【超人来日】東京2020パラリンピック1年前カウントダウンイベント

2019/8/28
パラリンピック東京大会の開催をちょうど1年後に控えた2019年8月25日。代々木公園では、「東京2010パラリンピック1年前カウントダウンイベント みんなのスポーツ×ファンフェスティバル」が開催された。
パラリンピックメダル保持者による記録更新デモンストレーションや、パラスポーツ選手と特別ゲストによるエキシビションマッチ、来場者も参加可能なパラスポーツ体験などを通して、パラリンピックの魅力について理解を深める、有意義なイベントとなった。NewsPicks Studiosは、NewsPicksプロアナ奥井とともに現場を取材。ここでは、そのレポートをお送りする。

「ブレード・ジャンパー」が8.5Mの跳躍で魅せた

イベントは、パラスポーツのトップアスリートたちによる陸上競技デモンストレーションから幕を開けた。MCには元陸上十種競技日本チャンピオンでタレントの武井壮氏が登場。元陸上十種競技日本チャンピオンならではの知識で会場を盛り上げる。
じりじりと照りつける太陽の下、代々木公園陸上競技場に集まった観客。目当ては、義足を使用した男子陸上走り幅跳びの世界記録保持者で、パラリンピック2大会連続金メダル「ブレード・ジャンパー」の異名を持つマルクス・レーム選手による「ワールドレコードチャレンジ-ロングジャンプ」だ。
競技ルールは一般的な走り幅跳びと同様であるが、今回は特別ルールとして、踏切板近くに2台の扇風機が設置されている。扇風機による追い風を利用し、自身の持つ世界記録更新を目指すのだ。武井氏は扇風機による追い風効果について、「今回の扇風機の大きさを鑑みれば、影響は微々たるもの。ほとんど公認記録と思っていい」と解説。会場の期待が膨らむ。
レーム選手が持つ世界記録は、オリンピックの優勝記録をも凌ぐ8m48cm。会場がまだざわつく中でスタートした1本目では、いきなり8m39cmの大ジャンプを見せた。世界記録まで、あと9cmに迫る。
2本目に入る前に、レーム選手が観客に手拍子を求めたことで、会場の一体感が高まった。2本目は踏み切りミスに終わるも、3本目の助走準備に入るレーム選手には、先ほどよりも強く大きい手拍子が続く。
空に雲がかかり、地面に陰が落ちる。一瞬の間を置いて、また陽の光が差し込んできたタイミングで3本目の助走をスタート。軽やかな走りから高く、跳躍。
マルクス・レーム選手。
記録は8m50cm。世界記録更新の瞬間、両腕を上げ雄たけびを上げるレーム選手に、会場からは大きな拍手が巻き起こった。
続いて行われた「ワールドアスリートチャレンジ-100mスプリント」では、100m、200mでアジア記録を持つ井谷俊介選手、国際大会でも上位の記録を残す若手のホープ・吉田知樹選手、リオデジャネイロパラリンピックで金銀銅のメダルを獲得したダービット・ベーレ選手らが登場。それぞれの目標タイム達成を目指し、3人の義足スプリンターが走る100m走デモンストレーションだ。
先におこなわれたロングジャンプとちがい、今回は一発勝負。武井氏は「100m走は一歩のミスも許されない」と、求められる技術力の高さを説明。静寂に包まれる中、スタートが切られた。
左から、ダービット・ベーレ選手、吉田知樹選手、井谷俊介選手。障害の度合いが違うため本来はクラスの違う3人だが、この日はエキシビションとして同時に走った。
義足とは思えないスピードで走る選手たちに、会場は終始圧倒された。3選手とも目標タイムをクリアし、吉田選手が13秒68、ダービット選手が11秒57を記録。そして、井谷選手は11秒43(参考記録)を記録し、自身の持つアジア記録を更新という文句なしの走りを見せ、会場を大いに沸かせた。
山本篤選手。
会場ではその後、リオパラリンピック男子走り幅跳び銀メダリストの山本篤選手、アジアパラ競技大会女子走り幅跳び銅メダルの兎澤朋美選手、引き続きの参加となる吉田知樹選手を加え、陸上競技体験「ランニングクリニック」を開催。
参加者は、体の動かし方といった走り方の基礎から丁寧に指導を受け、最後は実際に選手たちと40m走を対決。山本選手をはじめ、選手たちが気さくに参加者と交流していたのが印象的だった。

サプライズゲストは「新しい地図」

サッカー・ホッケー場では、パートナー企業の各ブースにて、パラリンピックに関係した展示や体験に参加できる。プロアナ奥井が、ブースを回った。
会場内では、ミストシャワーを撒くスタッフが巡回している上、かき氷の無料配布や、オリジナルアイスの販売など、熱中症対策に力を入れていた。
「アポロ」などおなじみのお菓子を自由にトッピングし、オリジナルアイスが作れる明治ブース。
車いすバスケットの体験ができたアース製薬ブース。各国の人が集まるパラリンピックでは、伝染病予防のための「蚊対策」も重要な課題。
中央では、特別ゲストを招いての「車いすテニス体験」が行われ、ゲストに「新しい地図」(稲垣吾郎氏、草彅剛氏、香取慎吾氏)の3人がサプライズで登場。
3人はテニス協会の中澤氏によるレクチャーを受けながら、実際に車いすテニスを体験。
その後、来場者からの参加者を募っての、車いすテニス体験が実施された。
参加した奥井は「車いすのホイールが想像以上に重く、移動や方向転換がうまくできませんでした。実際にやってみて、この車いすを自分の身体の一部として動かしている選手たちのすごさを改めて感じます」と、車いすテニス初体験の感想を述べた。
続いて会場では、KREVA氏、AKB48 チーム8(岡部麟氏、吉川七瀬氏、大西桃香氏)をゲストに、「ボッチャチャレンジ」を開催。
ボッチャとは、ジャックボールと呼ばれる白いボールを目がけて、2チームが交互にボールを投げ、より近い位置に自チームのボールを置く、カーリングに似たルールの競技のこと。
会場には、日本のボッチャ界を牽引する廣瀬隆喜選手と杉村英孝選手を迎え、ボッチャ競技の解説後、2チームに分かれてのエキシビジョン・マッチを実施。途中、難易度の高い大技をKREVA氏が成功させるといった一幕もあり、大いに盛り上がった。
一般体験の時間には、繊細なボールコントロールが求められるボッチャに翻弄されている参加者の姿が見られた。
体験した奥井も予想以上に苦戦したようで、「実際にやってみると、ボールを投げるときの力加減が難しく、思い通りの位置にボールを投げられませんでした」と悔しさを滲ませる。

人類の限界突破を目撃する

取材終了後、パラスポーツのトップアスリートによるデモンストレーションを間近で見て、パラスポーツの体験もした奥井に、イベント全体の感想を聞いた。
「はじめにレーム選手の跳躍を目の前で見たとき、『人間はこれほど高く跳べるのか』と感動して、一気に引き込まれました。生じゃなくても、テレビや動画で見るだけでも凄さは伝わると思うので、まだ見たことがない人にはまず見てほしいです」(奥井)
競技用義足をはじめとしたテクノロジーの進化とパラアスリート自身の研鑽により、パラスポーツの記録は伸び続けている。イベント冒頭で世界記録を出したマルクス・レームのように、健常者以上の記録を出すパラアスリートも珍しくなくなっていくだろう。
パラリンピック東京大会の観戦チケットの抽選申込は、2019年9月9日まで。人類が限界を超えていく瞬間を目撃できるまたとない機会を逃さないようにしたい。
(執筆:早川大輝、編集:株式会社ツドイ、撮影:高須力)