キング牧師の有名な演説「私には夢がある」が、もし箇条書きしたPowerPointのスライドを使って語られていたら、その影響はどういうものになっていただろうか。

心を揺さぶるメッセージ

キング牧師ことマーティン・ルーサー・キング・ジュニアが「変革型リーダー(transformative leader)」だったということは、多くの人が同意するだろう。愛、希望、平等、非暴力を訴える彼のメッセージは、当時も今も同じように真実であり、心を揺さぶるものだ。
私を含めて多くの人々が長年にわたり、何がキング牧師をあれほど素晴らしい指導者にしたのかを分析しようと試みてきた。
先日、キング牧師が遺したレガシーに思いを巡らせたとき、私はある重要な教訓に思い至った。彼をあれほど有能な指導者にしたものは何か。それは、彼が周りのすべての人に「何かを感じさせていた」ということだ。
昨晩、キング牧師の最後の演説「I've been to the mountaintop.(私は山の頂上に上った)」の短い動画を見た。以前にも通して見たことがあるし、本で全文を読んだこともあるのだが、それでもこの動画を見て胸がいっぱいになった。
以下では、キング牧師の明確なリーダーシップを構成する4つの要素をまとめてみた。彼のリーダーシップは、その周囲の人々が行動を起こすために必要な感情をかきたてた。変革型リーダーになるためには、これらの4つの要素が大切だ。

1. 有意義なミッションを持つ

公民権運動は、アメリカの歴史において重要な転機だった。暗黒の時代から離れ、この国がさらなる進歩を遂げる助けとなったのだ。
「平等」というキング牧師のミッションは、人種差別を受けて生きるアフリカ系アメリカ人たちに訴えかけた。そして、アフリカ系アメリカ人をはじめとする、虐げられた人々の苦境に同情する人々にも訴えかけた。
彼の目指す目標は崇高で理解しやすく、重要かつ有意義だったため、人々が集まって支援しやすかった。
リーダーのための教訓 ほかの人々が、あなたが目指すことの目的とその意志をはっきりと理解すれば、彼らは心を動かされ、あなたについてくる。

2. 重みのある言葉を使う

長年にわたり私は、キング牧師の本や演説、彼の人生や彼が遺したものについての論評を詳細に調べてきた。いつも私の心を打ったのは、キング牧師が使った言葉だった。
彼が使う言葉は、つねに力強かった。聞く者の心を打ち、同時に胸を締めつけた。自分も行動を起こしたいと思わせるものだった。自分と周りの人たちのより良い未来が見える場所に、聞く者を連れて行くものだったのだ。
キング牧師の演説で見落とされがちなのは、彼の演説には昔の学者や有名な文章など、歴史的な引用が織り交ぜられていたという点だ。彼はそうした大切な教訓を、巧みな話術でよみがえらせた。それによって聞き手は、なじみのある教訓をまったく新しい形で理解することができたのだ。
聖書に出てくる「よきサマリア人」の話は、幾度となく聞いたことがある。だが、キング牧師がそれを語るのを聞いたとき、私はその教訓がこれまでになかったような形で生き生きとよみがえるのを感じた。
キング牧師がただ机に向かって書いたり、演壇に上がったりするだけで、美しい言葉が湧いてきたわけではない。何時間も、何日も、何週間も費やし、書いては直し、書いては直しを繰り返して、良いスピーチを仕上げたのだ。
リーダーのための教訓 聞く人の記憶に残り、心を揺り動かし、行動を起こさせるような言葉やストーリーを使って、伝えたいメッセージを慎重に仕上げよう。

3. 重要なメッセージの伝え方を知る

キング牧師が偉大な演説家だったことは疑いようがない。彼が語った言葉やメッセージは、その伝え方のおかげでよりいっそう生き生きと輝いた。
有名な演説「I Have a Dream(私には夢がある)」は、もし彼がメモを見ながら語ったり、箇条書きになったPowerPointのスライドを使ったりしていたら、かなり違ったものになっていただろう。
変革型リーダーになるために、キング牧師の演説スキルを持つ必要はない。ありがたいことにテクノロジーのおかげで、人を引きつけ、わかりやすくメッセージを伝える方法が可能になったからだ。
聴衆に受け入れられるような形で伝えられないなら、あなたのメッセージには価値がない。
リーダーのための教訓 語る内容を考えるのと同じくらいのエネルギーを使って、メッセージの伝え方を考える。

4. 自らが手本になることで人々を導く

キング牧師と彼が残したレガシーのなかで、私がもっとも素晴らしいと思うものは、才能やスキルを必要とするものではない。キング牧師は、自分の支持者たちに行動してほしいと呼びかけたことは、すべて自分でも行動した。多くの場合は、支持者以上に行動した。
キング牧師の有名な著述に「バーミンガム刑務所からの手紙」がある。ほかの聖職者たちに宛てて書いた手紙だ。キング牧師は、その活動のせいで何回か刑務所に入れられた。彼は、多くのデモ行進や抗議行動で先頭に立った。有権者やリーダーたちと時間をかけて話をし、絶えず共感を示した。
目的を達するために、リーダーが塹壕に入ってきて、あなたの隣で戦うのを見たら、あなたも心を揺さぶられるだろう。
リーダーのための教訓 ほかの人にやってほしいと思う行動については、自らが手本となる。
1週間前の2019年1月21日は、キング牧師記念日だった(NP注:キング牧師の誕生日1月15日を記念して、1月の第三月曜日と決められた米国の祝日)。多くの人が、さまざまな奉仕活動によって、キング牧師が遺したレガシーに敬意を示すことだろう。
だが、彼が教えてくれた変革型リーダーになるための教訓を大事にすれば、彼のレガシーはよりいっそう尊重され、広がっていくことだろう。
原文はこちら(英語)。
(執筆:Sonia Thompson/Marketing strategist, consultant, and author、翻訳:浅野美抄子/ガリレオ、写真:Joel Carillet/iStock)
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This article was translated and edited by NewsPicks in conjunction with IBM.