【武井壮】パラアスリートに必要なのは「営業」だ

2019/8/26
今回Newspicks Studiosは“百獣の王”武井壮と、日本財団パラリンピックサポートセンターの会長山脇康の対談をセッティング。かねてからパラスポーツに親しみ、「東京パラリンピックを成功裏に収めるためにはスーパースターの登場が必要だ」と語る武井の言葉を、2020年・東京パラリンピックの成功に向けて尽力する山脇にぶつけた。
選手にベネフィットが届かない
——武井さんは、日本人は競技ではなく人でスポーツ観戦をする特徴があるため、パラスポーツのさらなる振興のためには圧倒的知名度を誇るスーパースターの登場が不可欠だと提言しています。
武井 ぼくはもともと陸上の十種競技という、あまり有名ではない競技の出身なんです。
で、お恥ずかしい話ですが、現役当時は、自分の記録が伸びれば競技をみなさんに知ってもらえて、観衆を魅了することができ、自らの経済活動にも結びつくと思っていました。
ところがいざ日本一になったとき、周りを見回してみたら、僕がチャンピオンになったことはおろか、十種競技が何かを知っている人すらほとんどいなかった。もちろん食べてもいけません。
「存在を知られなければ、頂点まで登っても大きな価値は生めない」と、そう後悔したことがきっかけですね。
「百獣の王を」を目指す男 武井壮。NHK『武井壮のパラスポーツ真剣勝負』に出演している。
——山脇さんも、スター選手が必要だと思いますか?
山脇 スーパースターが生まれたらもちろんすばらしいですが、意図して作ることは難しいと思っています。
ですから我々は、“みんなのスーパースター”の出現を待つのではなく、ひろく競技について知ってもらい、お客さん1人ひとりにそれぞれのヒーローを見つけてもらいたいと考えています。
武井 これはどちらが正しいという話ではないんですが……ぼくの考え方はまったく逆かもしれません。
観客のみなさんそれぞれがお気に入りのアスリートを見つけて、コアなファンとなって応援してもらうのは正しいです。正しいんですけど、それだとどうしても、選手自身にはベネフィットが届きにくい。
それよりも、ひとりのスター選手が出てきたほうが、大きな力が集まり、結果的にその力が周囲にも分配され、みんながハッピーになれると思っています。
——今のバスケットボールがそんな状況でしょうか?
武井 そうだと思います。
2016年に国内プロリーグがはじまって地方から徐々に人気が出てきたタイミングに、渡邊雄太選手と八村塁選手というNBAに届いた2人の選手の華やかな活躍が重なり、今まさに、一気に花開こうとしている。
そうしてスター選手が生まれることで急激に資本が投下され、環境がよくなり、多くの選手がプロとしてやっていけるようになります。
ここ数年で言えば、フィギュアスケートや卓球もそうですよね。
大事なのは、ひとりの突出した選手の登場によって人が集まり、「他の選手もすごい」と気づいてもらえるということなんです。
武井壮は「異端」ではない
日本財団パラリンピックサポートセンター会長、山脇康。日本パラリンピック委員会の委員長も務める。
山脇 私たちも、パラアスリートのため、パラスポーツのためにやれることはすべてやろうと思っていますが、戦略的にスーパースターを作り出すのは容易なことではありません。
武井 いえ、ぼくは意外と簡単だと思っています。いちいち反論するようで申し訳ないのですが……。
山脇 そのためにお会いしているようなものですから大丈夫です(笑)。気にせず言ってください。
武井 アスリートはどうしても、競技力を高めてからとか、パラリンピックで結果を出してからとか、有名になる努力に前提条件をつけてしまうんですが、その思考が阻害しているものってたくさんあると思っていて。
別にそんなに競技力が高くなくても、一番有名な選手になることは可能なんです。ぼくがそうじゃないですか。ぼくを異端だ、例外だと思わないで欲しいんです。
山脇 そういう発想はなかったので、驚いています。
武井 できることは山ほどあります。
ぼくはアマチュアスポーツ(十種競技)、プロスポーツ(台湾プロ野球やゴルフ)、芸能界と3つの世界を渡り歩いてきましたが、このなかでもっともファンサービスをしないのが、パラスポーツを含むアマチュアスポーツの選手です。
もっともファンの少ない人たちが、ファンを増やす努力をほとんどしていない。これは芸能界に入ってわかったことですが「自然体」のままでテレビに出ている人はひとりもいません。
みなさんそれぞれが、ファンに「素敵!」と思われるための努力をしています。これについても、プロや芸能人と同等の努力ができている選手はいません。
——たくさんのパラアスリートに会っていますが、それでもいないと断言する?
武井 トップの俳優・女優さんの横に並んだとき同じように見える努力をしている選手は、残念ながらひとりもいません。
そこまではできないにしても、ふだんの服装・髪型や、車椅子をはじめとした乗り物や道具など、もっと美しく、かっこよくすることができるはずです。
更に、タレントさん達のように、発する言葉のひとつひとつで誰かを楽しませる努力ができている選手もまだまだ少ない。
このままでは、来年のパラリンピックまでに誰もが注目するスーパースターを生み出すことは難しいのではないかという危機感があります。
山脇 ロンドン大会で一躍時の人となった、ジョニー・ピーコックという100m走の選手を思い起こします。彼は大会前から積極的にメディアに露出した上で、本番でも好成績を収め、イギリスでは彼を知らない人はいないほどのスターになりました。
そうしたメディア戦略が必要なことは承知していますが、やはり我々の第一のミッションはインクルーシブ(包括的)な社会作り。人それぞれの違いを認めて誰もが活躍できる社会を目指すことなんです。
武井 あ、そこは誤解していただきたくないんですけど、ぼくは単にスーパースターを作りたいわけではなくて、山脇さんたちの目指す社会の実現のためのひとつの手段としてスーパースターを作りたいんです。
山脇 はい。理解しています。
アスリートが引退後に苦労する理由
武井 山脇さんたちのご尽力のおかげで、ここ数年、パラスポーツへの注目度はどんどん上がっています。
8月に行われたパラリンピック1年前カウントダウンイベントには、パラアスリート、マルクス・レーム選手も来日。参考記録ながら、自身が持つ幅跳びの世界記録を更新した。
ぼくは、そうして整えられた環境があるのに、パラアスリートを含め、多くのアマチュアアスリートが発信力を持たないことに危惧があるんです。
これは同じアスリートとしての意見なんですが、なんでアマチュアアスリートは自分自身を売り込む努力を免除されているんだろう? と疑問に思います。
よく、「競技力を上げることが仕事」と言われますが、それは当たり前の、最低限の仕事なんです。
——どういうことでしょうか?
武井 会社員の方に置き換えてみて欲しいんです。
自社の商品のクオリティを上げるのは当たり前じゃないですか。その上でその商品を一つでも多く販売するために、営業をかけなきゃいけない。
でもアマチュアアスリートの多くはクオリティの高い商品を作ること……トレーニングをして、高いパフォーマンスを発揮するという当たり前のことはやるだけで、営業努力が足りていない。
山脇さんという社長さんが、働きやすい環境を作ってくれているんだから、社員、つまりアスリートは、自分という商品をしっかり売り込もうよという思いがあります。10時間練習したって、14時間は時間使えるじゃないですか。
山脇 それは……いやでも、そうですね(笑)。
武井 この努力は、いずれアスリート自身を助けることにもなります。
十種競技でチャンピオンになったときのぼくがまさにそうでしたが、経済活動を経験しないまま世に出てしまったがために、アスリートとしての活動を終えたあと、自分を売り込むことができない人が多い。
すごく体力があって、特定のルールを与えたら、そのルールに則った能力を世界トップクラスまで磨き上げる知識と経験があるにもかかわらず、それをどうアピールしたらいいかがわからないんです。もったいないことじゃないですか。
武井壮まで、ご連絡を
武井 とにかく来年に向けてアスリートのみなさんに言っておきたいことはひとつだけ。
スターになる努力は「やるべきこと」であり、自分のために「やっておいたほうがいいこと」だよということです。
山脇 そうですね。こんな大きなチャンスはそうないですから。
武井 もう一生ない、と言っていいと思います。
世界的な大会が自分たちの生まれた国に来て、いろんな団体・企業が資金を提供して盛り上げてくれる。特にパラスポーツにとって、これ以上のチャンスは今後訪れない。
その檜舞台に無力な自分のまま行くのか、それとも多くのファンを引き連れて立つのかでは、雲泥の差がある。より素敵に見える努力をし、プロ以上にファンサービスをしていくべきだということを伝えたいです。
山脇 ぜひ、アドバイスしてあげてください。
武井 もちろんです。そのお手本になればと思って活動していますから。
もし、スーパースターになりたい、日本で一番有名なパラアスリートになりたいという方がいたら、ぜひご連絡して頂きたい。
全力でプロデュースさせていただきますし、ぼくが本気でサポートさせてもらえるなら、1年以内にスターにしてみせます!
(執筆:成松哲、編集:株式会社ツドイ、写真:岡村大輔)