マネジメント・シフト-b

第1回:風間八宏・川崎フロンターレ監督(全3話)

組織の中に隠れたら終わり。まずは「個」を打ち出せ

2014/10/8
日本では、マネジメントの価値が十分に認識されていない。本連載では、マネジメントの価値を再発見し、「マネジメント・シフト」を起こすことを目標とする。中竹竜二・日本ラグビーフットボール協会コーチングディレクターが、一流と言われるスポーツチームのマネージャー(主に監督)と対談。ビジネス組織のマネジメントにも応用できる、マネジメントの本質を追求していく。

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選手を大暴れさせてあげる

中竹:マネジメントシフト連載の1回目は、ぜひ風間さん(風間八宏・川崎フロンターレ監督)にとお願いしました。風間さんは選手に考えさせることを貫いているように感じますが、なぜそういうスタイルに至ったのですか?

風間:球技の何が楽しいかと言えば、自由にボールを扱えて、自分の発想でできることだと思います。ボールを使って相手を翻弄する、というところなんですね、本来の楽しみは。だけど、小学校、中学校、高校となるにつれ、まるで職員室に入ったときのような雰囲気がチームに出てくる。僕は職員室が大嫌いだから、グラウンドにいるのに(笑)

中竹:わかる気がします。

風間:それは多かれ少なかれ、プロの社会でも同じです。僕自身、自分の色を出す前に、組織のために動くのは普通だと思っていた時期もありました。ある監督に、「お前が10割の力を出さずに、チームのためを考えて、もっと周りにプレーさせてあげてくれ」と言われたこともあります。でも、それは選手にとって一番嫌なことじゃないですか。

だからうちの選手には、「チームの利益のために、みんながいるのではない。個人の利益とチームの利益が一致しなければ、結果的に何も得られない。その両方を追求してくれ」という話をしています。

中竹:個々の人間は全然違う方向を向いていますよね? それを一致させるのはすごく難しいと思います。

風間:一番は、選手を信用することだと思うんですね。僕はドイツに住んでいたことがありますが、彼らはすごく自己主張が強い。強い意志を隠さずに、責任と権利を主張します。そこが日本人とはかなり違う。

海外の監督が日本に来ると、「規律や秩序が大事だ」とよく最初に言いますが、そんなに強い主張をする選手は日本人には多くいません。逆に眠っている力があるので、思い切り表現させてやらないといけない。

風間八宏(かざま・やひろ)

風間八宏(かざま・やひろ)●1961年静岡県生まれ。筑波大学在学中に日本代表に選ばれ、卒業後は5年間にわたってドイツのクラブでプレー。帰国後、マツダSCに入部。1992年からはJリーグのサンフレッチェ広島でプレー。現役引退後、解説者として活動する傍ら、桐蔭横浜大学サッカー部監督、筑波大学蹴球部監督を歴任。2012年に川崎フロンターレ監督に就任、2013年にリーグ3位に輝いた。

全部、表に出してしまう

中竹:よく、「個人より組織のほうが大事」と言われます。選手は「自由にやれ」と言われても、なかなか自由にできないと思いますが、風間さんは何と言うんですか?

風間:僕がまず言うのは、「目をそろえよう」ということです。チームのみんなで同じ基準を持ち、そこから自由な発想と成功を見つけていくのです。

たとえば、ボールを止める、蹴る、運ぶという定義は、最初は選手によって違います。でも、同じ認識を徹底して備えていくのがチーム。ボールをどうやって止めて、足下のどこに置くのか。個々がその認識を徹底し、みんなが同じ質、タイミングでプレーしようとすることが求められます。

そうやって個々が技術を高めることで、チームとしてもっと上を目指すことができる。互いにアイディアを出し合うことで、個人がチームとしてまとまっていきます。出発点として「目をそろえる」=「共通した技術へのこだわり」を持つことで、最終的にチームの意識が変わっていくのです。

中竹:つまり「目をそろえる」とは、細かいプレーの定義を具体化してあげる、と?

風間:そうです。ひとつの集団に所属していても、前に出る者もいれば、組織の中に隠れてしまう者もいます。だから集団に問いかけるのではなく、個々に話しかけることで、全員の力を上げるように持っていくことが大切です。

個々の認識が一致すると、みんながうまくなると思うんですよ。なぜならチームの中に隠れる場所がないし、わがままをやっている場所もないから。個々がうまくなるためにも、チームが強くなるためにも、共通認識の中でチームの色を見つけていくことが大事です。

中竹:個人がまずは自分を出さないと、チームは始まらない?

風間:そうなんです。チームのシステム論を理解させるより、個人が輝くために何をすべきかをまずは考えさせるべきだと思います。だから僕は、右サイドバックと左サイドバックにひとりずつ話をして、違う要求をする。全体のシステム論なんて、監督の僕が頭の中でわかっていればいいわけです。

中竹:なるほど。

風間:大事なのは、選手たちに要求を続けていくこと。選手が解消できなかったことは、彼ら自身に返ってくるじゃないですか。そうすると人のせいにしないで、またやってくれるので、彼らの理解が大きくなっていく。その代わり、こっちは選手の判断を否定しない。それが選手を信頼するということです。

中竹:風間さんの選手時代の経験が、すごくチーム作りに生きているんですね。

風間:そうなんです。相手に当たりにいってボールを取れないと、日本では「惜しいね」となるけど、ドイツでは「なんて弱いヤツだ」と言われる。僕はそこから始めました。外国人の僕はドイツ人以上に特別な存在にならなければいけないので、そこから自分が楽しむことを覚えていった。組織の中に隠れてしまうと、そこで終わりです。個人の色を前に出し、チームに利益をもたらせることをつねに要求されました。

ドイツと日本の評価基準の違い

中竹:ドイツと日本では、評価の基準が違うんですね。

風間:ええ。で、ドイツから日本に帰国して、ある監督に「お前がうまいのはわかっているけど、自分の色を抑えて、周りの選手を活かしてほしい」と言われたんです。それは僕にとっておもしろくないけど、チームは勝っていく。でも僕が自分の色を思い切り出したとしても、チームの利益を損なうようなことは絶対にしないわけですよ。当時の監督がそこまで選手に任せてくれていれば、チームはもっと上に行ったかもしれない。

そういう経験をして、個人とチームの利益は一致させなければならないと思いました。個人を出すことで、何がチームの利益になって、何がならないのかもわかってくる。だから自分が監督になったときには、「チームは気にしないでくれ」ということから始めました。

中竹:「チームを気にしすぎず、自分の色を出せ」と。全体の中でも個が最初にあるということですね。

風間:そういうことです。日本には個をポンって出せる選手がなかなかいませんが、うちには中村憲剛がいました。だからチームが成長していった。

中竹:日本人が個を出すのは難しいですよね。出さないように教育されてきたから。

風間:そうなんです。周りと逆の意見になると「僕は悪くない」って陰に隠れて、周りと同じだと安心する。でも、それでは力が伸びません。

中竹:個人の利益とチームの利益は、前提がそろえば絶対に一緒になると思います。しかも監督は、根底をでっかく握ったほうがいい。僕が早稲田大学ラグビー部を率いたときは、「身体が小さくても勝てることを、世の中に証明しよう」というのがテーマでした。細かい話をすると、「いや、そのやり方は……」と言い出す選手もいるんですけど、前提をそろえると、全員が同じ方向を目指して100%の力を出すようになる。

風間:そこですよね。目がそろわないと、チームはそろわない。それに個人の色も出そうとしない。先にシステム論を考えると、個人の目はそろわないんですよ。それぞれが、勝手に逃げてしまう。

中竹:うまくいかないことがあると、システムのせいになっちゃいますからね。

風間:そうなんです。「相手がこういうシステムだから、うちはこうしよう」と考えるのではなく、「俺たちがずっとボールを持っていれば、主導権を握れるから相手のシステムなんて関係ない。相手のシステムなんて、崩すものでしかない」と僕は言い続けている。

チームとして試合をコントロールできるようになるには、個々が技術を高める必要があります。それぞれに技術の差があるから、目を一致させる中で苛立ちもあれば、変化もある。でも、やり続けてくれたらいいなって思いますね(次回に続く)。

(構成:中島大輔、撮影:風間仁一郎)

※本連載は、毎週水曜日に掲載する予定です。全3回の対談掲載後、みなさんからのコメントを踏まえて、筆者が総括を行いますので、ご意見・ご質問などをお寄せください