【新】MITメディアラボ所長・伊藤穰一の「学び方」

2019/8/18
インターネットやテクノロジーというと、エンドユーザーが触れる部分の使い勝手や情報に目を奪われがちだ。だが、その根底には、もっと大きな理念や考え方が存在する。そして、そうした大きなアイデアを交換する場所として、インターネットが特別重要な役割を果たしていた時代があった。

伊藤穰一は、そんなインターネットが思考家(thinkers)のものだった時代を、リアルに生きてきた。2011年以降は、マサチューセッツ工科大学(MIT)メディアラボ所長としての活躍が注目される伊藤だが、ゲーマーでハッカーだった高校生時代から、世界中の知識人との意見を交換して多くを学んだという。

そんな伊藤の半生について旧友リード・ホフマンがメディアラボで話を聞いた(インタビューが行われたのは17年11月9日)。
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【伊藤穰一】大学3回中退。クラブDJになったほうが学べる
リード・ホフマン 今日はMIT(マサチューセッツ工科大学)のメディアラボに伊藤穰一所長を訪ねています。
伊藤穰一 やあ。
ホフマン あなた自身は大学をドロップアウトしているんですよね。
伊藤  3回ドロップアウトしています。厳密には学部を2回、博士課程を1回。
大学に通うよりも、ナイトクラブのDJになったほうが多くを学べると思いました。
【伊藤穰一】行き当たりばったり、失敗続きのスタートアップ
伊藤 私は、すべてが行き当たりばったりでした。
日本に戻り、ナイトクラブを持ち、イベントをやり、メディアに関心があったので、NHKの仕事をしたりと、あれこれやっていました。純粋な好奇心からコンピューターネットワークもやっていました。
10年間で5〜10社くらい立ち上げたと思いますが、どれもうまくいきませんでした。
【伊藤穰一】孫正義との確執、Yahoo! JAPANを横取りされて
伊藤 ヤフー・ジャパンを立ち上げる話が舞い込んできました。
マサ・ソン(孫正義)とは、それ以前から付き合いがあり、私はマサに「このYahoo!って、すごくクールなんだ」という話をしたんです。
そのとき、私はマサのやり方を知りました。会社を立ち上げても、資本がないためにヤフー・ジャパンを横取りされてしまった。私の立場からはそう感じられました。
この経験から、「ゲーム」のやり方を学ばなくてはいけないと痛感しました。
【伊藤穰一】イノベーションはオープンな場で生まれる
伊藤 今も同じようなことがビットコインやブロックチェーンについて起きていると思います。
無料でオープンソースの基礎をどのようなものにするか、さまざまなディスカッションが起きています。
その基礎ができあがる前に、みんな自分の城(独自のトークンなど)を建てようとしている。これは問題だと思います。
【伊藤穰一】プロよりアマチュアにこそ情熱と創造性がある
ホフマン メディアラボにはアンチ権威の天才アマチュアが大勢いますよね。
伊藤 アマチュア(amateur)という単語の起源は、アマトロ(amatoro)、つまり「好きだからそれをやる」です。
一方、現代の「あなたはプロですね」という表現には、それをやることでお金を稼いでいるという意味があると思います。アマチュアは愛のために、プロはお金のためにそれをやる。
しかし独創性が必要とされる世界では、お金のためでなく情熱のためにやったほうがうまくいくことがたくさんあります。
【伊藤穰一】AIの進歩を放置してはいけない
ホフマン 人工知能(AI)についての考えを聞かせてください。企業に任せておくと、自分たちの利益や目標を追い求めるばかりで、検討しない領域がたくさん出てきますよね。
伊藤 AIのような技術は、市場と競争の結果だけでなく、社会が理想とする規範を反映するべきではないのか、だとすればシステムにどう介入するかが問題になってきます。
法律を作るのは1つの方法ですが、その場合、テクノロジーをきちんと理解している人たちが法律を作ることが重要です。
【最終話・伊藤穰一】365日、毎日新しいことを学ぶ
伊藤 私のメンターの1人である八城(政基)は、銀行の関係者から「我々はこのビジネスを何十年もやっている。君はまだ1年じゃないか。何がわかるんだ」と言われたそうです。
そこで八城は言ったそうです。「私はこの365日、毎日新しいことをやってきました。あなたがたは人生で毎日同じことをやってきた。だからあなたがたには1日分の経験しかない。私には365日分の経験がある」と。
私もやはり毎日学び続けています──。
連載「イノベーターズ・ライフ」、本日、第1話を公開します。
(予告編構成:上田真緒、本編翻訳・構成:藤原朝子、バナー写真:ZUMAPRESS/アフロ、バナーデザイン:今村 徹)