2022/3/9

【超訳】プーチンが目指す、「完全なるロシア」とは

NewsPicks 編集長
「ロシアの国境には終わりがないんだよ」
2016年11月、プーチン大統領は地理が得意なロシアの子どもたちを表彰するイベントで、9歳の男の子にそう語りかけた
プーチンはすぐさま「今のは冗談」と付け加えたが、今では冗談とも聞こえなくなっている。
ウクライナに異常なまでの覚悟と執念を見せるプーチンに対しては、次のような疑問が湧くだろう。プーチンの頭にある「完全体のロシア」とは一体何なのだろう、と。
そのヒントとなる文書がロシア国営通信から「誤配信」されたのは、軍事侵攻が始まった2日後の2月26日のことだった。戦勝を祝う大本営発表が、世に出てしまったのだ。
「ロシアの侵攻と新世界の到来」(Наступление России и нового мира)と題されたその記事は、すぐに削除されたが、今もなおSNS上で拡散し続けている
そこには、プーチンの世界観とロシアの歴史物語がぎゅっと詰まっている。これを片手に、ロシアのことを丁寧にひも解いていこう。
INDEX
  • 1.ロシアとはどこまでか?
  • 2.ウクライナは「ほぼわれわれ」
  • 3.キエフという母なる故郷
  • 4.15年前の「宣言」
  • 5.プーチンの新しい世界秩序

1.ロシアとはどこまでか?

記事は冒頭、こんな一節から始まります。
①新しい世界が目の前で生まれつつある。

ロシアのウクライナでの軍事作戦は新しい時代を開いた──しかも、同時に3つの次元において。

(中略)ロシアは自身の一体性を回復しつつある──1991年の悲劇、我々の歴史における恐ろしい破局、その歴史の不自然な逸脱は克服されたのだ。
第一次世界大戦を出発点とする100年の現代史において、最大の歴史的イベントの一つが、1991年のソ連解体でした。
資本主義の対抗馬と目された「社会主義」が、その舞台から一気に滑り落ちたからです。
ほぼ時を同じくして、米ソ冷戦が終結(1989-91年)したことも相まって、「資本主義の勝利」という考え方が、世界を席巻していくことになります。
その裏側で、新生ロシアは、自らの「アイデンティティ」に苦しみ続けてきました。
多様な民族・文化・宗教が、なぜ「ロシア」という一つの国家の下にあるのかを説明する原理を、見いだせなかったからです。
以下の図は、ロシア人を除く最多の民族の分布を示したロシアの地図です。