【塩野誠】国家がプラットフォーマーに嫉妬する日#4/6

2020/10/9
「テクノロジーを知らずして、未来を語ることはできない」とよく言われる。しかし、現代は、国際政治への理解なくして未来を語れない時代となった。

ファーウェイやTikTokが米国から追放され「米中新冷戦」とも呼ばれる状況の中、日本はどう振舞うのか。GAFAは政府のように公共性を担う存在になりえるのか。SNSで投票を操作できる世界で、民主主義は成立するのか。

様々な論点を一つの物語として描き出す新刊『デジタルテクノロジーと国際政治の力学』(塩野誠著)の各章冒頭部分を、お届けする。
あなたについて誰よりも知っている企業
国家からすれば、デジタルプラットフォーマーは少し大きくなり過ぎたのかもしれない。グーグル(1610億ドル)、アップル(2600億ドル)、フェイスブック(700億ドル)、アマゾン(2800億ドル)の2019年の売上高合計は7710億ドル(約84兆円)だった。この金額はスイスのGDP(世界20位)よりも大きい。2020年5月にはこれらGAFAにマイクロソフトを加えた時価総額が東証1部約2170社の合計時価総額(約550兆円)を超えた。また、2020年8月にはアップルの時価総額が初めて2兆ドルを超え、注目を集めた。
自国の国民については、政府よりもデジタルプラットフォーマーの方がよく知っている。もしあなたが政府に個人の行動や思想を知られることに嫌悪感を覚えるとしても、デジタルプラットフォーマーには毎日、せっせと情報を渡しているのだ。
ではデジタルプラットフォーマーにあなたについて知ることを許した覚えはあるだろうか? あなたが何に関心を持ち、誰と会話し、どこに行っているかを知られることを民間企業に許諾したのだろうか? あなたのチャットが誰かに監視されていたら不快だろう(ただし日本であれば「通信の秘密」は法で保護されている)。
2016年、グーグルのプライバシーポリシーに若干の変更が行われた。それまで結び付けられることのなかったデータの結合が可能になったのだ。この変更には少し経緯がある。グーグルは2007年にインターネット上の広告ネットワークであるダブルクリックを31億ドル(約3700億円)で買収した。この買収の際、グーグルの創業者であるセルゲイ・ブリンは「新しい種類の広告プロダクトを検討する際に、プライバシーは最優先事項になる」と話していた。ダブルクリックの買収から10年近くは、グーグルのGmailや他のアプリのアカウントで収集された個人の特定が可能なデータと、ダブルクリックの持つウェブ閲覧履歴データは分離されていた。関心のある画像を探してウェブを見て回るあなたとGmailのアカウントは別々のものだったのだ。
2016年、グーグルのプライバシーポリシーは「アカウントの設定によっては、他のウェブサイトやアプリでのあなたの行動は、グーグルのサービスや広告配信を改善するために個人情報と紐付けられる可能性がある」と変更された。これによってウェブサイトを見て回るあなたの閲覧履歴とユーザ情報が紐付けられたのである。
現在ではこのような追跡は当たり前のようになり、またグーグルもユーザが自分でプライバシーの取り扱いについて設定する方法を提示している。あなたとデジタルプラットフォーマーとのタッチポイント(接触点)で蓄積されたデータは他のデータと統合されることによってより価値を持つのである。
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*塩野誠氏は、株式会社ニューズピックスの社外取締役です。