【林篤志】ローカルプロデュースとは「生き様としての起業」だ

2020/6/1
NewsPicks NewSchool」では、7月から「ローカルプロデュース」プロジェクトを始動。リーダーを務めるNext Commons Lab(NCL)代表の林篤志氏は、「ポスト資本主義社会を具現化する」を旗印に、国内外13拠点を構えて、ローカルに注目して様々な社会実験を実践している。林氏に「ローカルプロデューサーという仕事」について聞いた(全2回)。
【林篤志】私がローカルプロデューサーになった理由

消えないモヤモヤ

──勉強会からはじまり、自由大学、土佐山アカデミーと、それぞれで得たノウハウや経験が2016年のNCL立ち上げにつながったのでしょうか。
土佐山では移住者も増え、小中一貫校を行政と連携してつくったので、地方創生のモデルになっていると言えます。
ただ、同時に限界も感じました。
人口1000人ほどの町や地域で何かやろうとすると、変化も手にとるようにわかります。一方で、「このまま社会は変わるのだろうか」と疑問が浮かんだり、さまざまな法律の壁などに直面することも多くなっていました。
そのため、どこかモヤモヤしたものを抱え、2年半どっぷりと土佐山に住んだあとは第一線から退いて、東京にまた戻ることにしました。
林 篤志/一般社団法人Next Commons Lab Co-Founder 代表
2016年、一般社団法人Next Commons Labを設立。自治体・企業・起業家など多様なセクターと協業しながら、新たな社会システムの構築を目指す。日本財団 特別ソーシャルイノベーターに選出(2016)。Forbes Japan ローカル・イノベーター・アワード 地方を変えるキーマン55人に選出(2017)
東京に戻ってからは、全国各地の地方プロジェクトの立ち上げのコンサルティングなどをしていました。
ただ、どうしてもモヤモヤした気持ちが消えません。
各地域でもNPOなどが一生懸命に活動していましたが、なかなか社会は変わらない。3.11の後に変わったように見えたものの、本質的には変化はありませんでした。
そうしているうちに変えていくことにむなしさを感じるようになり、そうであれば変えるのではなく、自分たちで新しい社会をゼロベースでつくったほうがいいのではないかと考えるようになったのです。
土佐山アカデミーのときからそういった構想は持っていましたが、当時は時代背景やテクノロジーの進歩、僕自身のキャリアを考えても現実的ではありませんでした。
しかし、2015年辺りから実現できそうな感覚があり、実際に2016年に岩手県遠野市でNext Commons Labの第1号を立ち上げることができました。

表現としての起業

──遠野で感じた手ごたえと課題は何ですか?
遠野での最大のポイントは、資本の多元化でした。
まずはじめたことは、現在の市場経済のなかで可視化されていないものの可視化でした。
それぞれの地域には、「こんな人がなぜここに」と驚くようなすごい人がいます。観光地になってはいない魅力や深みがあるエリアもあります。
それらは可視化することによって、初めて価値が生まれます。
今ある地域の問題は、価値があるはずなのに、可視化されていないから価値があるものとされていないことがほとんどです。
──世界からはもちろん、日本ですら見えていないと。
今までであれば、何となく既存の社会や市場経済のなかで有名な観光地や、高級な特産品が取り上げられてきました。
ただ、それではどこの地域も変わらないので、差別化ができていなかったと言えます。同じルール、同じ土俵で勝負しているだけで、個別に可能性を感じているわけではありません。
観光客としてではなく、何か新しいもの、新しい社会をつくりたいとローカルに入る人たちを呼び込むのであれば、潜在的な資源や価値を可視化することが最も効果的です。
──価値の可視化は目利きとも言えそうです。
NCLでは、潜在的な価値を発掘して、世の中に見せ、それをうまく活用できそうな人たちをマッチングすることを基本としています。
現状では、少なくとも潜在的な価値を可視化することで、それに感化された人たちを呼び込むという段階には成功したのではないか、と考えています。
そんなNCLのローカルベンチャー事業に興味を持って来る人たちの多くは、20代後半から30代前半の都心部の大手企業で働いていた元サラリーマンたちです。
彼らは非常に優秀ですが、根っからの起業家ではありません。
大きなビジョンを持っていて、リスクを恐れないというより、今の社会や働き方に疑問を抱いて自分の手で何かつくりたいという人たちで、いわゆる現代社会の中間層です。
しかし、そういった多くの人がしっかりとステップを踏んでいくことで、地域資源を活用して自分の暮らしや生き様をスモールビジネスやローカルビジネスを通じて、体現できています。
IPOのようなスケールではありませんが、表現活動としての起業であったり、自分の生き様としての起業と言えるかもしれません。
そういった意味で、地域には非常に可能性があると感じています。

ローカルプロデューサーに必要な資質

──アートやクリエイティブに近そうです。
その通りですね。
今はどうしても資本主義経済の枠組みで勝負しなければいけないので、経済システムやインフラを変えていくことで、純粋に自分たちのやりたいことをやることで生きていける仕組みをつくっていかなければいけません。
もし国家レベルでそういった取り組みを行おうとすると、ベーシックインカムのような形になると思います。
しかし、僕たちはそういった期待はしていません。あくまでも、自分たちでいかに新しい社会インフラをつくっていけるかを重要視しています。
そのためには、例えばコモンズといわれている自分たちが共有したい価値観のように、自分たちの守りたいもの、一緒にいたい人たちで共有したいと思えるセーフティネットやインフラを、自らの手でつくっていくことが大事です。
──スケールの大きな取り組みに感じます。
ローカルだからといって、小さい話ではありません。
少なくともローカルプロデューサーは、ローカルを通して新しい社会像を体現していく人たちです。
それはデザイナーであり、推し進めていくディレクターであり、あらゆることに挑戦するプロデューサーであると思っています。
そう考えると、世界も非常に近く感じます。実際、今後は近隣諸国も人口が減少していくためか、国外から僕たちのところに話が舞い込んできたりもします。
日本はGDPやテクノロジーの面では非常に後れを取ってしまっている現状がありますが、将来の社会的課題の解決方法を明示していけるチャンスは広がっているように感じます。
──ローカルプロデューサーにはどのような資質が必要でしょうか。
地域で変化を起こすためには、社会全体を捉える必要があるので、横断的な視点と知見を持ち合わせていなければいけませんね。
今までは、「俺の地域を盛り上げたい」という根っからの地域活性おじさんや、「この地域が大好き」というインターンの大学生がほとんどでした。
そういった取り組みがダメだとは思いませんが、地域活性業界のような意識では問題がありそうです。
その上で、肩書なんてものは地域の人たちからしたら全く関係ないことも考慮しなければいけません。
相手からすれば、これまでのキャリアなんてどうでもいいこと。
「お前という人間は何なんだ」から問われるので、マクロ視点は持ちながらも、地元のおっちゃんたちと朝まで酒飲みながらくだらないことを話し続けられなければいけません。

まさに総合格闘技

──政治家の資質とも共通していそうです。
政治家と似ている点はあるかもしれませんね。何しろ地元のおっちゃんたちも、地域によって性質は異なりますから。
例えば、海の男と山の男は全く違います。まず海の男は荒く、日本酒を焼酎で割ったようなイメージです。
一方、山には朴訥(ぼくとつ)とした男たちが多いです。また、東北と西日本でも大きく違いがあります。
地域とひとくくりにしても、コミュニケーションの仕方は各地域で違いますし、地元の人たちとも、自治体とも会話を重ねていく必要があります。
その上、大手企業ともコミュニケーションを取らないといけませんから。
──もはや総合格闘技ですね。地上戦も空中戦もできなければいけない。
それに、活動を続けていると「お前ら格好いいことだけ言っているけど、目先の稼ぎのほうが重要だろ」と地元農家から批判を受けたりなど、さまざまな考えや社会課題にも直面していきます。
もちろん、問題が一気に解決できるはずはありませんが、全体を意識しながらあらゆる人たちに合わせて、コミュニケーションの周波数を変えなきゃいけません。
そう考えると、今の取り組みは、まさしく総合格闘技と言えますね。
(構成:小谷紘友、撮影:是枝右恭)
ローカルプロデュース」プロジェクトは、7月10日(金)スタート。プロジェクトの詳細はこちらをご覧ください。