【藤本あゆみ】スタートアップの潮流は、シリコンバレーから世界へ

2019/4/3
カリフォルニア大学バークレー校ハース・スクール・オブ・ビジネスのヘンリー・チェスブロウ客員教授によって「オープンイノベーション」の概念が発表されてから15年が経過。オープンイノベーションに対する取り組みは、とりわけここ数年で加速している。その背景には大企業が抱く、未来に対する強い危機感がある。

スタートアップの成長支援を目的として、世界各地でオープンイノベーションプラットフォームを運営するPlug and Playの日本法人の藤本あゆみ氏が、オープンイノベーションに関する世界の動向を解説する。第1回は、欧州のイノベーションハブとして注目が集まるフランスの例を紹介する。

スタートアップ投資の活発化

経済産業省が実施した「平成27年度オープン・イノベーション等に係る企業の意思決定プロセスと意識に関するアンケート調査」によると、45.1%が10年前と比較して「オープンイノベーション」の取り組みが活性化していると回答している。
「オープンイノベーション」が提唱されたのは2003年のこと。カリフォルニア大学バークレー校ハース・スクール・オブ・ビジネス客員教授のヘンリー・チェスブロウ氏が『Harvard Business Review』2003年7月号に寄稿した「A Better Way to Innovate」で、その概念を発表したのが始まりと言われている。
ヘンリー・チェスブロウ氏は、Thinkers50という「最も影響力のある経営思想家」トップ50人に選ばれた人物でもある。
さて、日本でも1990年代後半からCVCが設立され、スタートアップ投資が活発化し始めた。
渋谷を拠点に有能な起業家を輩出しようとする活動「ビットバレー構想」が、ネットエイジ代表の西川潔氏より提唱されたのは、オープンイノベーションが提唱される少し前の1999年3月。ITベンチャーが争うように入居した渋谷マークシティが完成したのが、2000年4月のことだ。
私が現在勤める「Plug and Play」の前身が、シリコンバレーで生まれたのは1990年。スタンフォード大学にほど近いパロアルトのユニバーシティ・アベニューにビルを所有し、多くのスタートアップがそこに入居していた。
1992年にはLogitechが、1998年にはPaypalが、そして1999年にはGoogleが、まだ社員が数人しかいない時期にそのビルに入居していたという。
そうしたスタートアップたちがものすごいスピードで成長し、世界に羽ばたいていくのを間近で見ていたSaeed Amidiは、オープンイノベーションが提唱されてから3年経った2006年にPlug and Playを創業。スタートアップの成長支援を目的として、オープンイノベーションプラットフォームの形成に着手した。

オープンイノベーションと大企業の危機感

オープンイノベーションが提唱されてから15年以上が経ち、冒頭の調査結果からも、この10年間で動きが活発化し、ここ数年でさらに加速しているのを実感している人も多いのではないだろうか。
実際、大企業側が抱いている危機感はとても大きく、だからこそオープンイノベーションに取り組む企業が年々増えているのだろう。
最近では、シリコンバレー以外の地域で活発化が目立つようになった。先日、欧州各国を巡ったPlug and Play JapanのManaging Partner、ヴィンセント・フィリップに現状を聞いてみたが、日本同様企業に大きな危機感を抱いているという。
ここで、2017年7月に開設されたフランスのインキュベーション施設、Station Fについて紹介したい。Station Fでは、30近い世界各国のアクセラレーションプログラムが実施されている。
GoogleやFacebook、Microsoft、Naver/Line、Ubisoft、INSEAD LaunchPadなどのスタートアップ支援プログラムや、LVMH、L’Oréal、ZENDESK、そしてBNP Paribasと実施しているPlug and Playのアクセラレーションプログラムなどが随時開催されている。
つい最近の例では、アディダスのアクセラレーションプログラム「Platform A」が2019年1月にStation Fでスタートすることが発表された。このプログラムもPlug and Play が支援している。
2017年7月に開設されたフランスのインキュベーション施設「Station F」
Station Fにここまで多様なプログラムが集まるのは、パリが欧州のイノベーションハブになっているからだという。
かつては世界のイノベーションハブといえばシリコンバレーを指したが、ここ数年で欧州、なかでもフランスやドイツの企業が本格的にオープンイノベーションに取り組み始めており、Station Fの出現によってさらにその動きが加速しているという。

大企業とスタートアップによる協働

フランスの勢いは、Station Fだけではなく、毎年5月に開催されるカンファレンス「Viva Technology」や「La French Tech」の取り組みからも見ることができる。
La French Techは、世界最大の家電見本市「CES 2019」でも圧倒的な存在感を放っていた。Eureka Parkに世界中のスタートアップ1247社が集まるなか、La French Techの企業計160社が出展した。
La French Techの企業160社が出展した「CES 2019」
2018年に開催されたViva Technologyでは、来場者数が3日間で10万人を超えたと発表された。毎年ラスベガスで開催されるCESの来場者数がおよそ18万人であることを考えると、その規模感は想像に難くない。
125カ国から多くの参加者が集まるViva Technologyが他のカンファレンスと異なるのは、オープンイノベーションの場であるという点にある。
125カ国から多くの参加者が集まる「Viva Technology」
大手企業とスタートアップが協働する場としても機能
Viva Technologyでの特徴的な取り組みに「Lab」と呼ばれるものがある。フランスを代表するグローバル企業が自社のビジョンと課題をオープンにし、その課題に対してスタートアップがソリューションを提示する「VivaTech Challenges」だ。
2018年には23のLabが実施され、9000を超えるスタートアップから応募があったという。審査を通過したスタートアップは、各大手企業のスポンサーシップのもとに実際にブースを構えることができる。
※ 次回は明日掲載予定です。
(バナーデザイン:大橋智子、写真:undefined undefined/iStock)