マネジメント・シフト-b

ビジネス組織とスポーツチームの共通点

マネジメントの「創造的破壊」が必要な2つの理由

「スポーツの人が、ビジネスの世界にいる我々に対して、何を話してくれるんですか?」

私はスポーツマネジメント・メソッドを用いて、あらゆる組織のマネジメントをデザインするTEAMBOXというスタートアップの代表を務めているのですが、ビジネスマンと話すと、ほとんど上記なような雰囲気や会話から始まります。「お前にビジネスの何がわかるんだ」と。

早稲大学ラグビー部の監督として2連覇した経験や、TEAMBOXで様々な企業とお付き合いしている中で感じるのは、多くの方々がマネジメントの概念について誤解もしくは認識不足をしていることです。

ハッキリと宣言しますが、「ビジネス・マネジメント」も「スポーツ・マネジメント」も本質的な差はまったくありません。そう理解することが、ビジネス組織のマネジメントを深めて行くきっかけとなります。

そのためには「マネジメント・シフト」という概念を意識する必要があります。

前置きが長くなりましたが、みなさん、初めまして。

今回から「スポーツ組織とビジネス組織のマネジメント」をテーマにNewsPicksで連載することになった日本ラグビー協会コーチングディレクターの中竹竜二です。どうぞよろしくお願いします。

なぜ、今回、連載することになったのか。ということで、第一回目は(1)連載に至った経緯と問題意識(2)連載の目的(3)そもそも中竹ってだれ?ということを、皆さんと共有したいと思います。

さっそくですが、みなさんにとって「マネジメント」とはなんでしょうか?

ぜひコメント欄を用いて、みなさんの考えを教えてください。もう1つ、質問です。「ビジネス組織をマネジメントすること」と「スポーツチームをマネジメントすること」に違いはあると思いますか?それとも、ないと思いますか?

どうでしょうか。みなさんの考えを楽しみにしつつ、私の考えを述べていきたいと思います。

マネジメントに不可欠な要素

まず、私にとってマネジメントとは「空気をつくること」です。もちろん、これは比喩であり、別の表現をするなら「魚にとっての水をつくること」。淡水魚なら淡水、海水魚なら海水がないと死んでしまいます。同様に、人間にも組織で死なずに輝けるよう、マネジメントによって「生輝(せいき)環境の創造」が必要なのです。つまり、あらゆる組織に大前提として「生輝環境をつくること」がマネジメントだと定義しています。

したがって、マネージャーやリーダーといった「組織を作る人間」に必要なのは「空気の創造と変革」であり、それはどの組織を率いたとしても変わりません。スポーツチームやビジネス組織といった違いはありません。人間が生き生きと輝くために必要な前提環境です。しかし、ここで、冒頭に述べた問題意識が生まれます。

私が抱く問題意識は、ずばり「スポーツチームとビジネス組織は全く違うモノである」と思い込んでいる人が世の中には多すぎる!ということです。

私は現在、2つの立場で仕事をしています。1つは先ほど述べたラグビー協会のコーチングディレクター。これはいわば「コーチのコーチ」です。具体的には、日本のあらゆるラグビーチームの監督やコーチを育成し、指導する立場です。そして、9月26日には、コーチングディレクターを兼職する形で、U20(20歳以下)ラグビー日本代表のヘッドコーチに就任することが決まりました。

もう一つは、25歳の共同創業者と共に立ち上げた、ビジネス組織、そしてスポーツチームのマネジメントをデザインするTEAMBOXというスタートアップの代表です。具体的には、あらゆる組織のリーダーやマネージャーに対し、マネジメントのトレーニングプログラムを提供することで、リーダー層を成長させ「組織の成果を最大化する」ことを目的としています。

どちらの場合も「GOALを達成するために組織をどうマネジメントするか」ということが本質的な課題です。そこにおいては、組織の業界や属性に囚われてはいけない。リーダーやマネージャーにとっては業界や属性とは全く関係ないのです。「組織をマネジメントして、求められた成果を出すか」が全てです。

スポーツ界だけをみても、競技が違うとマネジメントは全く異なるモノだと考えられています。マネジメントをデザインするスタートアップのクライアントの一つに、プロ野球チームがあります。最初にその某チームのコーチ陣と交わったときは、「ラグビーの人に野球がわかるのか?」といった態度を取られました。

しかし、何度も言うようにマネジメントにおいて、組織の属性や業界は全く関係ありません。例えば、野球界の名将、落合博満さんのような方が他のスポーツチーム、プロサッカーチームやラグビーチームを率いた場合、3年以内にそのチームを優勝に導けると確信しています。

同時に、ビジネス組織のマネジメントに優れたリーダーは、必ずスポーツチームを率いても結果を残すことができる、と思っています。

ここまでお話しすれば、もうNewsPicksの賢明な読者のみなさんは、今回の連載の意図についてお気づきでしょう。これまでの「マネジメント」という概念・価値観に疑問を投げかけ、破壊を起こし、新たに創造していくことを目的としたいと思っています。その概念革命を「マネジメント・シフト」と定義付けします。

あまりにも、大胆で、厳かでしょうか。しかし、これからの日本社会にとって「マネジメントの概念を変える」「もう一度創り上げていく」ことは、極めて大切なことです。以下、その理由を2つにわけて説明します。

(1)偉大なるプレーヤ、愚かなるマネージャー

日本の一般的な企業は、年功序列制度です。しかし、そのなかでも、いい結果を残した者、組織に益となる成果をあげた者は、より早く、上に昇進していきます。これらは、一見フェアで良い制度のように感じますが、これほど危険な制度はありません。

評価されて昇進する社員はいつだって「プレーヤー」として評価され、昇進することで「マネージャー」になるのです。ここに「プレーヤーとしては偉大だが、マネージャーとしては知識も経験も0の初心者」が誕生します。

しかし、組織はプレーヤーのときと同じように成果を求めてきます。偉大なプレーヤだった愚かなるマネージャーは、自分よりできない部下(プレーヤー)たちに対し、厳しく罵倒し、時に理不尽な様にまでなります。これはそのマネージャーの下で働く部下にとっても、成果を考える組織にとっても、プラスはありません。これが起こる理由はひとえに、マネジメントの概念を組織が持っていないからです。

(2)「マネジメント」に対する価値や評価が著しく低い

みなさんは「マネジメント」にどれくらいの価値があると思っていますか。そこそこ大切だとは認識されていると思いますが、「組織を劇的に変革する要素」としてはとらえていないでしょう。

しかし、マネジメントの価値を本質的に理解し、体現しているのが一流のスポーツ界です。現に、サッカー界で一番稼いでいるマネージャーはいくらもらっているのでしょうか。チェルシーFCというプロサッカーチームで監督を努めるジョゼ・モウリーニョは、年俸約13億円です。

彼は、プロプレイヤーとしての経験がなく、通訳からスタートしました。しかし現在、マネージャーという職でこの金額の報酬をもらっています。彼の仕事は「空気の創造と変革」。彼は、率いる組織全ての空気をつくり、変えているのです。これはつまり「組織を劇的に変革するモノ」として、マネジメントの価値を証明しているのです。

私は、この2つの特徴が日本の組織には根付いていると考えています。この事実を変えていかなければ、「組織として」よくなっていくことは限りなくゼロに近いでしょう。

逆に言えば、組織が「マネジメントの可能性」を考えなおし、概念や価値を新たに創造していくことで、素晴らしいリーダーやマネージャーが生まれ、素晴らしい組織や生輝環境が作られていくのです。

この連載では、一流と言われるスポーツチームのマネージャー(主に監督)と対談していきます。そして、スポーツチームのマネジメントにおいて、どのような考えや取り組みがチームとしての成果を生み出すことに繋がっているのか。具体的に何をどのように、そしてなぜビジネス組織のマネジメントに応用できるのか、ということを読者の皆様と一緒に紐解いていきたいと思います。

我々は、マネジメントの価値を再発明することに挑戦し、「マネジメント・シフト」していきたいと思っています。どうぞよろしくお願いします。

※本連載は、毎週水曜日に掲載する予定です