2021/1/30

【長期投資】BtoB企業こそが「データ覇者」だ

NewsPicksアンカー
隔週木曜22時〜お届けしている、投資リアリティショー「INVESTORS」。

バフェット流投資のパイオニア 奥野 一成氏が、番組内で発した投資にまつわる格言や、本編では深堀りし切れなかった事を、「アトカの投資塾」でインベスターズのリーダー(※自称) 徐 亜斗香が聞き出していく。
今回は「実践編 優良企業の宝庫 BtoB企業に投資せよ」の補習として、単なるモノづくりに留まらない製造業について伺った。

企業の存在意義=顧客の問題解決

 :本編で「キーエンスは単なるモノづくり企業ではない」というお話がありましたが、「単なるモノづくりに留まらない製造業」とはどういうことでしょうか?
奥野:まず、企業は何のために存在するのかというところから入っていかなければいけない。
だからこそ、まずは顧客のニーズを把握しなければならない。
しかし、主な日本の企業は「自分は家電屋さんだから家電を作るのが使命なのだ」と言い、顧客の問題を解決するかは別として「自分は家電を作り続けると良い」という考えを持っている。
 :本来は顧客のニーズを再定義し、企業はそれに合わせてどんどん変わっていかなければいけないということですね。
奥野:そして、マーケットには供給者サイドと消費者サイドがある。
供給者サイドから話す人が多いが、本当は消費者サイドからそれが求められているのか、顧客の問題解決になっているのか、といった考え方が大事。
しかし、大体の日本の会社は供給者サイドからの話しかしない。とりわけ、製造業はそういった考えが多い。だからこそキーエンスは凄い。
 :BtoB前編でプレゼンしたのですが、キーエンスは単にセンサーを作っているだけではなく、顧客の問題を解決するためにセンサーをはじめとする様々な製品を組み合わせて提供しています。
奥野:キーエンスの方々は、この問題を解決するのであれば、これとこれを組み合わせればいい、といった感じでコンサルタントとして工場の改善をする
ここではやはり顧客のニーズを聞いてくるノウハウが大事で、それを蓄積するシステムがキーエンスにはある。だからこそ、彼らは利益率が高いのだ。

情報が石油にとってかわる時代

 :この先、顧客の問題を解決することが「単なるモノづくりに留まらない製造業」の強さだということは分かったのですが、単なるモノづくりに留まらない製造業は投資家からみて何を重視しているのでしょうか?
奥野:それは「顧客の情報」。
昔は多くのマーケットシェアを持っているということで、単純に「規模の経済」で強い企業が主流だった。
これからは「顧客の情報」こそが価値を生み出す源泉になり、情報を多くもっている強い企業がより強くなるといった動きが加速するだろう。
情報が世界を支配することは明らかであり、BtoC企業でも同様で、だからこそGAFAの株価が爆上がりしている。
 :確かにGAFAの株価はとてつもない勢いで上がっていますよね。やはりBtoCのGAFAが強いと思ってしまうのですが・・・?
奥野:強いとは思う。
しかし、ここからが重要なポイントで、 BtoBの情報なのか、それともBtoCの情報なのか、でこの先大きく道が分かれていくと、私は仮説を立てている。

BtoCの情報はすでに限界

奥野:情報に関して、この先BtoBの方が圧倒的に強いという仮説を持っている。
BtoCの情報は集めることで管理が出来ているように見えているかもしれないが、段々と個人は「情報は無料ではない」ということに気づき始めている。
BtoCの情報に関しては、以前は規制が追いついていなかったといった方が正解。
本来は規制されなければいけないが、規制が追いつかなかったのでGAFAが大きくなり過ぎた。
各個人も、情報を無料で吸い上げているGAFAのような企業になぜ儲けさせてあげなければいけないのかと気づき始めている。
一方で、BtoBのデータ支配はこれからも続く。未来永劫と言っても過言ではない。
BtoBは規制が及ばないということと相手もビジネスなので儲けなければいけないといったところがある。
ここからはこの提言をより理解してもらうべく、3つの具体的な事例を挙げて説明しよう。

BtoBデータの覇者 ①Varian

奥野:例えば、Varianという会社。
この会社はがんの放射線治療機を作っている会社で、世界シェアの半分を持っている。
去年、Varianはシーメンスに買収されることになったのだが、元々がんの放射線治療機のシェアはVarianが約50%、約25%はエレクタ、そして20%弱がシーメンス、残りの10%ほどがその他となっていた。
実はシーメンスはこの分野ではもうVarianに勝てないということで、2012年に撤退を決めた。
まだ市場の2割程はシーメンスの機械が使われているのだが、切り替えのタイミングで徐々にVarianにシェアが移るという状態になっている。
それでもやはりこの市場は魅力的だということで、シーメンスとしてはVarianを買収してしまう他なかった。
 :まさに奥野さんがいつもおっしゃる「参入障壁」があったということですね。
Reuters
奥野:そもそもがんには治療法が4つある。
1. 放射線治療
2. 手術
3. 薬
4. 免疫治療
大体の患者は上記を併用し、米国では3分の2、世界では全体の約4割が放射線治療を受けている。
Varianはがん治療の約4割を占める放射線治療のうち、50%のシェアを持っているので、全体のがん治療の2割程のデータがVarianに集まっているということになる。
圧倒的なマーケットシェアがあるからこそ、Varianは単なる放射線治療機の会社ではなく、がんの最適治療の提案ができるコンサル会社である、とVarianの社長は言っている。
過去のがん治療のビッグデータをAIで解析し、患者さんごとに4つの治療法をどう組み合わせるのが最適なのかを提案するビジネスを始めている。
放射線治療は単なる手段でしかなく、Varianはそういった意味で、単なるモノづくりの会社ではないのだ。

トヨタにはフェラーリが作れない

 :ちなみに、Varianはどのように半分のマーケットシェアを取れたのでしょうか?
奥野:マーケットがそこまで大きくない中で一つのものを作り込んだから。
放射線治療機というのはとても大きな機械で、一台数千万円ほどする。しかも、年に数百台しか売っていない。
なので、大きな企業は作ろうと思わない。
これはトヨタにはフェラーリが作れないのと一緒で、技術があってもそういった事業に出ていかない、ということ。
だが、放射線治療機のシステムで儲けるというビジネスモデルが重要なのではなく、顧客の問題を解決していくことで顧客が他社に乗り換えられなくなるという点が大事。

BtoBデータの覇者 ②Deere

奥野:2つ目は、Deereという会社。
BtoB後編でプレゼンがあったクボタの最大のライバルだが、実はこのDeereという会社、クボタの1.7〜1.8倍もの売り上げを誇っている。
なぜかというと、Deereは畑作の領域で圧倒的に強いからだ。
Reuters
この会社はアメリカや南米などのマーケットシェアの半分くらいを持っている。
ここまで強いのは、セールスマンやディーラーネットワークを駆使している点にある。
 :ディーラーネットワークですか?
奥野:Deereの農業機械は非常に大きく、2階建てのマンション相当の勢いで動く。
けれども収穫の時期のみ、年に7〜10日間しか稼働しないのだが、もしその時に潰れているようなことは農業者からしたらあってはならない。
だからこそ、何かあった時にすぐに駆けつけて来てくれるようなディーラーネットワークが絶対必要なのだ。
そのため、クボタがアメリカに行ってもDeereには絶対勝てないのだ。
 :機械販売だけではなく、サポートシステムを作り上げているということですね。

データが支配する世界

奥野:今、Deereは精密農業(precision agriculture)に力を入れている。
小麦をどのくらいの間隔で植えると最も収穫が良くなるだとか、農薬をどのくらいの頻度でどのタイミングでどのように撒くといいのか、を判断するためには情報を集めなければならない。
この会社はマーケットシェアの5割を持っており、膨大な土地との接点を持っているということになる。
精密農業となるとAIだとかエンジニアリングということになるのだが、そもそもデータが集まらなければ意味がない。
 :データの蓄積があってこそのAIですもんね。
奥野:結局がんの治療の統計分析をしたくてもデータがなければ話にならない。
Varianはがん治療のデータ、そしてDeereは農地のデータを持っている。
今の時代は、情報を集めてAIに分析させることによって企業が成長していくと言える。

データでwin-winな世界を作る

奥野:Deereが3年ほど前にブルー・リバー・テクノロジーという会社を買収した。
このブルー・リバー・テクノロジー社は農薬散布の会社なのだが、Deereは従来の除草剤の撒き方を覆すためにDeereの機械にカメラをつけて、どれが雑草でどれが大豆なのかをAIに見分けさせて雑草にだけ除草剤を散布するといった開発をした。
 :ピンポイントで散布できるのですか?
奥野:そう。そのように出来たら、体にも優しいし、除草剤の量も少なくて済む。
そして除草剤に物凄いお金を費やしている農業者にとっては節約になるので、農業者はとても儲かる。その節約した分を少しだけ機械の代金にのせれば、win-winな状態が作れる。

BtoBデータの覇者 ③Texas Instruments

奥野:Texas InstrumentsもBtoBのデータを抜き取っている会社だが、主にアナログチップを作っている。
例えば、iPhoneの端末内に入っているのは、0と1を使用したデジタル情報で、人間が感知できる音や光はアナログ情報なのだが、デジタル情報をアナログ情報、アナログ情報をデジタル情報に変えるのが、アナログチップ。
このアナログチップの世界トップ18%のシェアを持っているのが、Texas Instrumentsだ。
 :凄いですね。これがなければ人間はそもそもデジタルデバイスを使えないということですね。
奥野:半導体市場は50兆円くらいまでマーケットが大きくなっているが、これからもどんどん大きくなっていくと予想される。
実は、半導体といっても、その時その時で流行り廃りがある。
例えば、パソコンが流行る時があれば、iPhoneが流行る時もある。
そうなると、下記の図でMicroは33%→14%に落ち、Memoryは逆に18%→34%に伸びている、ということが起こる。
だが、アナログチップは常に大体13〜14%の範囲にある。これはなぜかと言うと「人が必ず使う」からだ。
そして、これらの参入障壁はマーケットシェアだ。
Texas Instrumentsがやっていることを同じマーケットシェアで出来る他の企業はない。
 :だからこそ儲けの泉が守られているのですね。

BtoB版Amazon

奥野:Texas Instrumentsも圧倒的なシェアを基にBtoBデータを収集し、ビジネスに活用している。
この会社は「TI.com」というECサイトを通して製品を販売しているが、同時にデータも収集している。
例えば、車のウィンカーを開発するために、とある車載部品メーカーが100個のアナログチップをこのウェブサイトで買うとしよう。その会社は、商品ラインナップが最も充実している「TI.com」に訪れなければチップのデザインを考えることが出来ない。
となると、いつ、どこの会社の、どのチームがウィンカーを開発し始めたかがTexas Instrumentsにはわかる。
その情報を受けて、Texas Instrumentsの営業員がその会社に対して関連する製品を提案しに行く。しかも、その情報があれば競合の車載部品メーカーにもウィンカー作りをすすめたりもできる。
徐 :隠れた黒幕ですね。
奥野:簡単に言うと、私たちもアマゾンで買い物をしたらオススメの商品が飛んでくるが、そのBtoB版ということ。
このシステムを6〜7年前から仕込み、情報を仕入れながら実際のセールスと協力してマーケットを取りに行っている。
これが仕組みとして機能するのは彼らが2割弱の大きなマーケットシェアを持っているからだ。おそらく、マーケットシェアは時間とともにさらに上昇していくだろう。

データ収集という共通点

 :やはりマーケットシェアを持っているということは強いですね。
奥野:だからこそ、単純な製造業ではない。
紹介した3社はそれぞれ全然違う業種だが、BtoBでデータを抜き取るという観点からすると同じ。
データを抜き取って顧客の問題をより良い方法で解決するという、ビジネスモデルを持っている。
その時に大きなマーケットシェアを持っているVarianやDeere、そしてTexas Instrumentsといった企業は多くの情報を分析して戦うことができるのだ。

日本企業がBtoBで勝つには

徐 :単にハードとしての「モノ」をつくれば良い時代ではなくなった今、既存の製造業はどのように変わらなければいけないのでしょうか?
日本を代表する製造業はこれからも日本を代表し続けられますか?
奥野:モノを単純にモノづくりだと思っている企業は駄目。
要は、モノは顧客の問題解決の手段だと思わなければいけない。例えば、車だけを作っていたら大丈夫と思わないことだ。
日本企業は技術はあるので、今の既存のサプライチェーンだけではなく、新しいものをどんどん作っていかなければならない。
モノづくりだけにこだわって留まっていてはいけない。
徐 :まさに既存のビジネスモデルではなく、新たなビジネスモデルを考えていかなければいけないということですね。
 :BtoB企業というのは、私たち消費者には直接的な影響が捉えにくく、そもそも見えない部分が多いですが、BtoB製造業を単なる製造業として見るのではなく、その裏側まで深堀ることで本当の強さが明らかになるんですね。
日本企業も既存分野に頼るのではなく、どんどん新しい領域で挑戦していって欲しいです。
今回は「情報」による参入障壁を中心に、投資先を選ぶ上で企業の様々な「裏の顔」を探ることが大事だということを学びました。
次回2/4(木) は資産構成の基礎である「理想のポートフォリオ論」を学ぶ勉強編、さらに2/18(木)にはビジネスモデルから銘柄を選ぶ実践編を予定しています。
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