【完全解説】日本人が知らない「SDGs」の裏側

2020/7/12
教養を身につけたいけれども、忙しすぎて学ぶ時間が取れない。一方で、日々のニュースだけでは、体系的な知識を得られない──。

そんなビジネスパーソンに向けて、NewsPicks編集部が月ごとにテーマを設定し、専門家による解説をお届けする新企画「プロピッカー新書」。毎週末に記事を掲載し、計4本で「新書1冊分の知識」が身につくはずだ。

今月のテーマは「SDGs」。一橋大学大学院特任教授の名和高司氏が講師役を務める。ファーストリテイリング、味の素などの社外取締役としても活躍する現役経営者の考察をお届けする。

「SDGs」って何だっけ?

ここ数年で、SDGsという言葉を耳にする機会が増えたのではないでしょうか。大企業の経営者が大切さを唱え、メディアにも頻繁に登場します。
しかし、その知名度の一方で、本質を理解している人は少ないように思います。「SDGsとは何か?」と聞かれて明快に答えられる人は少数でしょう。
私は長らく、経営モデルについて研究してきた人間です。
現在は、ファーストリテイリングや味の素などで社外取締役を務めながら、現代における企業の成長戦略について探求を続けています。
今回の連載では、SDGsというバズワードを切り口にしながら、これからの企業経営のあり方を提示してみたいと思います。
まず簡単に、SDGsについて解説しましょう。Sustainable Development Goalsの略称で、「持続可能な開発目標」と訳します。
文字だけを読んでもわかりにくいので、その背景から理解していきましょう。
歴史をさかのぼると、事の発端は産業革命にあります。産業機器の発明によって人間活動が急激に活発化し、経済や社会の基盤である「地球」の持続可能性が危ぶまれることになりました。
どれだけ企業が利益を上げようとも、人類が生活できないほど地球が破壊されてしまっては本末転倒です。
そこで2000年に開催された国連ミレニアム・サミットにて、SDGsの前身となる「ミレニアム開発目標(MDGs)」が採択されました。
MDGsは2015年を目標年として極度の貧困の縮小や感染症対策など8つのゴールを設け、加盟各国がその達成に向け努力するという内容でした。
そして2015年、MDGsの後継として、SDGsが国連サミットで採択されます。
MDGsで未達成の項目への取り組みを進めることに加えて、新たな課題も掲げられました。目標の数は8から17に増えて、2030年までの達成を目指しています。
両者の最大の違いは、先進国の位置付けです。
MDGsでは途上国の課題が中心で、先進国はそれを援助する位置付けだったのに対し、SDGsはすべての国に共通の課題として設定されています。
ごく当たり前のことではありますが、人間が地球に住めなければ企業も存在しません。そうであるならば、すべての国と企業が「地球の存続」を第一に考えよう。
これが、SDGsの根本的な考え方です。厳密には健康や教育、ジェンダーなどのトピックも含まれており、本当に達成できれば今よりもっと素晴らしい社会が実現されるのでしょう。
ここまでが「教科書的」なSDGs解説です。

SDGsには「裏」がある

SDGsで掲げられた17の目標は、いわば世界的に認められた社会課題であり、誰も反論できません。環境問題は改善した方が良いし、教育の機会は平等に与えられた方が良いに決まっているからです。
ところが、罰則規定がないこともあり、国や企業によって取り組みにグラデーションが生じています。欧州で活発な一方、米国ではそこまで盛り上がっていません。
なぜ、企業や地域によって異なるのか。ここからは、SDGsの「裏側」について解説していきましょう。
まずSDGsに最も注力しているのが欧州の企業です。というより、彼らが推進している。そもそもSDGsは、ユニリーバなどの欧州企業が中心になって普及した価値観です。
環境意識の高い欧州では、今や地球と社会に優しいというのは、企業のあるべき姿として認識されています。
そこから外れている企業は誘致もされなければ、優秀な従業員も集まりません。企業として成り立たなくなり始めているのが、欧州での現状です。
しかし、欧州企業だけが取り組んでいては不利になる。地球に優しい原料や再生可能エネルギーを使うことは、コストアップになってしまうからです。
そうすると、米国や中国企業との競争で負けてしまうかもしれない。そこで、ゲームのルールを変えるために、国連などに働きかけて国際標準としてSDGsを作ったのです。
全体を共通のルール上に乗せるこの手法は、「イコールフッティング」と呼ばれており、欧州ではごく一般的な経営戦略の1つです。
もちろんSDGsは、地球環境全体にとってポジティブな内容であり、競争優位に立つことだけが目的ではありません。
それでも、SDGsの一面として、欧州企業がイコールフッティングの考えをもとに推進しているというのも事実です。
(写真:SOPA Images /Gettyimages)

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