【木川✕田中】日本の「食」産業が元気になれば、日本ももっと元気になる

2020/12/12
2021年1月20日からNewsPicks NewSchoolで「食のニュービジネスモデル」プロジェクトが始動する。リーダーを務めるのは、「春水堂(チュンスイタン)」「TP TEA」を日本で展開するオアシスティーラウンジ/オアシスティースタンド代表取締役・木川瑞季氏。

本プロジェクトでは、「食」関連ビジネスのプロとして知られる木川氏が限定50名のメンバーと「未来につながる食のビジネスモデル」を探っていく。

今回は、本プロジェクト「Day2:世界のフードテックの潮流」にゲスト講師として登壇するシグマクシス ディレクター/スマートキッチン・サミット・ジャパン主催者・田中宏隆氏と共に、フードテックの未来について語ってもらった。
マッキンゼー出身カフェ社長と考える「食の新ビジネスモデル」
【木川瑞季✕田中宏隆】「食」の世界はウィナー・テイクス・オールではない

ホットな領域は、植物性プロテイン

── 直近では、特にどの領域に注目されていますか?
田中 いくつかありますが、直近で言えば、次世代食材生産のカテゴリーの中の植物性(代替)プロテインですね。人類全体が豊かになって、中間層が増えていくと、牛肉を食べるようになる。すると、必然的に環境への負荷が高くなり、将来的に地球がもたなくなってしまう。
こういった課題意識が背景にあります。必ずしもビーガン向けではないという点もポイントだと思います。
木川 地球環境への負荷を低減することや人体への安全性を高める方向に業界全体として向かっていることを感じます。
田中 まさにそうですね。あとは、最近、PERFECT DAYというシリコンバレーに本拠を置く植物代替の乳製品ブランドを展開する企業に約1,500億円もの資金が集まりました。このあたりについても押さえておくと良いと思います。
── やはり欧米が先行していると思うのですが、注目すべき海外スタートアップの事例などはありますか?
田中 インポッシブルフーズやビヨンドミートが有名ですが、最近、特に大きな衝撃を受けたのが、オムニポークという代替豚肉を開発するグリーンマンデーです。また、注目すべきカテゴリーとして、「キッチンOS」が挙げられます。
欧米では、「レシピがソフトウェア化する」という議論があります。要は、レシピを全部コード化して、家電に読み込ませるということですね。レシピ・アズ・ソフトウェアという言葉も生まれつつあります。
木川 この辺りをみると、「やはりテクノロジーの国だな」と思いますね。私自身、海外出張の際には必ず現地の書店を訪れるのですが、その時に感じることが、「料理のレシピ本の種類が世界で一番豊富なのは日本の書店なのではないか」ということです。
田中 ただ、それが適切にデジタル化されておらず、「繋がっていない」ということですよね。

中国企業から見習うところ

木川 実は、去年、上海を訪問したのですが、その時に中国におけるデジタル化の進展度合いに本当に驚きました。当時、ラッキンコーヒーやウーラマ、さらには無人コンビニが中国全土に一気に普及していったタイミングだったのですが、彼らのテクノロジーの入れ方は本当に「躊躇がないな」と。
食を一つのコンテンツとして完全に割り切っていて、例えば、デリバリーだと、コーヒーがぬるいんです(笑)。
日本人の場合、「ぬるいコーヒーではビジネスにならない」と思ってしまいがちなのですが、でも、そこでためらわずに彼らはやってしまう。デジタル化の実行度合いについては、本当に見習うべきところが多いと思います。
田中 論理的に良いということをやり切れる強さですよね。
木川 そうですね。我々としても「こんな光景を見てしまったら、「行列にお客様を並ばせている場合じゃないよね」ということで、即、モバイルオーダーの導入を決定しました。実際に導入できたのは、2019年の夏でしたが、国内では、スターバックスとほぼ同じタイミングでした。
テクノロジー的には十分に可能だったものの、国内でキャッシュレス化が十分に進んでいなかったことや様々な規制上の障壁もあって、導入に踏み切るプレーヤーがこれまでなかなか現れてこなかった。
田中 そんな中、なぜ導入に踏み切ることができたんですか?
木川 実際に中国でモバイルオーダーが行われている現場を見てしまったので、やらざるを得なかったですね。
田中 社内で反対意見は出なかったのですか?
木川 まったく出ませんでした。当時、タピオカブームで行列があまりにも出来すぎていて、それを煽るような風潮がありました。
しかし、我々としては、「そもそもお客様を長時間並ばせるのはお互いにとって良いことではない」という認識があり、結果、一切の反対なく、導入に踏み切ることができました。

テクノロジー人材の必要性

── 短期的には、新型コロナウイルス感染拡大の影響もあり、厳しいと言われている「食」関連業界ですが、ここまでお話を伺っていて、中長期的には明るい材料も多いと思います。このことを踏まえ、今後の解決すべき課題はどのあたりにあるとお考えですか?
木川 まず、新型コロナウイルス感染拡大を一つの契機として、今までのビジネスモデルを根本的に変えていく必要があります。新しいプレーヤーにもどんどん新規参入していただきたいと思いますし、テクノロジーに精通した人材にも入ってきてもらうことも重要です。
それができれば、この業界の未来はとても明るいと思います。実際、ビジネスモデルとして発展しているかどうかは別にして、日本食が世界中でこんなにも受け入れられているという現実がある。
解くべき課題が山盛りであれば、ビジネスモデルも進化していかざるを得ません。その意味で、「食」の産業には計り知れないポテンシャルが眠っていると考えています。
田中 木川さんがおっしゃったように、コロナを一つの契機として、現在の「食」の体験自体を変えていかなければいけません。
今の「食」産業というのは、戦後の分業の世界の中で、大量生産・大量消費の時代を様々なプレーヤーが役割分担しながら回してきた。結果、いつでもどこでも美味しいものが食べられるようになったわけですが、すると今度はフードロスなどの社会課題が現れてきた。
そして、先進各国を中心に「変わらなくてはならない」という認識が生まれてきた中で、フードテックの潮流が本格化しつつある。特に最近は、便利なアプリや家電といったソリューションが生み出されてきており、それが実際に使えるようになってきています。
木川 導入コストの問題で、どうしても薄利の業界では導入が難しい部分がありましたが、それも徐々に変わりつつあります。

SDGs対応に向けた意識の高まり

── フードロスという言葉がありましたが、サステイナビリティの観点からも、上場企業の方々のSDGs対応への意識は高まってきていますか?
田中 みなさん、「このままではダメだ」ということを強烈に理解しています。「SDGsについて真剣に考えなければ、会社自体が存続できないのではないか」というレベルで捉えていらっしゃると思いますね。
木川 フードロスに限った話ではありませんが、「食」に関連している限り、提供するすべてのものに対する説明責任が発生します。そもそも、持続性のあるビジネスに取り組んでいることを会社として示さなければ、お客様がついてこない。
この領域では、国内でも、TABETEやrebakeといったフードシェアリングサービスが出てきています。しかし、海外と比べると、「食」関連スタートアップへの投資額はまだまだ少ないです。
田中 海外では、例えば、代替プロテインへの投資に特化したベンチャーキャピタルが200以上存在するといわれています。それ以外にもフードテック領域に投資しているファンドは多いです。さらに、ユニリーバやネスレといったグローバル企業が数百億円規模でスタートアップを買収している。こういった動向を把握した上で、国内大手企業もまずは外部との接点を意識的に強化する必要があると思います。
木川 まだまだ硬直化している面はありますが、人材交流があるだけで、変わってくると思います。

「とっかかり」を提供したい

── NewSchoolには、具体的にどのような方に来ていただきたいですか?
木川 「食」関係の仕事に携わっている方のみならず、様々な業界の方々に来て頂きたいですね。
── 大企業で副業解禁されたものの、何をやって良いのかわからない人も少なくないという印象があります。
木川 そんな方にはぜひとも来ていただきたいですね。実際、「食」の産業自体に興味がある人はとても多いのです。ただ、いきなり飛び込むのはリスクを感じるということで、躊躇してしまう人が多い。そんな方に対して、何らかの「とっかかり」を提供することができればと考えています。
田中 皆さんにぜひとも知っておいていただきたいことは、例えば、植物性(代替)プロテインのトレンド一つをとっても、我々が考えている以上にとてつもないスピードで世の中を変えていく可能性があるということ。そして、その中で、日本だけがぽつんと「何言ってんの?豆腐でいいじゃん」では、取り返しのつかないような大きな後れをとってしまう。
「世の中で何が可能になっていて、それが日本の食体験をどのように変えていくのか」についてもっと考える必要があります。一方で、この分野においては、日本が世界に対して発信できるものも非常に多い。米国発祥のハンバーガーからテリヤキ味が生まれたという事例はとても示唆的だと思います。
木川 スタバの抹茶フラペチーノもそうですし、回転寿司もグローバルで回っている(笑)。日本の食文化のレベルは非常に高く、「日本で通用したら世界で成功する」という考え方もあります。
実際、春水堂が台湾の次に日本に進出したのはそれが理由の一つです。ある意味、日本をテストマーケティングの場として活用するといった選択肢も考えられる。そういった発想で新たな価値をつくることができれば、日本の「食」産業はもっと元気になれると思います。
田中 この20年間、ハイテク産業では日本は負け戦の連続でした。iモードの時代までは良かったけれど、家電は中国に持って行かれ、半導体は世界でバッシングされ、デジカメもスマホに持っていかれて、日本から新しいものが生まれにくくなってきている。
でも、「食」の分野であれば、世界の人たちが日本人の話を聞いてくれて、対等に話すことができるんです。日本人がもう一度ワクワクすることができるのは、「食」の分野なのではないでしょうか。
「食」の産業には、あらゆるプレーヤーが関わっている。この分野で価値を徹底的に磨いていくことができれば、日本のすべての産業を引き上げることができる、と捉えることもできるのではないかと考えています。
そうしたパッションを持つプレーヤーが集まる、日本初かつ最大の食に関わるカンファレンス、スマートキッチン・サミット・ジャパン 2020を、12月17日~19日の3日間にわたり開催します。
スマートキッチン・サミット・ジャパン 2020
日程:2020年12月17日~19日
形式:オンライン(同時通訳あり)
公式サイト:https://www.food-innovation.co/sksj2020/
今回はオンライン開催のため、欧米をはじめとした海外からも多数の先進的な技術や取り組み事例を紹介し、日本の食の未来をどうデザインし実装するかを議論します。「日本の産業を変えたい」と考えている方にはぜひ、この熱量溢れる輪の中に加わっていただければと考えております。
(取材・執筆:勝木健太、撮影:遠藤素子、デザイン:田中貴美恵)
「NewsPicks NewSchool」では、2021年1月から「食のニュービジネスモデル」を開講します。詳細はこちらをご確認ください。