すべてのノン・テクノロジストへ。テクノロジー思考で世界情勢を読み解こう

2020/12/13
プロジェクト型スクール「NewsPicks NewSchool」では、2021年2月から「最先端のテクノロジー地政学」を開講します。
プロジェクトリーダーを務めるのは、テクノロジーの観点から世界の趨勢を読み解き、ベンチャーキャピタリストとして世界を舞台に活躍している蛯原健氏です。
その蛯原氏が昨年、NewsPicksアカデミア会員限定のオンライン動画講義『MOOC』にて語った「グローバル・テクノロジーガイド」のEpisode1〜3をダイジェスト版としてお届けします。
【残席わずか】最前線の投資家と学ぶ「最先端のテクノロジー地政学」

テクノロジーが主役となる時代に突入

現代は、テクノロジーとイノベーションによって世界中の個人がエンパワーメントされる、「個」の時代となりました。
たとえば、ライドシェアというイノベーションの登場は移動を便利にしただけでなく、多くの人々に生活の糧をもたらしています。
あるいは、アジアでは銀行口座すら持たなかった十数億人が、アリペイやウィーチャットなど電子ウォレットの登場により、マネーを自在に使えるようになっています。同様に、アフリカではエムペサ、インドはPayTMという人気ウォレットアプリが浸透しつつあります。
先進国だけでなく、地球上の70億人全ての人々にテクノロジーが沁み出し、生活を大きく変えているのです。
リブライト パートナーズ 代表パートナー 蛯原健氏
企業活動においては言うまでもなく、あらゆる国の、あらゆる産業が「デジタル・トランスフォーメーション」の真っ只中にあります。
製造業、素材、化学、エネルギー ……例外なくすべての産業がテクノロジーによって再定義される、一大パラダイムシフトが全世界において進行している。そしてその過程で、新たな巨大市場も誕生しています。
同様に、現在は世界情勢を論じるにあたってもテクノロジーが主役となる時代です。ニュースをにぎわす政治・経済の出来事には、いずれもテクノロジーが深く関与し、強い影響を及ぼしています。
たとえば中国やインドなど、近年台頭著しい国家。これらの国がみなさんの組織や仕事に与える影響について、各国の「テクノロジーの現実」を知らないが故にその国力を過小評価、あるいは課題評価し、正しく認識できないこともあるでしょう。
また、現代の2大スーパーパワーである米中は「貿易摩擦」、そして「テクノロジー冷戦」を激しく繰り広げています。
では、その本質とは一体何か? あるいはそれを受けた日本のとるべき産業政策は何か?
意思決定の質は、テクノロジーへの正しい認識、理解の有無により大きく変わるのです。

データから見るアジアシフト

世界のテクノロジー・シーンは「米国一強時代」が終わりました。中国・インドを中心とした「アジアシフト」が起きているのです。具体的に、データで見てみましょう。
こちらは、世界各国の資金調達額の合計です。2018年、中国がはじめて米国を抜きトップに立ちました。
蛯原氏MOOC Episode2より
また、調達額の割合で見てみると、はじめてアジアが西側諸国を超えたことがわかります。中国・インドを中心としたアジア全体で、世界の51%を占めているのです。
蛯原氏MOOC Episode2より
企業ごとの資金調達額ランキングでは、トップ10のうち7社がアジアの企業となっています。それからユニコーン(10億ドルを超える企業評価額のスタートアップ)も、約半分をアジアの企業が占めています。
もっとも大きな資金調達を果たしたのは、アリババグループのフィンテック企業「アントフィナンシャル」です。
蛯原氏MOOC Episode2より
さらに、世界のスタートアップの時価総額のランキングを見てみましょう。
1位が「Bytedance」、2位が中国版のUber「Didi Chuxing」と中国の企業が占めています。Uberは2019年5月に上場しましたので、ここでは省略しましょう。
蛯原氏MOOC Episode2より
また、2018年のテクノロジー・スタートアップシーンの中でもっとも顕著だったできごとが「中国スタートアップのIPOブーム」でしょう。テクノロジー系のスタートアップだけで、中国はなんと21社の企業をIPOさせたのです。そして、そのほとんどが米国のNASDAQ、またはニューヨーク証券取引所に上場しています。

中国テクノロジーのいま

中国のテクノロジーシステムの隆盛を見るために、地域的な分布を見ていきましょう。
中国には一級都市が多数あるため、都市ごとに異なる産業クラスタや行政・国家機能を役割分担しています。そのことも、国全体として効率的に発展できる強みとなっているのです。
さて、みなさんは、「中国のシリコンバレー」はどこだと思いますか?
……正解は「北京」です。「深セン」と思われた方も多いかもしれませんね。
上海と北京が中国の二大経済都市ですが、人口の多い「上海」が商業寄りなのに対し、テクノロジー・研究開発寄りなのが「北京」。北京には優れた大学・研究機関が集中しているからです。
なかでも「清華大学」は中国が世界に誇るトップ大学で、コンピューターサイエンス学部は世界の大学ランキングで米国の名門——たとえばMITやカーネギーメロン大学を抜き、世界のトップに躍り出ています。
清華大学は世界でも珍しく、傘下に多くの企業を持っています。「TUSホールディングス」はサイエンスパークを運営していて、そこには1000社を超えるスタートアップが入居しています。
また、ベンチャーキャピタルのファンドも運用していることも本大学の特徴でしょう。このファンドではすでに、IPOやバイアウトなど多数のイグジットの実績があります。
清華大学の近くには中国トップクラスの大学・北京大学がありますし、MicrosoftやGoogleなど世界の大手企業が近隣に群生している。このエリアは「中関村」と言われ、中国のテクノロジーエコシステムでもっとも発達・集中が著しい地域です。
昨今、「中国のテクノロジー都市と言えば深セン」というイメージも強いかもしれません。しかし、スタートアップエコシステムの集積規模では、じつは北京が圧倒的なのです。
蛯原氏MOOC Episode3より
ユニコーンもシリコンバレーに比べると数では劣りますが、先ほどご紹介した世界最大の未上場企業である「Bytedance」も「Didi Chuxing」も北京にあります。スマートフォンで有名な「xiaomi」や時価総額3兆円を超えるフードデリバリーの「美団点評」など、ニューエコノミーを代表する会社が北京に多いと言えるでしょう。
本記事では主にテクノロジーのアジアシフト、そして中国テクノロジーについて触れてきました。これら新興勢力の勢いと実力を過小評価せず正しく認識することが、ビジネス、政治を含めた世界情勢を正しく理解する第一歩となるのは間違いありません。
以降のMOOCでは、米中テクノロジー冷戦からインド、ヨーロッパのテクノロジーのリアルまで、詳しく見ていきます。

以降のエピソード

Episode4 米中テクノロジー冷戦①
「米中テクノロジー冷戦」、聞いたことはあるものの実感が湧かないという方も多いだろう。しかし米国と中国の間で確実に戦いは起きている。果たしてその戦いの本質とは?蛯原氏が「安全保障」、「経済・貿易」、「テクノロジー覇権争い」の3つの観点から詳説する。
Episode5 米中テクノロジー冷戦②
世界に衝撃を与えた「ファーウェイ事件」。しかし事件が起きた背景やその本質まで理解できている方は少ないのではないだろうか。「5G」を切り口に米国と中国のテクノロジー覇権争いについて解説する。
Episode6 世界第3のテクノロジー大国「インド」
「新たな大国になりうる国はただ一国のみ」。蛯原氏がこう断言して挙げるのは「インド」の存在だ。なぜインドが米国、中国と肩を並べる可能性を持つのか。蛯原氏がインドのイノベーション事情を踏まえて解き明かす。
Episode7 なぜ「印僑」は世界を牽引するのか
世界を牽引する存在として注目を集める「印僑」。実はマイクロソフト、GoogleなどのITガリバーのトップは印僑が務め、その力をいかんなく発揮している。なぜ印僑はこれほどの存在になっているのか?蛯原氏が印僑のバックグランドを根拠に解説する。
Episode8 ヨーロッパvs米国IT巨人
今、インターネットの世界を根底から覆す出来事がヨーロッパで起きている。それは「リンク税」の発効だ。GDPRなどインターネットへの規制を強めているヨーロッパ。最終話はテクノロジーの観点からヨーロッパの今、そしてそれが日本に与える影響について読み解く。
(写真:遠藤素子)
最先端のテクノロジー地政学」は2021年2月より開講。詳細はこちらをご覧ください。