流しタクシーはもういらない?広がるオンデマンド型交通

2020/7/29

タクシーとバスの中間のサービス

フォルクスワーゲンの子会社MOIA(モイア)が運行していたオンデマンド型交通サービスを本格的に再起動した。
ドイツ・ハンブルグでは、4月1日から日中の運行をいったん休止し、その後、5月25日から運行を再開した形だ(ちなみにドイツは州ごとに対応は異なるもののロックダウンは行っていない)。
MOIAは、タクシーとバスの中間領域のサービスを目指し、乗り合い型の専用車両を開発したフォルクスワーゲン社が進める次世代モビリティ・サービスのフラッグシップの一つだ。
車両は電気駆動を採用、ゆったりとした6人乗り、隣席を意識させないシート配置となっており、荷物スペースは前席に用意している。車両のデザインも美しく、遠くからでも一目でMOIAがやってくることが分かる。
配車はスマートフォンの専用アプリから行う。目的地を設定すると、「仮想バス停」がアプリ上で表示され、そこまで迎えに来てくれる。ほとんど歩く必要はなく、歩いても50~250mほど。決まったルートはなく、顧客のニーズに応じて柔軟にルートを決める。決済はキャッシュレスだ。
昨年2019年4月に100台からスタート、その後330台まで拡充している。営業エリアは300平方キロメートルに及び、市内をほぼ網羅する。

1年間で200万人の乗客

休止するまでの1年間で200万人の乗客があったというが、これは驚くべき数字だ。大都市部の公共交通サービスが充実しているエリアではこのようなサービスは難しいとも言われおり、この1年間の成果は、画期的なことだ。
再開にあたっては、乗客のマスク装着、運転席と乗客との間を保護フィルムで分離、定員を最大5人までとし、感染症予防を徹底している。
なお、4月1日から日中のサービスは休止したものの、午前0時から午前6時まで車両数を100台に抑え、夜間に移動が必要な方々の移動を支えてきたという。

米では公共交通と配車を組み合わせ

シアトルやロサンゼルスでも再起動している。
昨年から政府の1年間の実証実験としてスタート、鉄道やバスと配車サービスを組み合わせた配車&ライドのサービスが再開した。
シアトル都市圏の実証実験は、政府のMobility on Demand Sandbox Program(以下、MOD)として採択され、事業費は270万ドル(約3億円)、1年間という長期間をかけて、新しい移動様式への浸透を図っていくプロジェクトだ。
2019年4月から運行をスタート、低所得者が多く居住し、移動のアクセスに課題がある郊外の2地区を対象にライトレールの駅およびバス停留所(5カ所)までを市が提携したVia社が提供する車両で送迎している。
サービス名は「Via to Transit」。Via社のアプリあるいは電話で配車でき、支払いは交通系ICカードでも可能となっている。
車椅子が乗車できる車両も配備されている。運賃はバスと同額とし、差額は政府の補助で補填される。コロナ禍でサービスが中止する前までは、1日800人を超える利用者があったそうだ。
市民の行動変容は短期的には容易ではなく、1年間という長期実証の中で、地域に徐々に浸透していった好例だろう。シアトルでは、3月末にサービスをいったん休止、2020年6月22日からサービスを再開している。

福岡では運転手不足の解決策として期待

日本でも福岡東区のアイランドシティで運行している「のるーと」が快走を続けている。AIを活用したオンデマンドバスで、利用客のリクエストに応じて適宜ルートを設定しながら運行する乗り合い型の交通サービスだ。
運転手不足や運転手の高齢化問題などの解決策として、西日本鉄道と三菱商事が共同で、従来の固定路線のバスサービスとは異なる次世代のモビリティ・サービスに挑戦している。
そこにはさまざまな工夫がみられる。
一つ目には、定員を10人以下とし、普通自動車第二種運転免許で運転できるようにしたことだ。タクシーの運転手でも運転できることで、新たな雇用を創出できる。
二つ目には、配車をする際に、システム側から乗車バス停を指定するようにしている点だ。進行方向に対して反対車線での乗車や迂回などが回避でき、配車までの時間が短縮でき、利用者にとっても、事業者にとっても効率的だ。
三つ目には、地域のタクシー会社に配慮し夜間の運行は行っていないことだ。結果、「のるーと」の運転手の負担は軽減され、運転手の労働環境も改善していると聞く。

ライフラインを止めない強い思い

2019年4月から開始した「のるーと」は1年を経過し、着実に利用者を増やしてきた。世界中でオンデマンド型交通サービスが休止している中、運行を続けてきたことは特筆すべき点だ。
交通事業者が運行を手掛けていることから、ライフラインを止めるわけにはいかないという強い思いがうかがえる。アイランドシティ内の老人ホーム見学への送迎用の足として、無料で利用できるサービスも始まっている。
また、この6月からは西区壱岐南エリアでも1年間の実証運行を開始、「のるーと」を全国の地域・事業者に展開していくことも表明している。
快走が続く福岡アイランドシティのオンデマンド型交通サービス「のるーと」

「流しの文化」が変わるか

ドアトゥドアの移動サービスとして注目されているオンデマンド型交通サービスは、このパンデミックが続く社会において、公共交通機関を時間的にあるいは空間的に補完する移動手段として、普及が加速していくかもしれない。
これまでの「流しの文化」に加えて、まるで自分のお抱えハイヤーのように「呼んで利用するという文化」が浸透したその先に、自動運転や無人運転社会が訪れるのではないだろうか。