ゴミの燃料化から迷宮入り事件解決まで

スマートなアイデアを持っている企業は多いが、世界を少しでも良くできるアイデアを持っている企業は多いとはいえない。本記事では、世界を変えるイノベーションで2018年に大きく前進したスタートアップ5社を紹介しよう。

1. ワンオム

創薬は、ひとつで万人に対応できるというものではない。同じ薬でも、その影響は人によってさまざまに異なる。ごく最近まで、ある人の身体がどう反応するかの特定は、ほとんど試行錯誤に頼っていた。だが、遺伝学の進歩のおかげで、個々人に最適な薬と用量の特定が容易になっている。
メイヨー・クリニックから2017年に分離独立したワンオム(OneOme、本社ミネソタ州ミネアポリス)は「ライトメッド(RightMed)」という遺伝子テストを立ち上げた。
349ドルのこのテストは、個々人の遺伝子を研究し、鬱病であれ心臓疾患であれガンであれ、最も効果が出る可能性の高い治療法を医師に助言するレポートを作成するものだ。DNAは変化しないため、1回限りの出費で済む。
ワンオムは2018年、薬理ゲノミクスをさらに使いやすくした。医師を訪ねなくても、テストを注文できるようにしたのだ。同社サイトに登録すれば、頬から検体を採取するための綿棒等が送られてくる。検体を返送すると、独立した医師が情報を精査し、適切であればテストを発注してくれる。
ワンオムはこれまでに、テック系インキュベーターのインベンシュア(Invenshure)をはじめとする出資者から、600万ドルを超える資金を調達している。

2. ロケット・ラボ

荷物を宇宙へ送りたいと思うスタートアップはますます増えている。カリフォルニア州ハンティントンビーチを拠点とするロケット・ラボ(Rocket Lab)が、その手助けをしてくれるかもしれない。
同社は11月11日、同社初の完全商業ロケットの打ち上げを実施し、小型ロケット「エレクトロン」を宇宙へ送り込んだ。このロケットには、スパイア(Spire)やフリート・スペース・テクノロジーズ(Fleet Space Technologies)など複数の新進企業が所有する超小型衛星が積まれている。
ロケット製造はかつて、何カ月もかかルものだった。しかしロケット・ラボは、ロケットの高さをスペースX製ロケットの4分の1にすることで、製造時間を短縮している。さらに、部分的に3Dプリントで製造したエンジンも使用している。
これまでに2億1500万ドルの資金を集めた同社は、2019年に16回の打ち上げを予定。目標は、そう遠くないうちにエレクトロン・ロケットの打ち上げ回数を年間100回以上にすることだ。エレクトロンは全長56フィート(約17メートル)で、最大500ポンド(約227kg)を搭載できる。

3. エクソス

アメリカンフットボール界で脳震盪が蔓延していることは、多くの記録により裏づけられている。頭を保護する取り組みのほとんどは頭に重点を置いているが、オンタリオ州ウォータールーを拠点とするエクソス(AEXOS)が注目しているのは、首だ。
エクソスのシャツ「HALO(ヘイロー)」は、速度に反応するポリマーでできた「モックネック」を備えている。
このポリマーは静止しているときは柔らかいが、力が加わると硬くなる。理論上はこのネックにより、打撃を受けたときに起こりやすい「頭部の急激な動き」を軽減できる。たいていの脳震盪は、そうした動きが原因になっている。
エクソスによれば、実験室での試験ではHALOにより頭部の動きを半分近く軽減できたという。クラウドファンディング「キックスターター」のキャンペーンで成功を収めた同社は、12月に144ドルでHALOの出荷を開始するとしている。
同社の共同創業者であるチャールズとロブのコリガン兄弟は、どちらも頭部の負傷を理由に引退した元ホッケー選手だ。彼らによれば、HALOを着用するNFL(ナショナル・フットボール・リーグ)とNHL(ナショナルホッケーリーグ)の有名選手たちがまもなくお目見えするという。

4. フルクラム・バイオエナジー

たったひとつの発明で、アメリカの排出する温室効果ガスの3%を削減できるとしたらどうだろう。そうした約束をしているのが、ベイエリアのスタートアップ、フルクラム・バイオエナジー(Fulcrum BioEnergy)だ。
同社は10年以上を費やし、有機廃棄物をジェット燃料に変換する最善の方法を探ってきた。フルクラムは2018年、ネバダ州リノで最初の工場の建設に着手した。
この工場では、まもなく毎年30万トンの都市ゴミを回収および分類し、膨大な熱と圧力を加え、燃料に変換する作業が開始される予定だ。さらに、シカゴ、ヒューストン、シアトルでも工場建設が進められている。
航空業界と米国政府も関心を寄せている。ユナイテッド航空がフルクラムに出資しているほか、2014年には米国防総省が同社に7000万ドルの助成金を支給している。

5. パラボン・ナノラブズ

2018年4月、数十年にわたって迷宮入りだった連続殺人事件「ゴールデンステートの殺人鬼」と呼ばれる容疑者が逮捕された。決め手になったのは、数十年前の犯行現場で見つかったDNAが、容疑者の親族によってあるデータベースにアップロードされていた遺伝情報と一致したことだった。
逮捕から1日も経たないうちに、バージニア州レストンを拠点とする社員22人のパラボン・ナノラブズ(Parabon Nanolabs)が、以前から同種の科学捜査サービスを開発してきたこと、そしてそのサービスの商業展開を開始したことを明らかにした。
パラボン・ナノラブズは、未解決事件で発見されたDNAを公的に入手可能な遺伝データと比較している。容疑者の親族と照合できれば理想的だ。
「遺伝子系図」の先駆的研究者で、パラボンの遺伝子系図学部門を率いるシシ・ムーアは、出生証明書、婚姻記録、昔のニュース記事、死亡記事などを駆使して家系図を作成し、容疑者を特定している。
2016年に米国防総省と150万ドル規模の技術開発契約を交わしたパラボンは、この新手法を用いて、すでに26の事件の解決に貢献している。
もちろん、こうした手法に異論がないわけではない。単なる娯楽目的で自分の遺伝データをウェブサイトにアップロードする前に、それが自分のいとこの逮捕につながる可能性があることを思い出すべきだろう。
原文はこちら(英語)。
(執筆:Kevin J. Ryan/Staff writer, Inc.、翻訳:梅田智世/ガリレオ、写真:alphaspirit/iStock)
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This article was translated and edited by NewsPicks in conjunction with IBM.