2021/12/6

【疑問解明】頑張ってるのに、なぜ「自己肯定感」が低いままなのか

NewsPicks Brand Design シニアエディター
 アー・ユー・ハッピー? こんな言葉はあなたには虚しく響くだろうか。
 国連の関連団体が毎年発表する幸福度ランキング(世界幸福度報告)。日本は約150の国・地域中56位と今年も低空飛行を続けている。
 こんなデータもある。2014年に内閣府が実施した意識調査では、欧米諸国の約8割の若者(13歳〜29歳)が「自分自身に満足している」と回答した一方、日本の若者(同)は5割弱に止まった(以下グラフ参照)。
上のグラフが示しているのは、「次のことがらがあなた自身にどのくらいあてはまりますか。」との質問に対し、「私は、自分自身に満足している」に「そう思う」「どちらかといえばそう思う」と回答した若者の数。出典は内閣府による意識調査「我が国と諸外国の若者の意識に関する調査」(平成25年度)。
 なぜ幸福度と自己肯定感のデータを並べたかと言えば、この両者が緊密に結びついているからだ。
 日本の幸福学の第一人者、前野隆司・慶應義塾大学大学院教授は、「自己肯定感が高い人は幸せ、低い人は不幸せと言い切れるくらい相関が強い」と説明する。
 リモートワークが広がり、多くのビジネスパーソンが暮らしと仕事の両面から幸せを探る。だが、幸せの重要な因子となる自己肯定感が上下する仕組みを深く理解している人はきっと多くない。
 あなたは以下の問いに答えられるだろうか。
  • 責任感に突き動かされて仕事に打ち込むことは、自己肯定感を高めるのか?
  • 「目標の大きさ」と「目標をこなす数」、どちらが自己肯定感を高めるのに有効か?
  • 衣類ケア家電「LG styler」のようなハイテク家電に頼ってラクをすると、自己肯定感が下がってしまわないか?
 答えは前野教授が以下のインタビューで語っている。
 自己肯定感の適切な高め方や、幸福度を高める「ご自愛」の方法を知れば、あなたの人生の選択は大きく変わるかもしれない。
INDEX
  • いまの仕事は「やらされ」ていないか
  • 自己肯定感アップのポイントは「目標達成の量」
  • 単なるご褒美はNG? 適切な自分の「甘やかし方」とは

いまの仕事は「やらされ」ていないか

──コロナ禍で多くの人が働き方を見直しています。幸福の専門家としてこの状況をどう受け止めていますか。
前野 この時代に働き方について考えるのは自然なことだと思います。ただ、仕事の「やりがい」については注意が必要かもしれません。
 ワークエンゲージメントワーカホリズムという言葉がありますよね。どちらも仕事に没頭している点で似ていますが、実態は大きく異なります。
 前者は仕事にやりがいがあって、夢中になっている状態です。積極性や活力にも溢れています。
 片や後者は「やらねばならない」という責任感から仕事に打ち込んでいる状態で、やりがいがあるようで、その実やらされている。
 高い目標を掲げて頑張っていた人が、ある日ストレスで突然バーンアウト(燃え尽き症候群)になるケースがありますが、それはやらされていることをやりがいと錯覚していたために起きることだと思います。
 私の調査では40、50代の幸福度が低い。その世代で中毒的に働いている人は注意が必要です。
1984年東京工業大学卒業、1986年同大学修士課程修了。キヤノン株式会社、カリフォルニア大学バークレー校訪問研究員、ハーバード大学訪問教授等を経て現職。慶應義塾大学ウェルビーイングリサーチセンター長兼任。博士(工学)。専門は、システムデザイン・マネジメント学、幸福学、幸福経営学など。
──やりがいを感じているのか、やらされているのか見分ける方法はありますか。
 給料をもらえなくても、いまの仕事をやるかどうかを自分に問うことではないでしょうか。よくよく考えたらお金以外に働く理由がないのであれば、それでも続けるべきか、一度考えた方がいいと思います。
──収入が減ることに抵抗感がある人もいるかもしれません。
 たとえ収入が減ったとしても、40、50代からはやりたいことに少しずつシフトしていかないと後の人生がつらくなります。
 20代や30代前半なら、まだいいんです。「やらされ仕事」でも、やれば先輩が褒めてくれたりしますから。
 けれども、ある程度の年齢を超えると気軽に褒められなくなり、自分で自分を満たさなければならなくなる。
 では、どうやって満たすことが健全なのか。
 経済学者のロバート・フランクは、社会的地位や経済力など他者との比較によって満足感が生じるものを「地位財」、健康や愛情など他者との比較に頼らず満足を得る財を「非地位財」と整理しました。
 前者は短期的な幸せしか得られない一方で、後者は幸せが長続きすることがわかっています。
 幸せが長続きする働き方を目指すなら、地位材に固執せず、自分がどういうことにワクワクするのか、どんなことなら没頭できるのかを棚卸ししてみることが必要です。
 こんまり(近藤麻理恵)さんが言うところの「ときめき」による整理ですね。

自己肯定感アップのポイントは「目標達成の量」

──そもそもの話ですが、幸せを追求する上で「自己肯定感」は必要なのでしょうか?
 それは間違いありません。自己肯定感が高い人は幸せ、低い人は不幸せと言い切れるくらい強い結びつきがあります。
 私は統計から人が幸せを感じられる因子を四つ導き出しました(下図参照)。この中で特に自己肯定感と相関が強いのは「やってみよう因子」です。
 夢や目標を持ち、失敗を恐れない。主体性や積極性に富んだ行動特性ですが、これは自己肯定感の高さに裏打ちされたものと言えます。
「やらされ仕事」に取り組んでいても、この「やってみよう因子」が生じません。そのため、仕事に打ち込んでいるわりに自己肯定感が高まらず、幸せの実感も得られない。
 逆にワクワクする仕事は「やってみよう因子」が活性化するので、挑戦的で創造的な時間を過ごすことにつながり、自己肯定感も高まります。
──高い目標を掲げ、達成するシーンを想像しますが、果敢な挑戦をしないと自己肯定感は高まらないのでしょうか。
 いやいや、そんなことはありません。小さな目標で満足する人ほど幸福度が高いという研究もあります。
 大事なのはハードルの高さではなく「目標達成の量」です。アスリートにとっての五輪レベルであれば別ですが、一般論で言えば、数カ月や数年に一度の目標に向かうより、小さな目標を毎日クリアする方が幸せに近づくと考えられます。
 つまり重要なのはこまめに喜ぶことです
 小さな目標を達成した後、「こんなのできて当たり前だよね」と冷めた態度で受け止めると、「やってみよう因子」が活性化せず、自己肯定感も高まりません。
 たとえハードルの低い目標であっても、「やった!」「よかった!」とそのつど喜んで満喫する。「満喫力」の高い人は幸福度も高いんです。
──自分に厳しくならないことが鍵になりそうですね。
 等身大の自分を受け入れればいいんですよ。自身のポジティブな面に目を向ける「自己肯定」に対し、弱さやダメさも含めて自分をありのまま認めることを「自己受容」と呼びます。
「自己受容」ができるようになると、満喫もできるし、良い意味で物事の見方が変わっていきます。
──どういうことでしょうか。
 例えば、周りから見ると成績も良くて明らかに能力が高いのに、「私、ダメな人間なんです」と卑下する人がいますよね。
 他者評価は高いのに自己評価が低いのは、目を覆いたくなるような失敗や傷ついた過去をいまも引きずっているからかもしれません。
 それを乗り越える手段の一つとして、過去の辛い経験を直視し、そのことを第三者に伝えるというアプローチがあります。
 その過程で自身を縛る負の感情を昇華することで、自分のポジティブな面に目が向くようになったり、良い意味で開き直れたりする。
 自己受容が進むと、環境は何も変わっていないのに、物の見方が変わって自己肯定感が高まることがあるのです。
 コロナ禍で組織のコミュニケーション不足が問題視されていますが、自己受容を通じた自己開示は、物理的にも心理的にも距離ができてしまった同僚とかつての関係を取り戻す手段としても有効だと思います。

単なるご褒美はNG? 適切な自分の「甘やかし方」とは

──等身大の自分を見つめると、怠惰な性格が目につきます。「家事は手を抜きたい」という思いからテクノロジーやサービスに頼ってラクをした場合、かえって自己肯定感は下がりませんか?
 その発想はちょっと真面目すぎますね。
 現代人は新しいテクノロジーを取り入れて豊かになってきたわけですし、「ラクをする=悪いこと」という固定観念に縛られると生き方が窮屈になります。
 私の立場でこう言うのも何ですが、自己肯定感を無理に高めようなんて思わない方がいいですよ。
 自分に素直になって、幸せを心がけて生きていれば、自然と高まっていきますから。
──自分を甘やかしても良い、というのは福音です。
 人間、適度にサボることも大事ですよ。
 私が考える一番おすすめの「甘やかし」は、楽しみながら学ぶことです。
 旅行したい、美味しいものが食べたい…自分へのご褒美はなんでも良いのですが、そこに「旅行先で面白い人と出会う」「食を探求する」などと主体的な行動を絡めていく。
 行動にやりがいを与えることで単なる“ご褒美”にとどまらず、「やってみよう因子」も活性化します。また、人間関係が広がり、地域や社会に貢献する機会が生まれるかもしれません。
 利他的な人は利己的な人より幸福度が高い、という研究結果もあるので、社会貢献はおすすめです。
──そういった有意義な時間を確保するためにラクをするのは問題ないわけですね。
 幸せを得るためには、どうすれば自分が持続的に心地よくいられるかを理解し、先回りして行動を起こすことが重要です。
 たとえば、私の家では家事代行サービスを利用することがありますが、それによって妻の負担が軽減され、夫婦間の豊かなコミュケーションが増えています。
 これは幸せを引き寄せるためのラクと言えるかもしれません。
──衣類ケア家電「LG styler」のようなハイテクツールは、ポジティブなかたちでラクを叶えてくれそうです。
 今回その存在を初めて知りましたが、「LG styler」は有意義な時間を生み出すツールの一つだと思います。
 衣類を心地よい状態にキープしたり、日常的な家事の煩わしさから解放されたりすることで豊かな時間を過ごせれば、その分幸せに近づけます。
 自分がワクワクする環境を求める上で、ハイテク家電がその助けになるのであれば、遠慮なく使えばいいと思います。
 大切なのは、そこから心が満たされる時間を生み出すこと。ワクワクに向き合うことこそ、自己肯定感を高め、幸せに近づくシンプルなコツですよ。