2021/9/30

地域から日本は変えられる。「挑戦する風土」を再構築せよ

NewsPicks Re:gion 編集長
“地域性をビジネスの熱に変える”を掲げるNewsPicks Re:gionは8月、福岡市にて第一弾カンファレンス「NewEra,NewCity」を開催した。多様なテーマでの議論が繰り広げられたプログラムのうち、本記事では「地域から日本を変える方法」が語られたオープニングセッションの様子をお届けする。
INDEX
  • リスクを取る人が尊敬される国へ。福岡の挑戦
  • 一極集中から分散へ。都市の生態系が変化
  • 国際基準の「新しいプロトコル」を当たり前に
  • 広域戦略を描き、推進できるリーダーとは

リスクを取る人が尊敬される国へ。福岡の挑戦

石山 本イベントの舞台でもある福岡市は、近年、日本有数の「成長可能性都市」として注目を集めています。
 人口減少トレンドの中、福岡市は政令市のなかで人口増加数/率ともに1位をマーク。市税収入も7年連続で過去最高額を更新し続けるなど、まさに“成長している都市”です。
  2014年からは国家戦略特区として大胆な規制改革を進め、2020年には国が推進する「世界に伍するスタートアップ・エコシステム拠点」のグローバル拠点都市にも単独自治体で唯一選定されています。
 取り組みをリードする髙島市長は、とても挑戦的な変革を数多く仕掛けてきました。そして福岡市そのものを「チャレンジできる街」にしようとされています。その背景にはどんな思いが?
髙島 私は1974年生まれの46歳で、いわゆる“団塊ジュニア”です。
 小中高では1学年10クラスが当たり前というくらい同世代が多く、進学や就職の競争率は高かったですね。しかしバブルがはじけて、同期には就職できない人がたくさんいました。
 私は運よく就職できましたが、頑張って働いても景気は落ち込む一方。ボーナスが減って収入は増えないという経験をしてきました。
 当時それは仕方ないことだったかもしれません。でも、それで納得していいのでしょうか。日本はもう成長できない国なのでしょうか。
 少なくとも私は子どもの頃、日本は自動車や家電で「世界一の国」だと思っていました。
 でも今の子どもたちは、そうは思っていません。「本当は中国やアメリカにも負けないポテンシャルがある国なんだ」と言っても、信じてはくれないでしょう。
 私は日本全体が「スタートアップの精神」を取り戻さなければいけないと思っています。自分たちの手で成長を作るために、多くの挑戦が必要です。
 ただ、今回のコロナ禍で可視化されたとおり、国が変わるというのはとても難しく、時間がかかります。
 だから、まず地域から変わるべきなのです。あらゆる点において、中央よりも地域のほうが挑戦しやすいからです。
 福岡市でチャレンジの風土を作り、成功例をどんどん生み出すことで、それを日本全体に広げていく。それを願って、さまざまな取り組みを進めています。

一極集中から分散へ。都市の生態系が変化

石山 地域が自分たちで挑戦し、成長を作っていくことが必要なのですね。
 一方、葉村さんは都市の未来に向けて多くのプロジェクトに携わる立場として、今回のコロナ禍が都市や地域にどんな影響を与えたとお考えですか?
葉村 人々の働き方、暮らし方といった行動様式が変わることで「都市の生態系」は変化します。コロナ禍は、われわれの生活における“リアルとバーチャルの主従逆転”の転機となりました。
 もはやビジネスパーソンは1日の大半をオンラインで過ごし、バーチャル空間でビジネスを完結することが可能になっています。
 これまで都心に一極集中していた人・物・お金といった資源が、より広い範囲で循環するようになることで、新しい「都市の生態系」を構築していくわけです。
 面白いですね。都心部だけでなく、郊外や周辺地域までを含めて「都市」というひとつの生態系として捉えるわけですね。
 日本全体という大きな生態系に当てはめて考えると、「都心部」は東京で、周辺にある「エッジシティ」は大阪や福岡といった地方都市ということになりますよね。
 福岡に当てはめるなら、「都心部」は博多で、「エッジシティ」は春日や大野城かもしれない。
葉村 その観点がとても大事で、都市の生態系は「フラクタル構造」になっているんです。
 ニューヨーク・ロンドンなどの国際都市を頂点としたグローバルな都市の生態系もあれば、東京を頂点に日本全国を圏域とする都市の生態系もある。
 また、福岡市を中心に周辺都市で構成される生態系もあり、さらには福岡市の外にある大野城市のような都市を中心とした生態系もあります。
 そこで重要なのは、各地域はバラバラに独立して存在しているのではなく、周辺地域との関係性のなかで人・物・お金が循環しているということです。
 そして、コロナ禍によって、そのようなフラクタル構造に変化を引き起こしえると考えます。
 福岡市は、既に東京を中心とした生態系とは別に、アジアをフィールドとした生態系へと自ら飛び込んでいっていますが、その生態系での地位をより高めていくべきフェーズへと移行していくでしょう。
 おそらく、全国の政令市にも、海外も含めて生態系を再構築する機会があるはずです。 
 これまで東京一極集中に成長エンジンを依存してきた日本が、全国の政令市を中心とした「分散型」の生態系へ移行することで、東京だけでなく、政令市も国全体の成長のエンジンへと変革するタイミングとなるかもしれません。

国際基準の「新しいプロトコル」を当たり前に

石山 福岡市は「アジアのリーダー都市」を掲げていますが、もともとアジアが近いため、歴史的にも古くからグローバルとの接点がありましたよね。
 その通りで、福岡は急にアジアやグローバルとの交流を始めた地域ではありません。
 たとえば、弥生時代に中国の古代王朝「後漢」から受け取った「金印」が出土したのは、福岡市の志賀島です。
 福岡は、違う言葉や価値観、文化が最初に大陸から入ってきて、日本中に伝えた歴史があり、その役割はこれからも変わらないと思っています。
石山 葉村さんに伺いたいのですが、福岡がグローバル都市として勝ち抜いていくために、何が重要だと思いますか?
葉村 ひとつのポイントは、グローバルな競争における「新しいプロトコル」を常にインストールし続けることです。プロトコルとは、作法やマナー、あるいは仕様や様式と言い換えてもいいかもしれません。
 常に変化する「新しいプロトコル」を当たり前に実装できていることが、グローバル都市の成立条件だと思います。
 それは福岡市でも経験があって、先日、国際金融都市として香港やシンガポールから企業を誘致する活動をしていたんです。
 そのプレゼンテーション中に、誘致先の企業から「入居予定のビルの電源は“何由来”ですか?」と問われたんです。
石山 つまり、「再生可能エネルギー由来の電源かどうか」が問われたわけですね。
 まさに。サステナビリティへの貢献という「新しいプロトコル」が都市として実装できているか否か、当たり前のように問われた経験です。
 今回、コロナ禍で東京オリンピック・パラリンピックが開催されました。その賛否はいったん置いておくとして、日本にどんな成果が残ったでしょうか? それは「立派な競技場」などでは決してありません。
 オリ・パラが日本に残したのは、世界から大きく遅れていたダイバーシティやサステナビリティに対する考え方を、一気にアップデートする機会になったこと。
 これは最大のレガシーだと思っています。

広域戦略を描き、推進できるリーダーとは

石山 先ほど、都市は周辺地域との関係性のなかで存在するというお話が出ました。都市が周辺地域とよりよく連携するために、何が必要でしょうか。
葉村 鍵を握るのは、人・物・お金が広く流通する都市全体を、リーダーがいかにデザインできるかですね。周辺地域が担う役割もきちんと落とし込まないといけません。
 福岡都市圏に限れば、2010年に福岡地域戦略推進協議会(FDC)を立ち上げて、企業と行政が一緒に成長戦略を作っています。
 行政には成長戦略を福岡市全体のマスタープランに落とし込んで推進できる体制を作り、行政がすぐに動けない領域はFDCが前面に立つ。このエリアでの官民連携はうまくいっていますが、九州やアジアを含めた広域戦略となると難しいんですよね。
 たとえば、九州新幹線が開通したとき、九州各県から担当者が集まってPR戦略についての議論がありました。
 その結論は、「新幹線のルートにある県をPRすると格差が広がるから」と、ルート以外の県をPRしようということになったんです。
 つまり、全体最適のための選択と集中の議論にならなかった。これは大きな課題だと思っています。
 葉村さんは、アジアも含めた九州全体の成長戦略を描くとき、誰がリードするのが理想的だと思いますか?
葉村 仕組みとして「道州制」のようなものを導入するのは、ひとつのオプションだと思います。
 現時点では、県知事会や経済団体のなかで、きちんとビジョンを描けて発信できる立場の人が良いのではないでしょうか。国や経済団体などとの政治的調整も必要になりますしね。
 道州制は私も良いと思っています。実際に九州地方知事会と地元の経済団体と集まって「九州府」構想を打ち出しています。
 これが実現すると、九州全体としての広域戦略を展開しやすくなるんです。
 たとえば福岡県限定で生産されているイチゴの「あまおう」をグローバルで安定供給するために、九州全体で生産するかというと、「待った」がかかってしまう。
 こういった現実を九州全体としての広域戦略のなかでどう乗り越えるのか、また広域戦略の視点を持つリーダーを誰が担うのか、考えなければいけません。
石山 ありがとうございます。最後に、福岡から日本を変えようとしている髙島市長から、メッセージをお願いします。
 長引くコロナ禍で、みんなしょんぼりしていますが、元気があれば何でもできます。この先、寿命は30年40年あったとしても、そのうち元気に働ける時間は何年あるかわかりません。
 残された時間がほとんどないとしたら、私は黄金期を向かえないまま役割を終えることになってしまう。だから、必死にもがいています。
 私が作りたいのは、次の世代の人たちが「自分たちで世界を変えていける」と思えるような、チャレンジできる風土と実例です。
 東京や大阪といったメガシティではなく、それを福岡から作ることができたら、仙台や広島といった都市に波及していき、より大きな波になっていくはずです。
 だからこそ、福岡を世界に挑戦できる場所することで、日本全体を変えていきたい。最速のスピードで実現させたいと思っています。