【西口一希】結果を出す神マーケターは「顧客一人」を分析する

2020/6/14
消費が動き出した今、再び「マーケティング」が注目されている。
P&G、ロート製薬、ロクシタンジャポンで、数々の売り上げ記録を樹立し、2017年にスマートニュースに参画。圏外だったアプリランキングを1年後に1位まで引き上げるなど、「結果を出すマーケター」として知られる西口一希氏。
意外にも、そのキャリアは華麗な成功録でなく、失敗経験から得られた学びの蓄積だったという。「9segs(ナインセグズ)モデル 」「N1分析」など独自の顧客戦略理論を携え、新たな挑戦を続ける西口氏が初めて語る「仕事の哲学」とは。(全7回)
西口一希(にしぐち・かずき)/Strategy Partners 社長、Marketing Force 共同創業者
1967年兵庫県生まれ。1990年大阪大学経済学部卒業後、プロクター・アンド・ギャンブル・ジャパン(P&G)マーケティング本部に入社。ブランドマネジャー、マーケティングディレクターとして、「パンパース」「パンテーン」「プリングルズ」「ヴィダルサスーン」などのブランドを担当。2006年ロート製薬に入社。執行役員マーケティング本部長として「肌ラボ」「Obagi」「デオウ」「ロート目薬」などの60以上のブランドを統括。2015年にロクシタンジャポン社長に就任。2016年にグループ最高利益達成、アジア人初のグローバルエグゼクティブメンバーに選出され、社外取締役に就任。2017年スマートニュースへ日米のマーケティング担当執行役員として参画。2年で日米累計5000万ダウンロード、上場前の時価総額1000億円超のユニコーン企業化に貢献し、マーケティング戦略顧問に。2020年6月現在、事業コンサルタントと投資業務を行うStrategy Partnersの社長。顧客戦略構築を行うMarketing Forceの共同創業者。

顧客一人の深層心理を掘り下げる

たった一人の分析から、事業は成長する。
この一文には、私がビジネスの実務家として、30年間で獲得した信念が詰まっています。「たった一人」というのは、商品を買っていただく顧客のことです。
事業の現場では、売り上げ規模が拡大すればするほど、大きな単位で顧客の「マス」動向を知りたくなるものです。マスを捉えた調査・データ分析が優先される意思決定の場を、私もたくさん見てきました。
しかし、それが必ずしも結果につながるものではないという真実も知りました。それは頭で理解したのではなく、私自身が悩み抜きながら試行錯誤し、体得していった確信でした。
実在する顧客一人の深層心理 を、徹底的に掘り下げるだけでいい。
「N=1」にちなんで「N1分析」と名付けたこの手法を提案すると、事業経営に携わる人たちの多くは、不安そうに首をかしげます。
不安になる気持ちも分かります。「たくさんの人に買っていただきたいのに、たった一人の分析だけで十分であるはずがない」と懐疑的になるのは当然でしょう。
重要なのは、「どこにいる、どの一人を掘り下げるのか」です。
そこで、まずN1を絞り組むために顧客全体を分類し分析するために、顧客を9つのセグメントに分ける「9segs(ナインセグズ)モデル 」という分析手法も独自に考案し、併せて活用してきました。