【永田暁彦】次世代CFOに求められる「4つの条件」

2020/6/9
プロジェクト型スクール「NewsPicks NewSchool」では、ユーグレナ取締役副社長COO・リアルテックファンド代表の永田暁彦氏による「次世代CFO共創」プロジェクトを実施します。(「次世代CFO共創」の詳細はこちら。)

ミドリムシを使った食品・化粧品にとどまらず、近年はバイオ燃料にも挑むユーグレナ。CEOの出雲充氏を影で支える永田暁彦氏が「次世代CFO論」を語ったNewsPicksアカデミアのイベントリポートを全3回でお届けします。(イベント開催:2019年7月24日)

※また、開校に先駆け、永田暁彦氏とマネーフォワード代表取締役社長 CEOの辻庸介氏による特別ウェビナー対談「新時代CFOの条件」を6月18日に開催いたします。(「新時代CFOの条件」の詳細はこちら。)

資金調達は「株主のデザイン」でもある

ユーグレナの永田暁彦です。今日は、皆さんの頭にあるファイナンスやCFO(最高財務責任者)のイメージを壊すためにやってきました。
ユーグレナは2005年に創業し、世界で初めてミドリムシの大量培養に成功した会社です。ミドリムシをはじめとした微細藻類で「人と地球を健康にする」を経営理念にしています。
永田暁彦/株式会社ユーグレナ 取締役副社長
事業は大きく分けて、食品・化粧品などのヘルスケア部門と、飼料・バイオ燃料などのエネルギー環境部門の2つがあります。
とくに今、力を入れているのは、微細藻類を使った「バイオジェット燃料」の研究開発です。「ミドリムシで飛行機を飛ばす」を合言葉に2018年、神奈川県に日本初となるバイオジェット・ディーゼル燃料製造実証プラントを竣工しました。
2018年に竣工したバイオジェット燃料実証プラント(Photo by つのだよしお/アフロ)
株式市場では、2012年にマザーズ、2014年に東証一部に上場しました。株主数は約8万8000人(社)を数えます。これは日本企業トップ100に入る、サントリーやJALと並ぶ数字です。また、主要株主にANAやJX、日立など、大企業が多いのも特徴といえるでしょう。
私たちは早い段階からバイオジェット燃料の開発を視野に入れていたので、上場前から積極的に大企業との資本提携を行ってきました。
今でこそ、大企業がベンチャー企業に出資するのは一般的になっていますが、2010年前後はどの大企業も「ベンチャーに出資するのは初めて」という状態だったので、私たちには今のトレンドを切り開いてきた自負があります。
売上高は、2012年上場時で15億円、2018年9月期は150億円なので、6年で10倍に成長したことになります。しかしこれは、オーガニックグロース(現在の自社商品やサービスで売り上げを伸ばすこと)ではありません。
会社が成長する要素は3つあると思っています。ひとつは、ものを作ったり開発したりする力。2つ目はマーケティング力、ものを売って会社を拡大させる力。3つ目はM&A(企業の合併・買収)です。
ユーグレナは上場後、毎期ほぼ2社ずつM&Aをしており、それも大きく売り上げに反映しています。
私たちはミドリムシを作ることが専門なので、通販で広く売ってくれる会社、工場のある会社などを積極的に買って、上流から下流までバリューチェーンをつなげようとしています。
株価でいうと、2012年上場時の時価総額は20~30億円でスタートしましたが、約3ヵ月後には2000億円規模に上昇しました。
なぜこれだけの急上昇が実現したか。上場する際の事業計画書には、今やっている事業のことしか書けないので、売り上げ15億円の健康食品会社だと、20億円程度が妥当なバリューです。
しかし上場した瞬間から、ANAやJXから出資を受けていることを書けるのです。これにより、バイオジェット燃料事業が絵空事ではなく実現する可能性が高いと株主や投資家にイメージしてもらえたために、株価を上げることができました。
これは運良くそうなったのではなく、戦略でもありました。私たちは資金調達やM&Aがしたかったので、社長の出雲(充氏)と「上場1年以内で、絶対に時価総額を1000億円にする」と決め、そのためにあらゆるアプローチをおこない、出資にたどり着きました。
つまり、ファイナンスをすることはお金を集めるだけではなくて、株主をデザインすることでもあるのです。それは、将来に対する蓋然性(確からしさ)を示すことにもつながると思っています。

次世代CFOの本質とは

ここまでお話しした資金調達や株価設計、株主とのコミュニケーション(IR=投資家向け広報)は、一般的にイメージされるCFOの仕事です。
しかし今日、私がここに呼ばれているのは、旧来型とはちがう次世代型のCFOだと、一定程度の評価をいただいているからかなと感じています。
では、CFOの業務の本質とは何でしょうか。私は4つあると思っています。
1つ目は「戦略」です。戦略には投資家やマーケットに対して「こういう戦略でやっていきます」と示し、期待値を醸成する「見せる(魅せる)戦略」と、社内で何に投資して各部門がどうアクションするかという「実行の戦略」があります。
なぜ戦略が大切かというと、それがあって初めて、お金がいくら必要かわかるからです。たとえばバイオジェット燃料の計画では、2025年の商業用プラント完成に約300億円かかります。
ということは私には、商業プラントを作るミッションと、300億円の資金調達をしてもダイリューション(1株あたりの株価が希薄化すること)しない株価設計という、2つのミッションがあるのです。
2つ目は「調達」です。資金調達といえば、ベンチャーキャピタルやエンジェル投資家、また大企業へ株式を発行して出資してもらうエクイティファイナンスが仕事だと思っている人が、あまりに多すぎることが気にかかります。
株価はあくまで、ひとつの手段にすぎません。他にも、新規プロジェクトの立ち上げや、建物や施設を担保にした資金調達など方法はいくつもあって、エクイティファイナンス以外に資金調達の手がないのは、最弱の状況です。
もっとも大切なのは、戦略実行の際に「お金がない」と言わせないこと。そのためにはあらゆる手段を使って資金調達の選択肢を増やすことが、CFOの役割です。
3つ目は「理解」。お金が入ったうえで、今の会社がどうなっているのか、管理会計上の数字を見ます。
そして4つ目が「投資」で、どの事業にどれだけのお金と人を使うのか分配することです。
単に割り当てるのではなく、社長、研究者、開発者の脳みそにどれくらいのメモリがあり、それらがどのタイミングでどこに使われ、集中力はどれくらいあるか。そうしたことを把握したうえでロケーションする。
「名参謀」とタイトルがついた今日のイベント名は少し恥ずかしいですが、参謀といわれるからには、そこまで見るべきだと考えています。
戦略、調達、理解、投資。この4つを回すことが、CFOの本質でしょう。

CFOの仕事は遷移する

私自身のこれまでを振り返ると、ユーグレナの社外取締役になったのが2008年、フルタイムで参画したのは2010年です。当時は資金調達、経営企画、業務提携・M&A、広報と、一般的なイメージのCFO業務をしていました。
その後、IPO(株式公開)前の2011~2012年には、人事や経理、上場準備も業務に加わりました。いわゆるファイナンスではありませんが、上場後の株価設計を考えるうえでも、必要な仕事だったと考えています。
また上場後は、株主へのIR活動はもちろんのこと、新規事業である海外やバイオ燃料の事業も担当することになりました。さらに2018年からは、研究開発や商品企画、マーケティングやセールス業務も加わっています。
こうなるともう、CFOなのか、CMO(最高マーケティング責任者)なのか、COO(最高執行責任者)なのか。私って何なんだ? とわからなくなりますね。
要するに、CFOの業務は時代や会社のステージによって、変遷していくということです。タイミングを見ながら、先ほど話した4つの業務のうち、今は何をすべきかを考える。
また、戦略や事業の「実現」まで責任をもつのが、管理担当役員とは違うCFOの価値です。つまり、資金調達をすることが仕事だと思っているようでは、CFOの価値があるとは言えないのです。
とくに未上場時の資金調達は、数字よりもパッションや実現しそうな雰囲気づくりが大事な場合もあります。それは、CFOより社長のほうが得意だったりしますからね。
私は、CFOには5つの型があると思っています。
1つ目は「立ち上げ特化型」。創業期に1000万円程度を獲得して、経理体制を作るのが得意な人です。
2つ目は「IPO特化型」。上場の2年ほど前に入社し、上場企業の体制を作って会社を上場させ、2年後くらいにストックオプションを売って別の会社に行く人です。
3つ目は上場後に入社して、IRや資金調達を得意とする人。
4つ目は「自分の城型CFO」。上場後に子会社を作ったり自分の会社を始めたりする人ですね。
最後は「生涯右腕型CFO」で、上場前から会社を支えて副社長化する人です。私はこれに当たります。
こう見ても、CFOと一口にいっても会社のステージによって、仕事内容も必要とされる能力もまったく異なることがわかります。
結局、会社を経営していくために必要な「仕事の数」は一緒なんです。ひとつの仕事を360°の円だと考えると、誰がどの範囲を担当するかが重要で、CEO、CFO、CMO……という役職の定義は、どうでもいいと思っています。
ユーグレナという「仕事」を、CEOやCFOら役員で分割するイメージ(Photo by i-Stock/DNY59)
忘れてはいけないのは、CFOはファイナンス「機能」ではなく、経営者であるということ。
私は今、ユーグレナのバイオジェット燃料事業を絶対に成功させようと、情熱をもってあらゆる仕事に取り組んでいます。そのための役割を、社長の出雲(充氏)と分割しているだけです。
これからのCFOに求められるのは、想像力、判断力、そして実行力といった「経営力」です。CFOになりたい人も、CFOをほしい人も、そこを意識していただければと思います。
※続きは明日掲載します。
(執筆:合楽仁美、撮影:鈴木大喜)

お知らせ

7月開校のプロジェクト型スクール「NewsPicks NewSchool」では、ユーグレナ取締役副社長COO・リアルテックファンド代表の永田暁彦氏による「次世代CFO共創」を実施します。
次世代CFO共創」の詳細はこちら
開校に先駆け、永田暁彦氏とマネーフォワード代表取締役社長 CEOの辻庸介氏による特別ウェビナー対談を開催いたします。
テーマは「新時代のCFO」。「CFOはファイナンス機能ではなく、経営者である」と考える永田氏とFinTechベンチャーとして上場を果たし、ユーザー数950万人を超えるサービスを生み出す辻氏の二人が考える新時代CFOの役割と経営のあり方について、お話いただきます。