2021/11/29

【全貌解説】なぜ今、世界は「モノ不足」の危機なのか

NewsPicks ジャーナリスト
世界が今、50年ぶりに訪れた「モノ不足」に揺れている。
震源地アメリカでは、自動車からおもちゃ、家具、アパレル商品の欠品が相次ぎ、「The Everything Shortage(何もかもが足りない)」の騒ぎが起きた。
他方、日本では自動車やゲーム機などを除けば、モノ不足を感じにくいかもしれない。
だが、実際にモノ不足は確実に広がっている。
この夏は一部の家電やカーナビが品不足で、小売店の商品棚から消えた。今、自宅の給湯器が故障したら、在庫不足で交換に1カ月以上かかり、それまでお湯が使えない生活を余儀なくされる恐れがあるほどだ。
このほかにも、コンビニや飲食店で唐揚げやポテトが相次ぎ販売休止に追い込まれた。
モノ不足はまた、価格上昇を引き起こす。今年起きたパンや冷凍食品、寿司などの「食品総値上げ」は、将来の食料不足を懸念させる。
また、従来のモノ余り社会からモノ不足社会へと移行すれば、マクロ経済の観点からも大転換となる。
過去数十年、不況といえば、需要不足によるモノが売れない状況を指してきた。ところが今後は、需要はあるが供給不足によって不況が発生する懸念が強まっている。
実際、黒田東彦日銀総裁やパウエルFRB議長は最近、「供給制約がリスク」と口にしている。日米の中央銀行トップが「モノ不足」が不況を招くと警戒しているのだ。
過去にさかのぼると、モノ不足が世界を脅かしたのは1970年代に起きた「オイルショック」だ。私たちは、オイルショック以来のモノ不足と対峙するのか。
そこでNewsPicksは今日から、ビジネスパーソンが知るべき「モノ不足経済」を特集する。
「クルマの納車が半年後」「発売から1年経ってもプレイステーション5が手に入らない」…。毎日のように、モノ不足のニュースがにぎわしている。
では具体的に、今どのようなモノが足りないのか。そして、そうしたモノ不足問題に共通する原因があるのか。
特集の初日は、そんなモノ不足にまつわる基本的な概要を解説する。
まず、前編では自動車やゲーム機など最近不足が問題となっている事例を紹介。そして後編では、理解をより深めるため、モノ不足の根底にある要因を解説する。
コロナ禍において、感染リスクの少ない「移動する個室空間」として車の需要は旺盛だ。
日本でも近隣への旅行など、車で移動する人が増えている。
しかし一方で、こうした需要の急増に供給が追いついていない。
多くの車種で「納車半年待ち」となり、トヨタ自動車の人気車種「ランドクルーザー」など1年以上かかるケースも発生している。
米国では新車不足によって、中古車価格が新車価格に迫るという、かつてない水準に押し上げられている。
CarstenKoall/GettyImages
大きな理由は、半導体の供給が追いつかなかったことだ。2021年初頭には日米の半導体工場が停止し、自動車各社は減産を強いられた。
そもそも自動車は総部品点数が3万点以上もある、超複雑な機械製品。3万点のうち、ネジやコネクタ1点でも足りなければ、クルマ作りに影響をきたしてしまう。
サプライチャーンのどこかが止まってしまえば供給に制限がかかるのだ。その複雑性からコロナのような緊急事態に弱く、ロックダウンの影響が直撃した。
直近では、2021年夏にベトナムなどでロックダウンが起きたことで、「ワイヤーハーネス」と呼ばれる自動車部品の供給も滞った。