安田瑛紀さんが「コンクリート愛をひたすら淡々と語る理由」

2018/10/8
36人目にご紹介するピッカーさんは、NewsPicksにコンクリート旋風を巻き起こしている安田瑛紀さんです。
連日どこからかコンクリートやセメントに関するニュースを見つけ出してはピックし、元の記事を上回る情報量の解説をしてくださる。この若者はいったい何者なのか…?
そんな安田さんに、コンクリートへの深い造詣と愛を披露いただくとともに、NewsPicksでディープな知識をやりとりする楽しさについて伺いました。

社会勉強のつもりで始めたNP

──安田さんは2018年1月から突如コメントをスタート。「コンクリート」というワードの含まれる投稿が、すでに300件近くあります。
我ながら、よく飽きないなと思いますね(笑)。
メーカーの研究職に従事すれば、専門的なニュースはほっておいても入ってくる。でも、政治や経済などのビジネスパーソンが話題にするようなニュースは、触れる機会が少ない気がするーー。そんなうっすらとした危機感もあり、社会勉強のつもりでNewsPicksを使い始めました。
──普段はどんなときに使いますか?
朝起きたときと、仕事がひと段落した夕方にチェックするのがルーティンで、NewsPicksを使うのはどんなに長くとも「1日1時間」と決めています。
ちなみにNewsPicksを経由して、おそらく1日に50記事ほど読んでいます。そのうちコメントするのは1、2記事でしょうか。それよりもグーグルとツイッターで検索して見つけた記事にコメントすることの方が多いですね。何か見つかればピックし、コメントを書き添えておきます。
私にとってNewsPicksを使うのは、自分の考えを整理するのが主目的です。書きたいことだけ書く、そんな自己完結した喜びをベースにしつつ、誰かが続けてコメントをくれて、新しい発見があったり、出会いやつながりが生まれたりするときもある。それが、宝物みたいに嬉しいんです。
──『施工の神様』や『日経xTECH』の記事のコメント欄で、建設・素材に詳しいピッカーさんたちと交流されています。
自分以外にも、同じ領域に興味をもってコメントする人がいて、それを時系列で追って読めるのが楽しいんですね。
記事の内容の面白さはもちろんのこと、やっぱりコメント欄が面白いから、NewsPicksを使い続けています。
あるとき、コンクリートに関するニュースに注目が集まった際に「安田さんのコメントが読みたい」と名前を挙げてくれた人がいました。私も、このテーマならあの人が詳しいだろうなと思ったらリクエストします。
そんなやりとりを重ねながら、少しずつNewspicksの楽しさにハマっていきました。
安田 瑛紀(やすだ・えいき)
秋田県秋田市出身。コンクリート技術者・研究者・愛好家。東京工業大学大学院理工学研究科修了。卒業後はセメントメーカーに就職し、現在までセメント・コンクリートの研究開発に従事する。
好きなセメントは低熱ポルトランドセメント、好きなコンクリートは繊維補強コンクリート、尊敬する人物は日本のコンクリート工学の父である吉田徳次郎博士。専門はコンクリート材料工学、コンクリート構造力学。最近興味があるのはコンクリート経済学とコンクリート人類史。

ちっぽけな「私」として発信したい

──コメントする際のポリシー、マイルールはありますか?
ひとつはコンクリートを“コンクリ”とは絶対に略さないこと。ルールと呼ぶほどではありませんが(笑)。
技術やファクトを大事にしたいと考えている自分が、言葉をいいかげんに使ってはいけないな、というのと、単純に“コンクリート”という響きが好きだからですね。
それから「個人としてコメントする」ことも意識しています。
──それはどういうことでしょうか。
誰かを勝手に代弁しようとせずに、自分の考えを述べたいんです。自分より大きなものの陰に隠れるのではなく、ちっぽけな個人として発信するときに支えになるのは、強い感情に根ざしているか、もしくは「ファクトに基づいているか」だと思うんですよね。
私はエンジニアなので、書きたいことがあるなら技術的に正しい内容かを確認するべきだと考えています。
それから、さきほど「自分の考えを整理するためにコメントしている」とお話ししましたが、とはいえ人目に触れるものだというのは忘れないようにしています。
それは単に「人を意図的に傷つけるようなことはしない」とか、「根拠のないことは言わない」だとか、その程度のことです。実名で顔も出してコメントしているのも、つい緩まないように自分を戒めているつもりです。

コンクリートの世界へようこそ

──安田さんが「コンクリート」に目覚めたのは?
大学2年生で土木工学科に入り、ものすごい劣等生だったのが、コンクリートの講義を担当されていた先生がなぜか気にかけてくれて、褒めてくださったんですね。じゃあもう少し頑張ろうかなと思うようになった。
のちに恩師となるその先生が、コンクリートの専門家だったのです。
──非常に初歩的な質問ですが、セメントとコンクリートって、何が違うのでしょうか。
コンクリートは、セメントと石と砂、そして水でできています。つまり、セメントはコンクリートの材料なんですね。
作り方をざっくり説明しますと、まず鉱山を削ってセメントの素になる石灰石という鉱物を採ってきて、それに粘土やけい石や鉄や、それらの代替として使用できる産業廃棄物を入れて高温で焼くと「クリンカ」というものができます。それを細かく砕いて石膏などを加えて粉末状にしたものがセメントです。
そこに水を加えて液体状にします。するとドロドロになるので、型枠の中に流し込んで設計者の好きな形にして固めることができます。
ちなみに、水を混ぜ合わせるのは、ドロドロにして流動性を持たせるためでもありますが、セメントと水に化学反応を起こさせるためなんです。
──コンクリートが固まるのは、乾燥によるものではないんですか。
それはよく勘違いされるポイントですね。
あれは化学反応なんですよ。なので、コンクリートの中は発熱反応によって熱くなります。ダムなどの大きなコンクリートを一度につくらないのは、材料を用意するのが大変なものありますが、自分自身の発熱によってコンクリートがひび割れてしまうのを防ぐためです。そしてこの硬化のスピードなどをコントロールする材料が、セメントです。
コンクリートって、実に奥深い素材なのですよ。
「クラックスケール」というコンクリートのひび割れ幅を図る機器を使って、近所のコンクリートを観察する安田さん。「通勤中の日課です(安田さん)」
──その奥深さを安田さんが感じるのは、どんなときですか?
コンクリートってすごい人間的な材料だと思います。まさに人の手が加わることによって、初めて完成される材料だからです。
これだけ世界中に普及している、ものすごい普遍的な材料なのに、誰の手で、どんな環境下で作られたか、どの地域で産出された材料を使うかで、まったく違うものが出来上がってしまう。
つまり、世の中にはひとつとして全く同じコンクリートは存在しません。すべて“一点もの”なんです。
人間がしっかり手間をかけ、よく考えて作れば、長持ちするものに仕上がります。
“日本のコンクリート工学の父”と呼ばれ、私が尊敬する吉田徳次郎先生も「良いコンクリートを造るには、セメント、水及び骨材のほかに、知識と正直親切を加えなければならない」とおっしゃっています。そしてまた、新しい材料や工法や、他の産業でいらなくなった廃棄物も材料として全部受け入れて、何らか形になってくれる。そんなところも、私は好きです。
──懐の広い存在なんですね。
そうです、コンクリートは懐が深くて広いんですよ。混ぜれば固まってくれるし、すごく厳しい環境にあっても耐えてくれる。
コンクリートは人間にとって最も身近な材料のひとつなのに、こうした特徴を知っている人はあまりにも少ない。そういうところがまた、寡黙でいいんですよね。
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新しいピッカーさんが楽しめる場に

──9月28 日に終了したNewsPicksの新コメント欄のβテストにも、ご参加いただきました。サンクスポイント機能については、「貯まったポイントが換金できたらいいのに」との声もありましたが、安田さんのお考えは?
もしコメントすることで換金性のあるポイントがもらえるようになったら、私はNewsPicks辞めると思いますね。
自分の持っている知見をみんなに共有したい。その気持ちが、おそらくは先にある世界だと思ってきたからです。
もちろん、コメントを続けることで何らかビジネスにつながった方や、ヘッドハンティングされたりする方もいるでしょう。でも、少なくとも私や、やりとりのある建設・素材系のピッカーさんたちは、それが主目的ではないと思うんです。
──では、安田さんのNewsPicksへの要望は?
NewsPicksを一層面白い場にしていくためには、新しいピッカーさんがコメントしやすく、定着しやすい空間にできるかどうかにかかっています。
今の仕組みだとどうしても、昔からNewsPicksを使っていて、フォロワーが相対的に多い人に「いいね」が集まりやすく、フォローもされやすい傾向にあります。
おのずと新しく参入した人のコメントが埋もれてしまいやすく、楽しさを実感しにくい仕組みになっているのではないかと、心配になるときがあります。
──安田さん自身のモチベーションはどこにあるのでしょう。コメントが「いいね」されることでしょうか。
自分の好きなことを書いて「いいね」していただけたら、もちろん嬉しいですよね。だからといって、意図的に「いいね」をもらってバズらせることを狙ってもしょうがないな、とも思うんですよ。
少し感情に訴えかけるような、煽るようなコメントをすれば、わりと難なくバズらせることができてしまいます。ただ、読む側にとっては、その瞬間はなんとなく勢いを感じて納得して「いいね」するものの、おそらく次の日になったら忘れてしまうような、衝動的に消費されるコンテンツになってしまう。
せっかくコメントするのだから、消耗品を量産してもしょうがないなとも思うんです。
だったら極端な話、自分が大好きなコンクリートの話をひたすらしていたい。誰にも理解されなくてもいいから、私が書きたいこと、私が詳しく書けることを淡々とコメントしていきたい。
世間的には認知度の低くニッチなテーマであっても、それについて一生懸命に分かりやすくコメントすれば、業界外の方にも届く。「そうなのか、知らなかった!」ってお互いに気づきを与えあえるのが、NewsPicksの一番の魅力なのではないでしょうか。

安田さんのおすすめピッカー

「せっかくなので、私と領域が近しい方に絞ってご紹介します(安田さん)」
「マテリアルと物性を専門にされている博士課程の学生さんで、年齢や専門分野が近いことがあり、仲良くさせてもらっています。最近では自然科学系の英語記事や原著論文を詳しくご紹介されており、サイエンス分野のピッカーさんでは唯一無二の存在だと思います。セメントで例えると中庸熱セメントのような方だと思います。」
「鉄道建築を専門領域にされるヤマサキさんは、建設業界の数少ないピッカーさんです。コンクリートを含む資材を、現場や設計に携わる方はどうみているのか、コメントを通じてリアルに聞かせてくださるので大変勉強になっています。セメントで例えると早強セメントのような方だと思います。」
「ガラスがご専門で、素材という意味では私と領域が近いので、親近感があります。NewsPicksではあまりピック数が伸びにくいサイエンス系の記事、特に化学の知見を共有してくれる貴重な存在。コメントの際に、引用元となる論文やサイトをしっかり提示しているところもカッコいい。
セメントで例えるとGRCセメントのような方だと思います。」