スタンフォード、ペイパル、フェイスブック

2014/10/14

関心はカネ儲けではなく、世界の仕組みを知ること

ペイパルの共同創業者の一人で、現在はファウンダーズ・ファンドの取締役の一人であるルーク・ノーセクは、「ピーターはシリコンバレーの大半の人間とはまったく違う」と語る。
シリコンバレーの会話の中心はどうしたらもっとカネ儲けができるかだ。しかし、ティールにとって重要なのは、「どのようにこれを理解するか」だという。彼は世界の仕組みと、それに関連したすべての哲学的、道徳的な質問に強い好奇心を持っている。
別の同僚は、ティールの「バーにおける軽妙なおしゃべり」の能力は「極めて低い」が、データの記憶力は抜群だと語る。「第二次世界大戦の5日目に金の取引価格がどのくらいだったか、そしてそれがどんな影響を及ぼしたか、といったことについては、まるで記録書のようによく覚えている」。
ティールは1967年にドイツのフランクフルトで生まれた。父親は技術者で、ティールが1歳の時に米国に移住し、その後カリフォルニア州フォスターシティーに落ち着いた。彼には弟のパトリックがいる。ティールは子どものころから利発で、多少「オタク」的な一匹狼だった。

世界を変えようとする強い願望

彼はチェスを愛し、21歳未満の選手としては米国で最も高いランクまでのぼ詰めた1人だ。SFの大ファンで、特にアイザック・アシモフとロバート・ハインラインがお気に入りだ。
ロールプレイングゲーム(RPG)、ダンジョンズ・アンド・ドラゴンズを楽しみ、トールキンにとり憑かれていた。ティールの事業のうち2つはトールキンゆかりの名称がつけられている。テクノロジー投資ファンドはミスリル(中つ国で発見された金属)と名付けられ、データ分析会社パランティーアは、指輪物語に登場する「見る石」にちなんでいる。
ティールはスタンフォード大学で哲学を学び、スタンフォード・ロースクールに進み、ニューヨークの法律事務所に勤務した後、ウォール街のデリバティブトレーダーになった。ただ、どの仕事も「世界を変えようとする強い願望」に応えてはくれなかった。
ティールのリバタリアンとしての信念の種はスタンフォード大学でまかれた。学生新聞「スタンフォード・レビュー」を創刊し、キャンパスのポリティカル・コレクトネス(偏見や差別を含まない中立的な表現や用語に是正すること)を批判する「The Diversity Myth(仮訳、多様性の神話)」 を共著で出版した。
ティールは、ソルジェニーツィンとエキセントリックなロシア人作家アイン・ランドを愛読している。ランドは徹底的な自由放任主義による資本主義を提唱し、官僚による規制と戦う個人主義の天才を英雄と称賛したことから、シリコンバレーの起業家の間で守護聖人とみなされる存在だ。カリスマ性豊かな創業者の存在はシリコンバレーの多くの新興企業の特徴だが、ティールは、「何かをやり遂げるにはチームが必要だ」と語る。

ペイパル創業と「ペイパルマフィア」

1999年、ティールは数人の友人とともにペイパルを創業した。ペイパルは、紙幣という「時代遅れのテクノロジー」にとって代わり、政府が操作やコントロールができない世界的なオンライン通貨を創造するというアイデアに支えられた電子決済サービス会社だ。
多くの意味で、このプロジェクトはシリコンバレーの起業文化を象徴するものだった。創業者は全員男性で、6人のうち4人は高校で爆弾を作っていたという。ティールは、「工学部の学生はそうしたことをするものだ」と言うが、彼はその一人ではなかった。
グループの必読書はサイバーパンクの作家、ニール・スティーブンスンの「クリプトノミコン」。電子マネーを使った匿名のインターネットバンキングを描く、ハッカーの間でカルト的な人気を誇る本だ(ティールは、グループは「共産主義的なスタートレックより、資本主義的なスターウォーズの方を気に入っていた」と語る)。
しかし、ペイパルのリバタリアン的な野心はやがて挫折する。俗世間の銀行業務とビザカードの規制という障害が立ちはだかったからだ。同社は2002年に15億ドルでイーベイに売却された。ティールは同社の株式を3.7%所有しており、その価値は5500万ドルに上った。
ティールは、ペイパルでの目標の一つは、友情が長続きする会社を作ることだったと言う。ほかに何一つ長続きするものがなかったとしてもだ。
「ニューヨークの法律事務所に勤めていたある人が、事務所では全員がお互いを嫌っていたが、全員が多額の報酬を得た。それがプロフェッショナルな職場であることの証左だと言っていた。我々はそれとは全く違うことをしたかったのだ」とティールは語る。
ペイパルの創業者と社員はその後、過去10年間にシリコンバレーで成功を収めた主要なハイテク企業を次々に創業し、「ペイパルマフィア」と呼ばれるようになった。イーロン・マスクはスペースXを創業し、テスラ・モーターズを共同創業した。リード・ホフマンはリンクトインの共同創業者で、デビッド・サックスはヤマーを共同で創業し、マックス・レブチンは「オンラインの都市ガイド」、イエルプを創業した。フォーチュン誌が「ドン」と名付けたティールは全員と仲が良く、これらの企業の多くに多額の投資をしている。
2004年にホフマンはティールをマーク・ザッカーバーグという若いコンピュータープログラマーに紹介した。ザッカーバーグは大学のネットワーキングサイトの開発に集中するため、ハーバード大学を中退していた。ティールは社外の投資家として初めてフェイスブックに投資した。彼が保有するフェイスブック株の価値は現在2億ドルにのぼり、同社の社外取締役も務めている。
*次回へつづく。
(執筆:Mick Brown記者 翻訳:飯田雅美)
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