。
皆さんの組織でも、本来なら内容の優劣で判断すべきなのに、『誰が書いたものか』という属性の影響でイノベーションのチャンスを潰していることはありませんか? 真のイノベーションを起こすには『誰の』は不要で、『中身・内容』がすべてです」(羽生氏)
ここで、多様性が低い組織に起きがちな「グループシンク(集団浅慮)」という集団心理についても理解を深めておきたい。グループシンクでは、自分たちを過大評価し外部を過小評価、都合の悪い情報を遮断する傾向が強まる。
グループシンクに陥るような多様性の低い集団は、危機管理能力が著しく欠けてしまいます。それが企業であれば、必然的に経営リスクにつながります。男性管理職ばかりの日本企業は、まさにグループシンクの症状に陥りやすく、経営危機と隣り合わせともいえます。
また、性別に加えて民族や国籍などの単一集団によるグループシンクが、政治判断の悲劇を招くということを、今まさに私たちはロシア問題で目の当たりにしています」(羽生氏)
次に、ジェンダー平等が経済にどのようなインパクトを与えているのかを見てみる。

女性活躍推進が株価に直結

女性の活躍を推進する上場企業「なでしこ銘柄」(※)と東証株価指数(TOPIX)との比較が次のグラフだ。
なでしこ銘柄=経済産業省と東京証券取引所では、2012年度から女性の活躍を推進する上場企業を毎年「なでしこ銘柄」として公表。銘柄は、東証上場全社を対象とする「女性活躍度調査」をもとに評価。行動計画や女性の管理職比率、取締役および執行役員の比率、自己資本利益率(ROE)などが選定ポイントになっている。
上のグラフからは、なでしこ銘柄が中長期にわたって東証株価指数より高い株価を維持していることがわかる。さらに、なでしこ銘柄は営業利益率でも東証一部上場企業の平均値を上回っている。
羽生氏はこれ意外にも「ダイバーシティや女性活躍推進で、株価やROE(自己資本利益率)、さらには業績そのものが上昇することを、多くのデータが示しています」と強調する。
つまり、投資家は『女性活躍=その企業の長期的な業績向上が期待できる』と判断しているということ。女性が活躍しているということは、より多くの優秀な人材が能力を発揮できる環境にあるということ。それは当然、企業の業績につながると見ているわけです。
実際に、女性活躍に取り組んだことで業績向上した事例は数多くあります。これだけデータがあるのに、やらない手はないはず。そこは経営者にぜひ自覚してほしい部分ですね。
ただ1つ注意したいのは、『役員に登用された女性本人がイノベーションを起こす』のではないということです。そういう人もたまにはいますが、それを全員に期待してはいけません。
重要なことは、今まで男性だらけだった単一集団に女性を複数登用するチャレンジや、慣習の打破をしてみること。そのような新たな取り組みができる組織だから、イノベーションを起こす確率も高くなるのです」(羽生氏)

コーポレートガバナンス・コード改訂の影響は?

ここにきて、企業のダイバーシティ推進を取り巻く環境が大きく変わりつつある。そのひとつが、2021年6月に施行されたコーポレートガバナンス・コードの改訂だ。そこには「企業の中核人材における多様性の確保」と明文化されている。
つまり「管理職は男性ばかり」という組織から「女性も外国人も中途採用者も管理職として活躍できる組織」を目指すことは、上場企業としての義務となったのだ。さらに、その目標は具体的に数値として設定し、実地状況を公表しなくてはならない。
コーポレートガバナンス・コード改訂で女性の管理職登用がルール化されたことにより、企業は待ったなしでジェンダー平等に取り組まざるを得なくなりました。
さらに2022年4月から『女性活躍推進法が中小企業(従業員101人以上)で義務化』『育児・介護休業法改正で男性の育児休業取得推進』など、法整備が一気に進んでいます。
規制や法律という『ルールが変わった』ことで、確実に企業の動きは進んでいくはずです」(羽生氏)
ただし、これらのルールには罰則はない。アメリカ市場とは大きな違いがある。ナスダックでは女性、人種、性的多様性の取締役登用が義務化され、不採用だった場合はその理由を説明しないと上場廃止というかなり厳しい罰則が適用される。
「確かにアメリカに比べると、日本はまだまだ甘いかもしれません。しかし、法や規定による罰則がなくても、労働市場や金融市場からは確実にNOを突きつけられるはずです。
私が罰則の代わりに機能するのではないかと思っているのが、日本特有の『世間の目』を気にする文化です。ダイバーシティ精神とは逆なので善し悪しはありますが、『空気』を重んじる風潮は否めません。そんな国民性だけに、ジェンダー平等に後ろ向きなことで若い世代や女性から不評を買うことになるかもしれない。『自社のみ後れを取っている居心地の悪さ』こそが、実は最も影響力があるのかもしれませんね。
他者と同じであろうとすることで、他者との違いを受け入れる多様性が進む──。アイロニーそのものですが、いかにも日本らしい進化のプロセスだと思います」(羽生氏)
政府が「202030(2020年までに社会のあらゆる分野で指導的地位に女性が占める割合が、30%になる)」を目標として掲げたのが2003年の安倍政権下で、「女性活躍推進法」が施行されたのが2015年。しかしながら、いまだに課長職に女性が占める割合は10.8%、係長職では18.7%(2020年度、雇用均等基本調査より)に過ぎず、目標達成への道のりは遠い。
そんな中でも、成功事例といわれる企業が増えてきている。多くの企業で女性の働き方を取材してきた浜田敬子氏は、成功する企業の具体的な例を次のように語る。
本気で取り組んでいると感じるのが、メルカリです。メルカリではトップの山田進太郎社長がはっきりとコミットメントを公表しているだけでなく、大学で専門知識を学んだ社員が専任スタッフとなり、会社のD&I(ダイバーシティ&インクルージョン)を推進しています。といって何か特別なことをやっているというわけではなく、地道に当たり前のことをひたすら継続しているのです。
データを重視していると言われますが特別なものではなく、多くの企業で持っている、例えば従業員満足度や女性管理職比率などの調査なのです。
ただメルカリが違うのは、そのデータを部署ごとなどに細かく分析して、どこに課題があるかきっちり可視化させようとしているところ。山田さんたち経営層を本気にさせたのも、そうしたデータをもとにボトムアップで働きかけた結果だと思います。
社長である山田さんも、ジェンダー平等、ダイバーシティ経営について熱心に勉強していらして、トップ自身が深く関わってさまざまな施策や研修を行っています」(浜田氏)
また、コロナ禍によるリモートワークの普及が女性管理職比率アップの追い風となっている部分もある。
例えばNTTコミュニケーションズや富士通は、リモートワークが8割を超えていて、子育てや介護中などの女性の働きやすさが改善しており、その結果、管理職への意欲も高まっています。
リモートワークだけでなく、分断勤務やコアタイムのないスーパーフレックスなどと組み合わせてより柔軟に働けることで、時短勤務からフルタイムに戻す人も多く、それがキャリアに対して前向きな姿勢につながっているのです」(浜田氏)

地方の中小企業が成功させたD&I経営

地方の中小企業からするとD&I経営のハードルはさらに高くなりがちだが、なかには先進をいく企業も存在する。
「そのひとつが、20年ほど前から女性活躍に取り組む愛知県の大橋運輸です。
大橋運輸が改革に取り組み始めた当初、運輸業界は規制緩和による競争激化、人材獲得難という課題を抱えていました。
そこで大橋運輸は人材の確保のためにも、女性の積極採用という施策を打ち出しました。女性社員を増やすと同時に、柔軟な働き方も取り入れ、今では短時間勤務の女性も管理職となっています。
また女性活躍が進んだことで、新しいビジネスも生まれました。
それまで瀬戸物の輸送専門だった同社では、女性社員の発案で、引越業務や生前整理・遺品整理の新規ビジネスを立ち上げて、BtoC分野にも参入しています。これこそまさに、D&I経営でイノベーションを起こした好例といえるでしょう。
ちなみに、大橋運輸でD&I担当するのは、入社4年目の女性社員。彼女はダイバーシティ100選企業から就職先を検討し、大橋運輸に就職を決めています。採用でもD&Iが武器となっていることを実証していますね」(浜田氏)
また地方では、外勤は男性、内勤は女性という「性別による役割分担」が残っているケースも少なくない。その役割を取り払ったことで業績を向上させたのが、地銀の仙台銀行だ。
仙台銀行では、東日本大震災を契機に、男女のジョブローテーションを見直しました。それまで内勤事務だった女性にも、預かり資産の運用や営業を担ってもらったところ、大きな成果を得られ、女性も管理職に登用されるようになっています。
日本のあらゆる銀行で、『生え抜きの女性役員』がいるのはたった3行に過ぎませんが、そのひとつが仙台銀行です」(浜田氏)
そんななかで、当の働く女性は、自らのキャリアについてどう考えているのだろうか。

年齢と共に下がるモチベーション

企業の女性活躍推進でよく言われるのが、「女性はみんながみんなバリバリ働きたいと思っているわけではない」という声だ。
次の調査によると、「今後(も)、バリバリとキャリアを積んでいきたいと思っている人」は34.2%。年代別では20代、30代は40%前後だが、多くの男性が管理職となる40代でキャリアを積むことに前向きな女性は33.8%まで落ち込む。
ちなみに、管理職への打診があれば受けてみたいという質問には「そう思う」が2割以下。「受けてみたいとは思わない(全く+あまり)」は5割を超える。
このデータからもわかりますが、20代では約半数弱がキャリアを積むことに積極的です。しかし、そのモチベーションが年齢とともに下がってしまう。それを会社側は『女性の誰もがキャリアを望んでいるわけではない』と捉えがちですが、そもそもそこに構造的な問題はないのでしょうか。
例えば20代でのジョブローテーションで男性と女性での差はないか。女性に若いうちから『一皮剝ける経験』や『少し難易度の高い仕事』をさせているか。
少しずつの差が、結果として女性側の『会社の全体像を把握する経験不足』にもつながり、それがまた、自信を失わせているんです。
自分には能力がないと思い込んだり、時短勤務であることに罪悪感を感じたりする人が多くいますが、『自分のせいではなく、構造上の問題なのだ』と認識することも大切だと思います」(浜田氏)

優秀な女性社員の意欲を削ぐマミートラック

こうした結果、出産・子育て後にキャリア復帰しても、責任のない仕事を任される「マミートラック」の現象が起きてしまう。マミートラックの現状と、日米の高学歴女性の離職理由を比較した2つのデータを並べてみた。
「マミートラック」に陥っている女性は全体の46.6%、総合職でも39.0%を占めている。
さらに、日本の高学歴女性の離職の理由は「育児」32%よりも、「仕事への不満」63%であることをデータは示している。
対照的に米国では育児支援の施策が乏しいため「育児」で離職する率が74%と圧倒的で、「仕事への不満」は26%にとどまる。
「キャリアへの展望をあきらめてしまったマミートラックの女性たちは、『やりがいのある仕事をさせてもらえない』と、最終的に離職してしまう。それが今の日本女性の現実なのです」(浜田氏)

キーパーソンは管理職。女性自身の意識改革も

構造的にキャリア構築が難しく、仕事へのやりがいを失ってしまう女性たち。では、いったいどうすれば、女性たち自身がもう一度キャリアの階段に戻り、モチベーションを持って働こうと思えるようになるのか。
その鍵を示しているのが下のデータだ。女性が「マミートラック」から抜け出すのに、大きな役割を果たしているのが「上司」(46.6%)となっている。
選択肢は複数回答のため、例えば、上司の関わりが46.6%というのは、「上司に要望を伝えた」23.3%、「上司からの働きかけがあった」24.3%を合計した47.6%から、両方選択した1.0%を差し引いている(引用元:https://www.jiwe.or.jp/application/files/1016/4604/1259/2022chosa_gaiyo.pdf)
女性活躍を実現するための最大のキーパーソンは上司、つまり管理職です。
ですので、まずは管理職の意識改革をすることは絶対条件。男女に対する無意識なバイアスを自覚し、自信を失いがちな女性に対して、積極的にチャレンジのチャンスを若いうちから与えていくことが必要です。出産などのライフイベントの前に『一皮剝ける経験』をしているかどうかは、育休後のキャリアの意識にも大きく影響してきます。
昇進の誘いは1回だけではなく何回も声をかけてみたり、マミートラックの女性に少々難易度の高い仕事を任せてみたりすると、脱マミートラックにもつながります。
『無理をしなくてもいい』と大きな仕事から外す『過剰な配慮』は、女性から機会を奪ってしまいます。『できないときはサポートするから、やってみたら』という言葉こそ、女性をエンパワーメントします。そういうことが女性の背中を押すのだという知識を、何度も研修を重ねて得ていくことが重要でしょう。
もちろん、女性の側も意識を変えていかなくてはいけません。『自信がない』と尻込みせずに、8割程度ならやれると思ったら、自分から手を上げてみる。自信は、経験を重ねればついてきます。実力より少し高いレベルの仕事にチャレンジすることで、成長する喜びを感じてほしいですね」(浜田氏)
最後に、女性管理職のパイプライン形成に注目しよう。IBMの調査「ジェンダー・インクルージョン施策の危機 日本版」によれば、経営層の欠員補充をするのに必要な女性管理職のパイプラインが近年、世界的に縮小している。
日本も同じく縮小が進み、2019年時点で執行役員、事業部長、上級管理職などのポストに就いている女性の数は2019年より減少している。日本IBMの本レポート担当者は次のように述べる。
「パイプラインを将来に向けて整備していても、女性自身のライフステージの変化などでさまざまな壁にぶつかり、ドロップしてしまうケースがあります。そうした事象に対して、企業側がどうサポートするかを考え、課題に向き合わねばなりません。
その他にも、制度やプログラムをつくったことで満足してしまっている企業が多い印象です。制度や研修を増やすだけでは結果にはつながりません。受けたあとにどう具体的に動いてフォローするかが重要です。
さらに盲点としていえるのは、近年のD&Iの数値目標を達成するために一気に女性を幹部に昇進させてしまったことで、もうひとつ下の層を次のラインに引き上げることができていないことです。次の世代の育成をどれだけ速やかにできるか、そこに課題があると思います」(日本IBMレポート担当者)
参考:
羽生祥子『多様性って何ですか? D&I、ジェンダー平等入門』(日経BP)
浜田敬子『働く女子と罪悪感』(集英社)
日本IBM「ジェンダー・インクルージョン施策の危機 日本版」
※同レポートの詳細は3月15日(火)公開予定の記事にて