2021/2/9

【干場弓子】今を楽しく生きる、ディスカヴァー21創業者の仕事道

ディスカヴァー・トゥエンティワン 共同創業者
取次を通さない「直取引」と独自の企画開発力で異彩を放つ出版社、ディスカヴァー・トゥエンティワン。創業社長として35年、成長を率いた干場弓子さんは、勝間和代さんなど時代を象徴するキーパーソンを発掘した功績でも知られる。 

近年は、日本の出版コンテンツの世界展開にも尽力してきた。華やかで屈託のない笑顔の裏には、いくつものピンチを乗り越えた歴史がある。

社長を退任して1年。「楽しくなければ、仕事じゃない」と言い切る干場さんが指針にする哲学、そしてこれから描くセカンドキャリアとは。(全7回)
ディスカヴァー・トゥエンティワン 共同創業者、元社長、一般社団法人 日本書籍出版協会理事

愛知県立旭丘高等学校、お茶の水女子大学文教育学部卒業。世界文化社『家庭画報』編集部等を経て1985年、ディスカヴァー・トゥエンティワン設立に参画。以来、社長として経営全般に携わり、書店との直取引で業界随一の出版社に育て上げた。2011年には『超訳 ニーチェの言葉』が同社初の100万部を突破。自ら編集者としても勝間和代氏のほか、多くのビジネス系著者を発掘。グローバル展開にも積極的に取り組み、日本書籍出版協会国際委員会副委員長として、フランクフルト、ロンドンなどの国際ブックフェアへの出展を他の出版社にも働きかけ、世界の出版界における日本コンテンツのプレゼンスの向上に努める。著書『楽しくなければ仕事じゃない』

35年務めた社長の座を譲る

2019年12月、私、干場弓子は35年務めたディスカヴァー・トゥエンティワン社長の座を譲りました。
30歳で創業に参画して、時には会社存続の危機にも直面しながら、信じてついてきてくれる仲間たちと夢中になって進んできた道のり。
最初はたった5人から始めた、今の言葉で言えばマイクロスタートアップでしたが、志を共にする社員は10人、30人と増え、今では100人を超える世帯になりました。
社員との集合写真
わが子のように育ててきた会社を離れることは、寂しくなかったと言えば嘘になりますが、でも不思議と惜別の情みたいなのはないし、悔いもない。
それに、古い人がいつまでもいて若い人の蓋になっているのって、美しくないじゃないですか?
それより自分たちで、また新しく何か始めたほうがいい。
退任に際してお世話になった方々が企画してくれた壮行会では、感動的なストーリー仕立てのスライドが投影されたのですが、当の私に不思議と涙の一粒も流れなかった。
その後、皆さんの前で言った言葉がその理由でした。
「過去は食べられません。私は未来を向いて、今を楽しく生きます」

常識を知らなかった

常識やぶり、型にはまらない、業界の革命児──。
ディスカヴァーは、しばしばそんな形容で語られてきた出版社です。
たしかに、出版界の王道とされる取次を通す販売方式を取らずに「直取引」で売り上げを伸ばしてきたこと、書店にとっては規格外のサイズの本をつくって定番化したことなど、“常識やぶり”の連続だったかもしれません。
でも、なぜそれをしたかというと「それしか道がなかったから」。あるいは「知らなかったから」。
後発の小さな会社、それも社長が書籍編集初心者というスタートでしたから、そもそも常識を知らなかったのです。
当時の経緯はまた後の回に委ねるとして、とにかく知らない者の強みで、こんなのいいんじゃないかなと、自由に本をつくってきただけでした。

「感動する本」をつくりたい

本には2種類あると、常々言ってきました。「感動する本」と「感動しない本」です。
では、「感動する本」とは何か。