【RS】当事者不在バナー

政府会議で見た「税金を食い物にする人たち」

日本の政治は、誰のためのものなのか?

2014/9/30

様々な構造上の歪みや不条理などによって、傷つけられてきた人たちがいる。

私たちの生きている社会はいま、圧倒的に弱い立場にある当事者たちの痛みや思いを感じとり、きちんと耳を傾け、丁寧に寄り添えているのだろうか。

立場ある者が、目先の営利や名誉、効率性ばかりを優先するあまり、こうした弱者の尊厳ばかりか、命にもつながる大切なものを見失ってはいないか。

これから記そうと思っていることは、長く当事者たちに接してきたジャーナリストとしての自分自身への問いかけでもある。

筆者は東日本大震災以降、学校管理下にあった児童74人、教職員10人が震災の津波で犠牲になった宮城県石巻市立大川小学校の惨事を取材してきた。

子どもたちを預けた親の頭に浮かぶのは、「学校現場でなぜ、こんなことになったのか?」というシンプルな問いだ。

しかし、遺族たちの問いかけに、石巻市教育委員会の説明は変遷を繰り返す。そして、市教委は真相究明を投げ出す形で、突然、第3者による検証委員会の設置を市議会に提出。遺族から猛反発を受けて、文科省が案件を引き取る形で乗り出した。

2012年11月3日、文科省は非公開で遺族と市教委、県教委を集めて「4者円卓会議」を開いた。

しかし、「円卓会議」という言葉の響きから想像できる一般的なイメージとは違い、その場は録画や録音も禁じられ、文科省が検証の方向性を説明。遺族から質問を受けるという一方的なスタイルだった。

会議では「遺族からはとくに反対意見は出なかった」とされた。しかし、出席した父親のひとりは、こう振り返る。

「とても反対意見を言える雰囲気じゃなかった」

【RS】当事者不在石巻

震災後の政府会議では石巻市民の声が無視され続けた

御用学者が実の娘を、政府会議メンバーに指名

同年11月25日、2回目の「円卓会議」で、文科省は、委託先として、防災コンサルタントの候補を遺族側に提示。

待機していたコンサル代表者が、まだ随意契約を結ぶ前にもかかわらず、会議の途中に招き入れられ、遺族に自己紹介した。

続いて、検証委員の候補名が読み上げられ、委員候補のプロフィール、検証の要綱案、事業の仕様書案などの詳細な資料は、当日、遺族の元に配布された。

その中には、多くの犠牲者を出した宮城県第3次被害想定調査の津波ハザードマップの作成に門下の研究者が牽引した、津波工学の東北大学名誉教授も含まれていた。

しかも、この教授と防災コンサル代表者とは父娘の関係だったが、文科省は「たまたま親子だった」と釈明。かねてから遺族側が訴えていた「宮城県の専門家は外してほしい」との願いは、踏みにじられた。

何よりも、すでに2年にわたって情報収集を続けていた遺族を「真相解明のために検証委員に入れてほしい」との要望は、「公正中立」という名の下で排除された。

「今後、文科省、県の教育委員会の指導の下で、公正中立な事故検証を進めていくという方向でよろしいでしょうか」

一部の遺族から拍手が起きたのを受け、文科省の官房長が「本日は、この方向でご賛同いただいたと認識させて頂きます」と引き取る。遺族の賛否の意を確かめることもなく、実に手際のいいやり方だ。

第三者委員会に求められる「公正中立」とは、誰から見たものなのか。

消えた5700万円。人選も設計も失敗だらけ

結果的に、2014年2月に出された検証報告書は、目新しい事実を何1つ解明できないまま終わった。

多くの疑問が残されたまま、報告書に記された結論には、なぜそのように認定されたのかのプロセスも根拠も明かされることがない。そして、5700万円の税金だけが検証委員会の「経費」として消えていった。

「遺族からは、避難行動の遅れた原因を検証してほしいとお願いしていたにもかかわらず、出てきた報告は、避難行動を決定するのが遅れたのが事故の原因という結論と、一般論でもわかる24の提言。1年もかけて、膨大な税金を注ぎ込んで、いったい何をやっていたのでしょうか」

8月24日、仙台市内で開かれた「親の知る権利を求めるシンポジウム~学校事件事故に関する第三者委員会のあり方を考える~」(NPO法人・ジェントルハートプロジェクト主催)で、大川小児童遺族の父親の1人は、そう検証委員会のあり方に疑問を投げかけた。

文科省は、当事者の意向を聞いた形にはなっている。しかし、その意向を反映させるノウハウも仕組みもない。だから、当事者たちの気持ちは無視され、一方的に検証の場から排除された格好になる。

結果的に、文科省主導で進められた大川小学校検証委員会は、人選も設計も失敗だらけだった。

次第に歪みが噴き出しつつある、この国の制度。そんな社会の被害者ともいえる当事者の意向が反映されない1つ1つの仕組みは、いったい誰のために、設計されたものなのか。そろそろ皆で検証すべきときに来ている。

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