2022/9/26

【高岡浩三】日本人のコーヒーの楽しみ方がまた変わりつつある

NewsPicks / Brand Design 編集者
 ヨーロッパNo.1カフェブランド(※1)「コスタコーヒー」が、日本の市場に登場して1年数か月たった。ペットボトルコーヒーとは思えない薫り高い味わいが評価され大ヒット商品となったが、「コスタコーヒー」のブランド展開は、むしろここからがスタートなのだという。
 アーリーアダプターからマジョリティーへと進化を目指すブランドの2年目以降の戦い方、そしてマーケティング戦略とは。
 2021年8月に対談した、コーヒー業界に精通する元ネスレ日本社長兼CEOの高岡浩三氏とコスタブランドの日本展開を主導する日本コカ・コーラの金澤博史氏の2人が、レッドオーシャンの日本のコーヒー市場で成長するコーヒーブランドの条件について語り合った。

「ジョージア」を育てた日本コカ・コーラが打つ次の一手

──2021年4月に発売されたコスタコーヒーのペットボトルは、一時は販売停止になるほどの人気を博しました。そもそも「コスタコーヒー」とはどのようなブランドなのでしょうか。
金澤 1971年のロンドンで焙煎所として誕生したコスタコーヒーはイギリス最大のカフェチェーンで、欧州やアジアを中心に約4000店舗のショップを展開する、世界中で愛されるコーヒーブランドです。
 2019年にコカ・コーラ社の傘下に入り、現在は米国、中国、アジアを中心にブランドを拡大しています。21年4月には当社がコスタコーヒーのペットボトルを発売し、本格的な日本進出を果たしました。
高岡 世界的なコーヒーチェーンというと日本ではスターバックスをイメージする人が多いのですが、欧州ではコスタコーヒーが店舗数や知名度で圧倒しており、熱い支持を集めていますね。
 私も「コスタコーヒー ラテ エスプレッソ」をいただきましたが、要冷蔵のチルド商品(※2)に引けを取らない濃厚な味わいです。

既存のコーヒー商品が解決できていない顧客課題とは

高岡 缶コーヒーの「ジョージア」がトップブランドになった背景のひとつには、主に屋外や工場などで仕事をする人たちが抱えていた「おいしいコーヒーで一息入れたいけれど、手に入らない」という課題の解決に、ジョージアというブランドと自販機が貢献したことがあるでしょう。
 それでも、缶コーヒーでは満足できない層もあり、まずはコスタコーヒーのペットボトルがその課題を解決しましたね。
金澤 コスタコーヒーのペットボトルは、一般的なペットボトルコーヒーの1.3倍の豆を使用し(※3)、独自の焙煎で力強いアロマを実現したことで、従来の缶やペットボトルコーヒーの味わいに満足できていなかった層から大好評をいただいています。
 「コスタコーヒー カフェラテ」や「コスタコーヒー ラテ エスプレッソ」といったミルク入りの製品に関しては、コーヒーをミルクと別のプロセスで処理し、ボトルに詰める直前にミックスすることでそれぞれの香りと味わいを際立たせています。
高岡 ただそれでも、既存の商品だけでは解決できない顧客課題が、まだまだ残されているはずです。
金澤 おっしゃるとおりです。当社の推計では日本のコーヒーの市場はざっと3兆円ほどの規模があって、その3分の1が缶コーヒーやペットボトルなどの「RTD(Ready to Drink)」と呼ばれる、その場で飲めるタイプのパッケージ商品です。
 残りの3分の2を自宅で淹れるコーヒーや喫茶店などが占めており、その中で近年台頭しているのが、コンビニのカウンターで売られる商品とカフェチェーンです。
 コーヒーは多くの日本人に愛される嗜好品ですが、飲まれるシーンはライフスタイルの変化とともに変わってきています。働き方や休日の過ごし方が大きく変わったコロナ禍でも、その変化は見え始めていますね。
高岡 歴史を振り返ると、一般の人がコーヒーを飲み始めたころは家族でコーヒーをドリップしていましたが、インスタントコーヒーの登場を機に爆発的に普及しました。その後、世帯の人数が減り、団らんの場も減る中で、1杯ずつドリップできる商品が浸透しました。
 それでも、忙しい朝はお湯を沸かすのももどかしいもの。朝食のパンに添える飲み物はコーヒーでなくても、冷蔵庫にあるジュースでいいか、という家庭が増えてきます。コーヒーが他社製品ではなく、コーヒー以外の飲み物と競争しなければならなくなったわけです。
 そこで私はネスレ時代、ボタン一つで1杯分のコーヒーを抽出できるマシンを販売したところ、おかげさまで大ヒットしました。最近は、便利さや安さとは対極にあるサードウェーブコーヒーも、愛好家から一定の支持を集めていますね。
 家庭ではeコマースでお茶や水のペットボトルをまとめ買いする消費者が増えていますが、コスタコーヒーのような質の高いペットボトル製品の登場を機に、こうしたスタイルが定着する可能性もあるでしょう。
「コスタコーヒー カフェラテ」「コスタコーヒー ラテ エスプレッソ」「コスタコーヒー ブラック」の定番ラインナップに、コク深いエスプレッソに国産牛乳とキャラメルを加えた、香ばしくほろ苦いおとなの甘さを楽しめる贅沢なカフェラテ「コスタコーヒー キャラメル ラテ」が新たに加わった

コスタコーヒーのペットボトルは、ブランド展開のスタートにすぎない

金澤 ご指摘のとおり、かつてペットボトルは外で飲むものでしたが、完全に消費行動が変わっています。
 当社でもプラスチック使用量を減らし、分別の手間も省ける家庭向けのラベルレス商品が人気を博しているので、コスタコーヒーもいずれこうしたニーズにこたえられるブランドに育てていきたいと考えています。
 ただ、これらのペットボトルなどの容器入りコーヒーは、あくまでブランド展開のスタートです。コーヒーは日本の消費者の生活のさまざまな場面で必要とされており、「いつでもどこでもおいしいコーヒーを飲みたい」という需要は常に存在しています。
 加えて、私たちが注目しているのは、コロナ禍で閉塞感を感じる日常で、ちょっと贅沢をすることで心を豊かにしたいという「マス・プレミアム」のニーズです。
 手が届く範囲のプチ贅沢を日常に取り入れることで、日々の暮らしに彩りをもたらすマス・プレミアムを、コスタコーヒーで実現する戦略を考えています。
──具体的には、どのような戦略でしょうか。
金澤 マス・プレミアムをかなえるコスタコーヒーを暮らしのさまざまな場面で楽しんでいただくための、マルチプラットフォームです。
 これは5つのプラットフォームで構成され、すでに発売しているペットボトルなどの容器入りコーヒーは、自販機やスーパー・コンビニで手軽に入手できるプラットフォームと位置付けています。
 次のプラットフォームが、家庭用です。自宅でおいしいコスタコーヒーを自分で淹れて楽しんでもらうための商品を展開します。
 ペットボトルはすでに国内の主要なスーパー・コンビニで販売されていますが、常温のコーヒー製品の棚でもコスタコーヒーのラインアップが並び、自宅で飲むコーヒーにこだわる層に選んでいただける商品展開を目指します。
 さらに、カフェチェーンの展開です。イギリスの店舗で多くのファンに愛されるコスタコーヒーを、直接体験できるプラットフォームと位置付けています。
 現在、原宿に直営店がありますが、今後はフランチャイズモデルで拡大し、コスタコーヒーの薫り高い味わいと、それを楽しむ空間を提供していきます。
※「家庭用」「コスタ エクスプレス」は海外展開のイメージ
 また、コスタコーヒーの店舗以外でも、コスタコーヒーを味わえる場を設けていきます。一般の飲食店やレジャー施設などにコスタコーヒーを提供できるマシンを設置し、ブランドを前面に出した販売を行ってもらうのです。
 ホテルやレストランでの提供のほか、街のベーカリーやパティスリーなどがイートインスペースを設置する際に、おいしいコーヒーも合わせて提供するため活用してもらうようなイメージです。
高岡 人が集まる場所でブランドを掲げてコーヒーを提供していくのは、いい戦略だと思います。広告を大量に出稿すれば認知度は上げられますが、ブランドを大切に育てていくには、本物を目にし、味わう機会を提供することも重要ですから。
 特にSNS全盛の今は、顧客に質の高い体験を提供できれば、その価値は自然と広がっていくものです。
金澤 アメリカではすでに映画館チェーン約450施設でコスタコーヒーが提供されており、日本でも映画館チェーンで商品提供をスタートしました。
 ポップコーンとコカ・コーラという定番の組み合わせもいいけれど、おいしいコーヒーやカフェラテを飲みながら映画を楽しみたいという層に、淹れたてのコスタコーヒーをお届けし、劇場でもマス・プレミアムを体験してもらうことが狙いです。
高岡 そういえば、本家イギリスでは、カップで出てくるコスタコーヒーの自販機をたくさん目にしました。缶コーヒーのような手軽さで、淹れたてのコーヒーを飲めるマシンがあちこちに設置されていて、驚いた記憶があります。
金澤 「コスタ エクスプレス」というベンディングマシンですね。これも重要なプラットフォームと考えています。
 オフィスや小売店などの一角などにタッチパネルで簡単にコーヒーを抽出できるマシンを設置し、セルフサーブで手淹れのような作りたてのコーヒーがカップに注がれます。
 すでにイギリスでは1万2000台が稼働しており、マレーシアなどアジア地域でも展開がスタートしています。
高岡 本当に、あらゆるシーンで日本の消費者はコスタコーヒーにアクセスできることになりますね。日本のコーヒーブランドで、ここまで完璧なプラットフォームを持つところはまだありません。これらの幅広い展開を確立できれば、強力なブランドに成長できるでしょう。
金澤 まだスタートしたばかりではありますが、2022年のうちにはすべてのチャネルでなんらかの取り組みを始めることを目標にしています。
 最近も、ラグジュアリーホテルの客室にペットボトルのコスタコーヒーを置いていただいたり、有名テーマパークで淹れたてのコスタコーヒーの提供を始めたりと、新しい展開が続いています。
 コカ・コーラなどのソフトドリンクを卸しているレストランなどからも、コスタコーヒーを提供したいという引き合いを数多くいただいています。
今年3月に「コンラッド東京」(東京・汐留)のオールデイダイニング「セリーズ」にてコスタコーヒーとのコラボレーションとなる「ロンドン・ミーツ・トウキョウ」スイーツビュッフェを提供し、好評を得た。コンラッド東京のペストリーシェフ・岡崎正輝氏がコスタコーヒーオリジナルブレンド豆を使用したスイーツを開発。期間中はコスタコーヒーのドリンクメニューもラインアップされた

マルチプラットフォーム戦略でコスタコーヒーがより身近に

高岡 コスタコーヒーは小売店の棚を取るだけにとどまらない、壮大なビジョンを持っていますね。
 ジョージアを缶コーヒーのトップブランドに育て上げた日本コカ・コーラが、本気でこのマルチプラットフォームを展開すれば、日本人のコーヒーの楽しみ方を大きく変えていけるような気がします。
金澤 おかげさまでコスタコーヒーは、発売1年を待たずして、主なターゲット層男女のブランド認知度が60%以上まで到達しました。
 2年目となる2022年は、さまざまな生活シーンでコスタコーヒーの上質な味わいに触れ、体験できる機会を増やすことで、残り40%の獲得を目指します。
 コスタコーヒーでかなえるマス・プレミアムを体現するアンバサダーとして、俳優の米倉涼子さんを起用したCMも放映し、大きな反響を得ています。
高岡 日本は世界でも有数のコーヒー消費国のひとつです。コーヒーはその味以上に、日本人の心のよりどころとして暮らしに寄り添う存在になっているからこそ、ここまで大きなマーケットに成長したのでしょう。
 数多くの競合がひしめくレッドオーシャン市場で、コスタコーヒーがどこまで日本のコーヒーファンの心をつかむことができるか、大いに期待していますよ。
※1…アレグラ社 2021年ワールドコーヒーポータル調査 
※2…製造から販売まで冷蔵状態で管理される加工飲料。賞味期限は短いが、鮮度や風味をキープしやすいメリットがある 
※3…公正競争規約コーヒー規格下限基準値(5g/100g)⽐