2021/7/17

【無料公開】今知っておきたい、コロナワクチン16のQ&A

NewsPicks 編集部 記者
全国でワクチン接種が進んでいる。
高齢者を中心とした大規模接種の他に、現役世代の職域接種も進み、いまや新型コロナワクチンは、多くの人にとって一気に「身近」な存在になりつつある。
一方、新規のワクチンだけに、誤情報やデマがSNSを介して広がり、接種に不安を募らせている人も少なくない。
そうした不安や疑問に応えるべく、NewsPicks編集部は、SNSチャットボット「コロワくんの相談室」などを通してコロナワクチンの正しい情報の普及に努める米国内科専門医の山田悠史氏と産婦人科専門医の稲葉可奈子氏に取材。
最新のデータに基づき、ワクチン接種の「副反応」に関する知識や誤解、接種時の注意点などについて丁寧に解説してもらった。
現時点でわかっているワクチンの「リアルな情報」を、Q&A形式でとことん整理していこう。
INDEX
Q1. ワクチンの副反応にはどんな種類がある?
Q2. そもそも何のためにワクチン接種するの?
Q3. 新型コロナに感染したことがあったら、接種しなくていい?
Q4. 変異株にも効くの?
Q5. 接種ができないケースは?
Q6. ワクチンで血栓症が増えることはある?
Q7. 副反応がない=ワクチンが効いていないって本当?
Q8. 副反応の現れ方は「体質」によるの?
Q9. 副反応が出た時の対処法は?
Q10. 「ワクチン」と「接種後の死亡者数」に関連はある?
Q11. モデルナとファイザー、どっちのワクチンがいいの?
Q12. 接種日のお風呂やお酒はOK?
Q13. 接種後に「検診」って受けてもいい?
Q14. 妊娠中、授乳中でも接種していい?
Q15. ワクチンで「不妊」になる心配はない?
Q16. 職域接種はどう進めればいいの?
──いま全国でワクチン接種が進んでいます。接種後に現れる「副反応」にはどのようなものがあるのでしょうか?
山田 まず、よく気にされるのが「痛み」ですね。全体でおよそ80〜85%の人が痛みを訴えていますが、軽度なものがほとんどで、薬を用いるような深刻な痛みがあったとされるのは、100人に1〜3人ほどです。
次に「発熱」。12〜25歳の若年層では、38度を超えた人が約20%と報告されています。微熱も含めれば、解熱剤を使う必要のあった人は2回目のワクチン接種で50%で、40度を超えるような人は、0.1%しかいないとされています。
発熱の持続期間は通常1~2日で、他の症状を含め、3、4日を超えて症状が持続することはほとんどありません。
他に、倦怠感や頭痛、寒気、吐き気や嘔吐などの副反応が起こることもあります。
山田 25歳以上の成人については、アメリカで300万人のデータから見た報告がありますが、若年層のデータと比べても、大きな違いはみられません。
──年齢によって副反応の現れ方に違いはあるのでしょうか。
山田 一般的に高齢なほど発症頻度が低く、若いほど高い傾向にあります。
これは「免疫応答」が若い人ほど鋭敏であることが主な理由とされていますね。
山田 実はプラセボ(偽薬)でも症状を訴える人が意外と多いという事実もあります。
例えばワクチンの成分がまったく入っていない「塩水」を注射した場合でも、40%の人が同じように倦怠感を訴え、20〜30%の人が頭痛を訴えています。
接種後に頭が痛くなったから「これはきっとワクチンによる症状に違いない」と思ってしまうわけです。偽物でもこれだけの人々が症状を訴えているので、症状があっても、必ずしもワクチンの成分によるものではないということです。
──副反応への不安などから「ワクチンを接種したくない」という人もいますが、改めてワクチンを接種する意義とは何かを教えてください。
山田 ワクチン接種には数多くの効果があります。
まず、ウイルスへの感染を予防してくれる「感染予防」や、感染しても症状が出にくくなる「発症予防」、それから仮に発症しても重症化しない「重症化予防」。そして、重症化したとしても死には至らない「命を守る」効果もあります。
世界各国から根拠となるさまざまな報告が出ていますが、最大規模とみられるのがイスラエルからの報告です。
山田 米国からも、仮に感染しても体内のウイルス量が少なかったり、あるいは発症した人でも熱が出にくかったり、もしくは病気の罹患期間を短くできたりする効果が最近、報告されています。
イギリスからは、1回接種後のデータを分析し、接種後21日が経過した時点で、家庭内感染を40〜50%減少させたという報告も出ています。
つまり、自分が接種することで一緒に暮らす家族を守ることができるということですね。子どもがまだ小さくてワクチン接種対象外だとしても、両親が打つことで子どもを守ることができるのです。
──ワクチンの効果はいつ出るのでしょうか。
山田 ワクチンの効き目が出るタイミングについては、すでにアメリカで研究が進んでいます。明確に言えることは、「2回目のワクチン接種から2週間後に強い効果が得られる」ということです。
アメリカでは、これを正しく理解していた人は4割しかいなかったというアンケート調査がありますが、きちんと知っておいた方が、接種後の経過に関する判断もより正しくできるでしょう。
──コロナに感染したことのある人は、すでに体内に抗体ができているからワクチン接種の必要がないのではないか、という人もいます。
山田 これも誤解の多い話ですね。結論から言うと、過去に感染した人も接種する必要があります。
南アフリカで発見された新型コロナの変異株が、過去に感染した人の免疫を突破して感染する例がすでに知られており、過去に感染した人でも、変異株によって再び感染するリスクがあるからです。
感染経験のある人でも、ワクチンを打てば再感染から守ることができる、という報告もすでにあります。
──ファイザーやモデルナのmRNAワクチンは、変異株にも効くのでしょうか。
山田 基本的には、変異株にも総じて効きます。ただ、その種類によっては少し低下する可能性があります。
カタールからの感染予防に関する報告によると、英国で初めて見つかった「アルファ株」に対する有効性は89.5%。南アフリカ由来の「ベータ株」に対しては75%と、ベータ株への有効性はやや減少するとされています。
インドで見つかり、日本でも広がりつつある「デルタ株」については、まだ査読された論文がありませんが、未査読の論文で、発症予防に関するファイザーのワクチンの有効性がおよそ90%だったと報告されています。
また、重症化を防ぐ効果については、変異株を含めた全体での有効性が97.4%と高く、変異株に対しても重症化は防げる確率が高いことが報告されている。
ですから、やはり変異株対策としても、ワクチン接種は重要です。
──ワクチン接種ができない人もいるのでしょうか。
山田 唯一、1回目のワクチン接種後に「アナフィラキシー」を発症した場合だけは、2回目のワクチン接種対象から外れてしまいます。
〈アナフィラキシー〉
薬や食物に含まれるアレルギー原因物質などによって引き起こされる、重篤なアレルギー反応。症状としては、じんましんなどの皮膚症状、腹痛や嘔吐などの消化器症状、息苦しさなどの呼吸器症状がある。その中でも特に、血圧低下や意識レベルの低下などを伴うものを、「アナフィラキシーショック」と呼ぶ。
しかし将来的な可能性として、今後アナフィラキシー反応が出た方々には、別の成分のワクチンが受けられるようになるかもしれません。
例えば今、ノババックスの組み換え蛋白ワクチンのように、mRNAワクチン以外のワクチンも幾つかの企業で製造されています。
──アナフィラキシーは多くの場合、助かると言われていますね。
山田 すでによく知られているように、コロナワクチンによるアナフィラキシーの発症頻度は100万回に5回程度とわずかで、すぐに対応すればほとんどの人が助かる症状です。もし症状が現れた場合には、一晩入院して、その後退院になることがほとんどです。
発症までの平均時間は、今のところ接種後「17分」程度と報告されています。
──過去に食品などでアナフィラキシーを起こしたことのある人でも、ワクチンの接種は可能ですか。
山田 基本的にコロナワクチンと食品では、アナフィラキシーを起こす成分がまったく異なるので、問題なく受けられます。
山田 副反応についての誤解が多いものに「血栓症」の話があります。
まず、日本で使われているファイザーとモデルナのワクチンについて、血栓症の発症報告はありません。
アストラゼネカのワクチン接種後に血栓症を発症した人がいたことから、「モデルナやファイザーでも起こる可能性があるのではないか」と拡大解釈されて広まったのです。
もっと問題なのは、「ワクチン接種後に低用量ピルを飲んではいけない」というさらに大きな誤解も広がってしまったことです。
(写真:Mindful Media / iStock)
山田 低用量ピルのリスクの一つとして血栓症が増えることはよく知られていますが、ワクチン接種によって血栓症が増えすぎるのでは、という誤解を招いているのです。
繰り返しますが、ファイザーやモデルナのような「mRNAワクチン」で血栓症が増加した報告はなく、低用量ピルを飲んでいる人が服用を控える必要もありません。
──SNSなどで、「副反応がなければ、ワクチンが効いていない」といった言説も出回っています。
山田 これは明確にウソです。
稲葉 接種翌日もまったく痛みや症状がない人は10%程度いるようです。
ワクチン注射時に間違って生食(生理食塩水)を打ったという報道もあったので、副反応がないことで不安を感じる人もいますが、症状がないことはあり得ます。
稲葉 副反応があってもなくても、それはワクチンの効き目とはまったく関係ありません。「症状がなかったらラッキー」と思っておいていいのです。
山田 実際、僕もワクチン接種しましたが、肩こり程度しかなかったですよ。
──副反応の現れ方は体質によると言われたりしますが、「体質の差」に関する科学的な根拠はあるのでしょうか。
山田 「体質の差」というのはぼんやりと語られている言説でしかなく、科学的な論拠を持って明確に言えることは何もありません。
稲葉 副反応が現れるかどうかは、本当に偶然としか言えませんね。
──副反応への対処法としてどのような準備が必要でしょうか
山田 やはりまずは、接種翌日は少なくとも休みを取れるようにしておくか、大事な仕事を代われるようにしておくことですね。
特に副反応の生じる確率は2回目の接種後に高まる傾向にありますから、休めるようにした方が良いでしょう。もちろん仕事できる可能性もありますが。
(写真:by Alfian Widiantono / Getty Images)
山田 一人暮らしの方は、熱が出ると買い出しに行けなくなったときのために、飲み物や食べ物を多少は準備しておくといいかもしれません。
念のため「解熱鎮痛薬」を用意しておくのも良いです。
市販の頭痛薬などで十分ですが、いわゆる「総合感冒薬」には、解熱剤以外に、痰を柔らかくする薬や、やや眠気を誘う薬など、別の成分も多く混ざっています。それはそれで良くないので、総合感冒薬ではなく、生理痛の薬や頭痛薬などを使っていただければいいと思いますね。
稲葉 解熱鎮痛薬については、「アセトアミノフェンじゃなきゃいけない」と、誤解して買いに走る人も多いようですが、妊婦さんや腎臓の悪い人などでない限り、市販の常備薬で問題ありません。
──薬を飲む目安は。
山田 僕がよく外来でお話ししているのは、「数字を見なくていい」ということです。
「38度を超えたら使ってもいいが、37度9分はダメ」といった、明確なカットオフをする必要はありません。しんどかったり、だるかったりしたら、ちゅうちょせずに使ってください。
あとは、熱が出ると汗をかくので、水分をいつもより多めに摂るように心がけましょう。
稲葉 いざとなった時に受診できる診療所や病院を見つけておくのも大切ですね。
特に若い世代は、かかりつけの病院がない人が多いですよね。
症状が重くなった時に備え、「どこで受診するか」をなんとなく頭に置いておくと、いざしんどくなっても焦らないで済みます。
──重めの副反応が出た時に、医療機関を受診するタイミングの目安はありますか。
山田 結論から言うと、「少しでも心配であれば受診してください」です。
公的機関が出している基準としては、例えば発熱を含む症状なら一般的には1〜2日で治まるとされています。
逆に言うと、2日や3日を超えて続く場合は外れ値になるということなので、おかしいと思って受診してください。たまたまワクチン接種直前のタイミングでコロナに感染したことで発熱していた、というケースもありますから。
他にも、例えば皮膚の赤みが1〜2日を超えて悪化が続く場合にも、違和感を持ってもらいたいです。赤みが治まらず広がってしまうのは、例えば注射針によってばい菌の感染を起こした可能性もあるからです。
ただ、繰り返すようですが、数字はあくまで目安です。
実際にあった話で、ワクチン接種翌日に心筋梗塞を起こす人もいます。
そのときもし、「ワクチンの副反応かもしれないから2日間は我慢しよう」と言っていたら命の危機に晒される。数時間以内に医者にかかれば助けられる病気で、タイミングを逃し、命を落としてしまう可能性があるのです。
ですから、基本的には「心配だと思ったら連絡する」というスタンスでいいと思います。
──ファイザーとモデルナのワクチンについて、それぞれの接種後の死亡者数の実数で比較するような記事も出ています。
山田 ひどい報道です。基本的にワクチン接種が理由で亡くなった方の数は「ゼロ」と考えてください。
厚労省も、ワクチンが原因と考えられている死亡はないと発表しています。
ワクチンのメカニズムから起こり得る病気を考えても、ワクチンによって死亡したと考えられるケースは、今のところファイザーやモデルナなどのmRNAワクチンにはないと言っていいです。
ワクチン接種後の死亡者数のデータは、接種後のタイミングで、ワクチンと関連のない病気、あるいは事故で命を落としてしまったものを報告しているということなんです。
日本では1年間に130万人以上の人々が亡くなっているので、概算すると1日あたり3500人ほどのペースで亡くなっていることになります。
ワクチン接種が広がれば、接種後のタイミングで偶然、命を落としてしまう人が増えていくことは不思議ではありません。
稲葉 例えば「急性心筋梗塞」などは、受診するタイミングを逃すと、そのまま亡くなってしまう可能性の高い病気です。
日本における急性心筋梗塞による年間死亡者数は3万人以上です。
つまり、1日あたり100人近くの方が心筋梗塞で亡くなっていると考えると、毎日100万人以上が接種しているタイミングと重なる可能性は十分にあり得ますね。
山田 もう少し踏み込んで話すと、ここには2つの視点を持ち込むことができます。
一つは、病気によって亡くなった場合に、ワクチンのメカニズムと病態との関連性を考える視点。
もう一つは、先述した年間130万人以上という全国の死亡率と、ワクチン接種後のタイミングで命を落としている方の確率を比較し、ワクチン接種後に急激に増えている傾向が見られれば、ワクチンが何らかの影響を与えている可能性が考えられるというものです。
しかし、現時点ではいずれの視点からも関連性はみられません。
以前、ワクチン接種後に「くも膜下出血」を起こして死亡した事例についての報道がありましたが、これに関しても、ワクチンのメカニズムが影響して血管にこぶを作って破裂させるような事象は全く考えられない。
こうした観点から、「ワクチン接種」と「接種後の死亡」に因果関係がある可能性は、極めて低いのです。
──こうしたウワサが広まると、特に、高齢で持病を持っている方などは、重症化しやすいのにもかかわらず、接種にちゅうちょしてしまうのではないでしょうか。
山田 その通りです。持病を持った方には、コロナで亡くなるリスクが高い高齢の方々が多いので、本当に早期にワクチンを打っていただきたいです。
──モデルナ製とファイザー製で、どちらがいいのか迷う声もあります。
稲葉 この類の疑問はよく聞きますが、どちらもmRNAワクチンで、有効性も副反応の頻度も大きな違いはありません。どちらでも、早く接種できる方でいいと思います。
山田先生がよくコーラに例えていますよね。
山田 そうですね。「ペプシ」と「コーク」はどちらもコーラの種類ですが、どちらでも好きな方を飲みますよね。それと同じで、どちらでもいいんです。
その意味では、身近に接種できる方を選ぶのがいいでしょうね。
──ワクチン接種当日の入浴は問題ないのでしょうか。
山田 入浴した人としていない人で副反応が増えたかどうかを検証した研究がまだないので、科学的な根拠を持って話すことは難しいですが、基本的に問題はないだろうとされています。
避けるとすれば、高熱が出た場合です。さらに注意点を言うとすれば、接種部位をあまり強くこすらないことくらいですね。
──飲酒はどうですか。
山田 ニュージャージーやニューヨークでは、ワクチン接種者にお酒を配っているところもあるくらいですが、程度の問題です。
例えば接種後に、飲み会に行ってコールをかけて激しい飲酒をするというのはもちろん良くない。場合によっては、飲酒で血行が良くなることで痛みを助長してしまうこともあり得ます。
とはいえ、過度の飲酒でなければ問題はありません。
(写真:Capuski / Getty Image)
稲葉 実際、明確に禁止されているわけでもないので、ワクチン接種当日にお酒を飲む方は多いですよね。
ただ、2回目のワクチン接種後であっても、免疫が十分につくのは2週間後なので、その日のうちに急に羽を伸ばして大勢で飲み会を開くのはNGです。
山田 ワクチン接種後の乳がん検診については、注意が必要です。
特にモデルナ製で多く報告されている傾向ですが、ワクチン接種後に、主に接種をした腕側の「腋の下のリンパ節が腫れる」という副反応が知られています。
このタイミングで乳がん検診を受けると、「乳がんのリンパ節転移」が疑われるかもしれません。つまり、ワクチンが要因なのに、乳がんのように見えてしまう可能性があるのです。
もし今年、乳がん検診を予定されている方は、ワクチン接種前に受けるか、2回目の接種から1カ月以上は間を空けて検診を受けると、不要な誤解をされる可能性を避けられます。
──妊娠中や授乳中の方は、ワクチン接種しても大丈夫ですか。
稲葉 接種して大丈夫ですし、むしろ接種した方がいいです。
妊娠中はどうしても子宮が大きくなってくるので、コロナに限らず、インフルエンザや、他の肺炎でも、横隔膜が圧迫されて、肺炎が重症化しやすい。
そうしたことから、妊婦さんのコロナ感染時の重症化リスクは高いと言われています。
(写真:YDL / Getty Images)
稲葉 お母さんの状態が悪くなるのも困りますし、もしお母さんが重症化すると酸素状態が悪くなることで赤ちゃんへの酸素供給が滞り、赤ちゃんが仮死状態に陥ることや、子宮内胎児死亡という事態もあり得ます。ワクチンで予防しておくに越したことはありません。
ワクチン接種による胎児への影響はみられないことも報告されています。
──副反応で発熱することで、お腹の子どもに悪影響は出ないでしょうか。
稲葉 発熱するかもしれませんが、副反応は予想できるので心の準備もできますし、解熱剤などで予防もできます。
それよりも、お腹が大きい状態でコロナにかかって、長期的に発熱や肺炎、さらにその他の諸症状を起こす方がよっぽど怖いです。
──授乳中の方は、ワクチン接種後も母乳をあげて大丈夫ですか。
稲葉 問題ないですね。むしろお母さんの体内で産生された抗体を、母乳を通じて赤ちゃんに分け与えることができるとされています。
実際にそれで赤ちゃんがどれだけ感染予防できるかまでは、まだ明らかになっていませんし、mRNAワクチンの成分自体は移行しません。
でも、お母さんにできた抗体を、赤ちゃんにプレゼントできることが確認されているんです。
(写真:Paulo Sousa / EyeEm / Getty Images)
妊娠中も同じで、妊娠中にワクチンを接種した妊婦さんが出産した赤ちゃんには、すでに抗体がついていたことが確認されています。
山田 授乳中のワクチン接種が問題ないことを示した報告も出ていますね。
──ワクチン接種による不妊を心配される方もいるようです。
稲葉 ワクチンで不妊になるというのは、デマ中のデマですね。
男女両方の視点から見ても、不妊とワクチンの因果関係はありません。卵巣に移行すると言われますが、むしろ卵巣だけに限らず血流を通じていろいろな臓器に移行します。しかしそれは、何の問題もない話です。
ワクチンを接種した人が妊娠しにくくなるというデータも、まったく出ていません。
これに付随して、逆にコロナの後遺症で、男性の精子の数が減ることもあるという報告があります。
つまり、コロナの感染によって、不妊とまでは言わなくても、妊娠しにくくなる可能性があるということです。
(写真:yacobchuk / Getty Images)
山田 ちなみに、ワクチン接種は、精子の数への影響はなかったという報告も少数例ですが出ています。
卵子についても、影響がないことを報告した論文がすでに2つ出ています。
一つは、少数例ですが、体外受精を試みているカップルでワクチンの接種前後に採取した卵子のもとになる細胞の数や受精率を比較したもので、接種後の低下はなかったという報告
もう一つは、体外受精を行う医療機関で、コロナ感染後やワクチン接種後の女性の卵巣機能をワクチン未接種の女性と比較し、違いがなかったという報告です。
精子側と卵巣側、どちらから見てもワクチン接種によって不妊になる証拠は何もないということですね。
稲葉 妊活している人も、基本的には気にしなくて大丈夫です。
ただし、発熱や倦怠感が現れる可能性を考えるなら、排卵日や採卵の時期なども考慮して、タイミングを取る直前の接種をずらす、といった工夫はしてもいいですね。
体外受精の胚移植で通院する予定がわかっている方も、おそらく発熱すると病院を受診できなくなってしまうので、そういった時期はずらすといいかもしれません。
──職域接種の進め方で気をつけることは。
山田 職場の同じ部署のメンバー全員が同じ日に受けて、全員で共倒れしてしまった職場もあると聞きました。できれば接種日をずらして、仕事をカバーし合えるようにできるといいでしょう。
稲葉 経営者や雇用をする側としては、可能であれば「有給」ではなく「ワクチン特別休暇」といった形にすると、福利厚生の一環になっていいかもしれません。
──職場での接種の奨励は、「ワクチンハラスメント」と言われる場合もあるようです。経営者や担当者はどのように進めるのが良いのでしょうか。
稲葉 接種を「強制」するのはもちろんハラスメントになりますが、企業としては安全管理の一環にあたるので、奨励すること自体は差別でもハラスメントでもありません。
しかしながら、企業の奨励活動を「ワクハラだ」とけしかけるメディアがいるので、企業側はそこを恐れているのだと思います。
この件に関しては、弱腰になっていたら日本の接種率は一生上がりません。日本の企業や行政はクレームに弱いところがありますが、何か問われれば毅然と説明できるようであってほしいです。
ワクチン接種は従業員や顧客の安全、病院でいえば患者さんの安全につながる。こうした認識が広まっていくといいですね。
山田 車でシートベルトをするのは自分の体を守るためですが、ワクチン接種は自分だけではなく、他人を守ることにもつながる。その意味で医療従事者には接種が義務付けられています。
実際、私の勤務する病院も7月1日付で、ワクチンを接種していない人は新規雇用されなくなりました。
1回目の接種でアナフィラキシーを起こした方に限って、マスクを外してはいけないという条件付きで雇用できることになっています。
──日本の医療機関でもそうした義務付けはあるのでしょうか。
稲葉 日本ではまだありませんが、本来その義務があっていいと思います。
日本の社会だと、「1回目でアナフィラキシーが出た人はマスクを外してはならない」といった条件をつけると、差別とかハラスメントと言われかねません。
でも、わかりやすい例で言えば、視力の弱い人がパイロットになれないのと同じことです。ワクチン接種は安全管理対策上必要で、合理的な対策である、という理解が広がってほしいですね。