【経営論】ネスレに学ぶ「これからの企業」の生きる道

2020/7/19
教養を身につけたいけれども、忙しすぎて学ぶ時間が取れない。一方で、日々のニュースだけでは、体系的な知識を得られない──。

そんなビジネスパーソンに向けて、NewsPicks編集部が月ごとにテーマを設定し、専門家による解説をお届けする新企画「プロピッカー新書」。毎週末に記事を掲載し、計4本で「新書1冊分の知識」が身につくはずだ。

今月のテーマは「SDGs」。一橋大学大学院特任教授の名和高司氏が講師役を務める。ファーストリテイリング、味の素などの社外取締役としても活躍する現役経営者の考察をお届けする。

「CSR・CSV・SDGs」の相違点

CSR、CSV、そしてSDGs…。この約20年間、「企業の社会貢献」をめぐって、様々な横文字のキーワードが普及してきました。
そして前回の記事では、それらの違いについて解説しました。
私の現時点での結論は、「SDGsではサステナブルな社会は実現できない」というものです。
SDGsの目標は、国連が掲げた「17の課題解決」です。企業が存在するのは地球があるからであり、その先行きが危ぶまれている今、まずは地球のサステナビリティを最優先しよう、という発想です。
この目標は正しい。誰も反論できない正論です。ただし、我々にはこれまで積み上げてきた歴史があり、その文脈の中で生きています。
例えば、資本主義の中で企業は利益を上げることを目標にしています。
そのため、環境に優しい素材を使うなどしてSDGs対応をすると、コストアップにつながり、株主への説明責任が生まれます。
国連から環境保全が重要だと言われても、株主を重要視する金融資本主義というシステムが変わらない限り、企業は急に対応することはできないのです。
地球全体のサステナビリティばかりを重要視すると、企業活動が持続可能ではなくなってしまう。そして、企業が存続できなければ、我々は困ってしまいます。
では、どうすれば社会と企業、双方の利益を両立できるのか。その答えが「CSV(Creating Shared Value)」にある、というのが私の主張です。
CSVの特徴は、本業と直結しているところにあります。
CSRやSDGsが企業にとってアリバイ的な要素が強いのに対して、CSVは本業で社会課題を解決することによって、経済的リターンを生むという発想です。
経済価値の追求が社会価値を阻害するのではなく、両者の正の循環を作ることが、金融資本主義に代わる、「次の資本主義の形」だと考えます。
ここまでが前回の簡単なおさらいです。
ところで、本当にそんな仕組みを作れるのか。実践している企業はあるのか。本日は実例をあげながら、CSVの本質についてお届けします。
最初に取り上げるのはCSVの元祖ともいえるスイスのネスレ。世界最大の食品メーカーは、どのようにCSVに傾注していったのでしょうか。

「ネスレ」を変えた名経営者

2001年、当時ネスレの社長だったピーター・ブラベックはこう宣言しました。