【衝撃】日産ゴーン逮捕。これは「クーデター」だったのか?

2018/11/20

違和感たっぷりの記者会見だった。
11月19日、衝撃のニュースが飛び込んできた。日産自動車のカルロス・ゴーン代表取締役会長と、グレッグ・ケリー代表取締役の2人が逮捕された、というのだ。
夜10時、神奈川県横浜市の日産グローバル本社。緊急会見の席に姿を見せたのは、西川廣人社長兼CEOただ一人。東京地検特捜部の捜査がまだ行われているという重大案件で、弁護士などをつけることもなく、である。

「ゴーン解任ありき」の説明

西川社長は、今回の「重大な不正行為」の内容から語り始めた。
西川 当社の代表取締役カルロス・ゴーンについて、社内調査の結果、「重大な不正行為」が大きく3点、発覚しました。
①開示される自らの報酬を少なくするために、自らの報酬を減額して有価証券報告書に記載したという不正行為。
②目的を偽って、私的な目的で当社の投資資金を支出したという不正行為。
③私的な目的で、当社の経費を支出したという不正行為。
こういう3つの事実を確認しました。概要について今日は細かく触れることはできませんが、もちろん会社として、容認できる内容ではないと確認しています。
説明は、これだけだ。
①については、なぜそんなことが可能だったのか、よくわからないまま。また、②のような不正も、珍しい内容だ。
しかし、次の「一言」に、思わず顔を上げた記者たちも少なくなかったはずだ。
西川 専門家の先生も、十分「解任」に足る、重大な不正行為だと言われている。そういうことで、解任を提案します。
正式には、(11月22日の)木曜日に、代表権と会長職を解くことを提案する。承認をいただくべく、私が取締役会を招集する予定です。
1つ目の違和感は、まさにここにある。つまり、解任はまだ決まっておらず、これから取締役会にかける内容なのだ。
それなのに、冒頭からこれほど饒舌に、会見で先んじて話すというのも、通常ではあまりないことだ。

痛烈な「権力集中批判」

西川社長が饒舌に話したのは、ゴーン解任のことだけではない。
不正の詳細は、捜査中のため触れられないと繰り返すばかり。一方で、長年にわたるゴーン政権の「弊害」については、何度も強調した。
これが、2つめの「違和感」だ。
西川 内部で通報があり、当局への協力をしてきました。ガバナンスの問題点についての認識と反省、猛省をすべきと考えています。
公正かつ速やかな対応をする。あくまで今回の事案は「不正の除去」が本質でして、ルノー日産、三菱自のアライアンスに、なんら影響を与える性格のものではありません。
それ以上に私としては、皆さんの信頼を大きく裏切ることになってしまったことが、残念であり、申し訳ない気持ちでいっぱいです。
なんと表現したらいいか、残念というのをはるかに超えて、強い憤り、そして落胆を強く覚えています。
ここで私が申し上げるべきか分かりませんが、本事案で発覚したゴーン氏の不正。これは、長年にわたるゴーン統治の「負の側面」だと言わざるを得ない。
これはやはり、事実として認めなくてはならない。

「これは決してクーデターじゃない」

日産は今回、内部通報を受けて、数ヵ月間にわたり、ゴーン氏とケリー氏を巡る不正行為について、内部調査を当局と共に進めてきている。
つまりこれ、19年にわたりルノー日産帝国に君臨してきた皇帝ゴーンを失脚させるために、入念に準備されてきた「クーデター」だったのでは──?
(写真:Bloomberg / GettyImages)
NewsPicks編集部は、ゴーン氏の権力の集中過程と、「クーデター」に至った背景について、単刀直入に質問をぶつけた。
西川 今、おっしゃった権力の集中、そしてクーデターで崩壊したとおっしゃいましたが、そうは受け止めていただかないほうがいいと思う。
今回の件については、事実として、不正が調査で見つかった。
そこを「除去する」というのがポイントであり、一人に権力が集中して、そうではないところからクーデターか起きたという理解はしていないし、そのような説明をしたつもりもありません。
一人に権力が集中しても、こういうことが必ず起きるわけではない。
ただ、それが一つの誘因になったということは間違いありません。
どうやって権力が集中してきたのか。私も考えてきました。長い間、徐々に形成されてきたという以上に、言いようがありません。私がどういう立ち位置で、どんなことができたのか、もう一度考えたい。
一つは、ゴーン氏は仏ルノーと日産のCEOを兼任していた時代が長かった。このあり方は少し、無理があったと思う。
2005年、ルノーと日産のCEOの兼任が始まった。当時は、ごくあたり前に日産を率いてくれたゴーン氏が、ルノーも率いてくれるのだから、日産にとっていいことだと思っていた。
どんなことが将来的に起こり得るか、あまり議論しませんでした。
しかし、結果として、将来が見通せないほど(ゴーン氏)個人に依存しすぎました。日産の43%の株を持つルノーのトップが、日産のトップを兼任するということは、あまりにもガバナンス上、権力が集中しすぎる。
その結果が、今に至っています。2005年は、その転機だったと思う。
我々も、こうなることを十分に理解できていなかった。それが全てとは言いません。しかし、今振り返ると、そういうことが言えると思う。
ただその点は、自分の中で総括できていないので、あまり軽薄には言えません。

ゴーン側近の「強大な権力」

もう1つ気になるのは、今回、ゴーン氏とともに逮捕されたもう1人の代表取締役、グレッグ・ケリー氏の存在。彼はいったい何者なのか。不正にどう関与してきたのか。
ゴーン氏の「側近」グレッグ・ケリー氏(写真:日産自動車)
これについても、西川社長はNewsPicksの質問に答えた。
西川 ケリー氏は、長い間、ゴーン氏の「側近」として様々な仕事をしてきた人物です。
CEOオフィスにおいて、ゴーン氏の権力を背景に、相当な権力を持って、社内をコントロールしてきたということは言えると思います。
言葉が適切なのはわかりませんが、それが実感であり、実態です。
彼はもともと日産出身で、CEOオフィスの後は、アライアンスの仕事を兼ねていました。私が影響力があるといったのは、それほど幅広く仕事をしていて、絶えずゴーン氏の側近として動いてきたからです。
もっとも、近年はゴーン会長のサポート、アドバイスという機能以外は持っていなかったので、影響力は、徐々に落ちてきたと見ています。
本事案の首謀とされる、ケリー氏の代表権も解く予定です。

カリスマか、暴君か

約1時間半にわたる会見では、最後まで「重大な不正」の詳細が語られることはなかった。そして、解任も何もまだ決まっていない中、西川社長は早くも「未来」を語った。
まるで何かを急ぐかのように。
西川 今日会見を開いたのは、許されるタイミングだったということです。
できるだけ早く生の声で、先ほど来、自分の感情の全てをなかなか言葉にできていませんが、私の言葉にしたい。そういう機会を、極力早く作りたいというのが正直な気持ちです。
また時期が決まれば、社内調査の内容を、皆さんにお伝えする機会があるだろうと思っています。その時は、弁護士の方が同席されたりするかもしれません。
私も大きなショックを受けていて、その部分は大変、重大事案で言えずに申し訳ないのですが、まずは私から、お話を申し上げたいと(一人で会見に)臨んでいるつもりです。
この話を把握していたのは、日産でもわずか数名規模です。実は、役員たちがこの件を知ったのも、つい先ほど。事案の中身から、秘匿をし、注意していました。
彼らも、先程このことを聞いて、「一体何があったのか」という感覚でしょう。
詳細がいずれ明らかになるにつれて、私が今感じているような思いは、従業員の中にも広がっていくと思っています。
ゴーン氏は、カリスマか暴君だったのか。正直に言って、私も今に至るまで、当面の対応に追われているので、じっくりと考えることをしたい。
事実としてみると、特に初期においては、他の人間がなかなかできなかったこと、大きな改革を実施してきたのは、紛れもない事実です。
しかし、その後については、功罪両方あるというのが、私の実感です。
色々と積み上げてきたことを、全て否定することはできません。将来に向けた財産も大きい。
ただ、最近はやや、権力の座に長く座っていたことで、ガバナンスの面だけでなく、業務の面でも、弊害が出てきたと感じています。
ガバナンス体制、執行体制について、変えるべきところを変えていく。次世代に繋げていく。こういう事態に至り、これからは従業員に目に見える形で、手を打っていきたいと思っています。
(取材:池田光史・冨岡久美子、デザイン:九喜洋介)