英アストラゼネカのコロナワクチン、初期治験で免疫効果確認
コメント
注目のコメント
先週もモデルナの治験結果に関する論文発表がありましたが、各社で新しく開発されたワクチンのデータが少しずつ積み上がり、公開されはじめています。アストラゼネカはイギリスに本社を置きますが、トランプ大統領による「ワープ・スピード作戦」によって支援されている製薬会社の1つです。ワクチン開発自体はオクスフォード大学によって行われ、アストラゼネカが製造と販売を担います。
治験が行われたのはAZD1222という名の、アデノウイルスベクターワクチン です。このワクチンは、アデノウイルスに新型コロナウイルスが細胞への侵入に使うスパイクタンパク質の設計情報を運ばせて、私たちの細胞にタンパク質を作らせる方法が取られています。アデノウイルス自体はもともとチンパンジーで風邪を引き起こすものが使用されていて、細胞内での増殖が不可能な弱毒株が使用されています。新しく現れたウイルスですし、ワクチン開発の先頭集団を走るワクチン達は新技術を用いたものが大半です。多様なアプローチで開発を続けることが大切です。
治験の目的は安全性と効果の検証です。フェーズ3に進めるだけの安全性は確認できたということで安全性のハードルはクリア。また、抗体の誘導が確認でき、さらに試験管内の実験で中和抗体の存在も確かめられたことに関しては初期ステップとして朗報だと思います。(中和抗体はウイルスが細胞に侵入するのを邪魔する性質がある。) 加えてT細胞応答を調べる実験を組み、誘導できた事を示すデータが得られていることは素晴らしいです。しかしながら、感染を予防したり、重症化を抑えたりする効果があるか、もしあるとすればどれくらい続くかは明らかでないので、今後の検証課題になります。
モデルナの治験に関する報道
https://newspicks.com/news/5069529?ref=user_4803225
ワープスピード作戦に関して
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2020-06-04/QBDEP5T0AFB901
3分解説 免疫の基礎知識
https://newspicks.com/news/4826314こちらの結果で、第2相試験になります。
▶Zhu F-C, et al. Immunogenicity and safety of a recombinant adenovirus type-5-vectored COVID-19 vaccine in healthy adults aged 18 years or older: a randomised, double-blind, placebo-controlled, phase 2 trial. The Lancet.
https://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736(20)31605-6/fulltext
有望な結果と思いますが、あくまで抗体上昇を観察したということです。
この研究の参加者はすべて中国の武漢の方ですので地域により有効性に差がある可能性があること、小児は研究に含まれていないこと、ワクチン接種後28日以内のデータのみのため持続性に関してはわからないことなどが問題点として指摘されています。
中国では現在感染者の増加が抑えられていますので、この研究中に研究参加者が新型コロナウイルスに曝露されるというエピソードは発生しなかったため、感染そのものが抑えられたかどうかは明らかではないということです。
さらに多数になった場合の有害事象がどうか、実際の感染を抑えるかどうかという有効性、持続性が焦点になりそうです。正確な有効性の評価は第三相試験に譲らなければいけませんが、この第二相試験の結果は有望なものだと思います。
試験結果によれば、ウイルスに対する抗体はワクチン接種後2週間で見られ、4週間後にも高い値で維持されていたということです。また、抗体だけでなく、その他の免疫系についても評価されており、いずれも有効性を期待させる結果です。
主要な副作用は、注射部位の赤みや痛み、そして発熱で、これも予想の範囲内ではないかと思います。
このワクチンでは、アデノウイルスと呼ばれる風邪のウイルスから増殖能力を失わせたものを遺伝子の乗り物として使用しています。懸念点は、過去の風邪で獲得されたアデノウイルスに対する免疫がワクチンを無効化しないかという点で、実際に参加者の50%強に高い力価でアデノウイルスに対する抗体を認めていました。
しかし、その上で有望な結果が得られており、ひとまず一つの懸念はクリアされたと言っていいかもしれません。ただし、アデノウイルスに対する抗体が高い人と低い人で比較をすると、コロナウイルスに対する抗体の量には差が見られたとのことです。
また、55歳以上の被験者では獲得される抗体の量がさらに少なくなる可能性も指摘しています。
これらの結果は、少なくとも短期的には感染を防ぐ効果や感染した際の回復を早める効果を期待させるものです。各社のワクチンに対する共通の懸念は少しずつ、有効かどうかよりもどの程度長期に持続するかに移行しつつあると言えるかもしれません。
この試験でも、二次的なエンドポイントとして、接種6ヶ月後の抗体価を設定しており、長期的な抗体の維持が可能なのか、今冬には明らかになる予定です。