家庭内の会話も聞かれっぱなしで懸念がないわけではないが、それでも自宅で使うことを選ぶ理由とは──。

大量の情報を集める音声認識アシスタント

四六時中ではないにせよ、あなたの話す言葉は録音されている。
もしあなたが、アップルのSiriやアマゾンのアレクサやグーグルアシスタントといった音声認識アシスタントを使っているならばの話だ(ちなみにアメリカ人の半数近くが使っている)。
スマートスピーカーなどの音声認識アシスタントを搭載した機器はあなたの声に耳を傾けるだけでなく、それを記録して音声コマンドに関する機械学習を強化する材料として使っている。
一方で音声認識アシスタントは、私たちユーザーに関する大量の情報を集めている(企業側は、個人が特定できるような形ではないと言っているが……)。
昨年末、アマゾン・カナダはクリスマスシーズンにユーザーがどのようにアレクサを使ったかについて、お気楽なプレスリリースを発表した。
最も多かったレシピ検索はチョコレートチップクッキーで、一番リクエストが多かった曲は「ジングル・ベル」。また、ユーザーは前の年に比べ4倍もサンタクロースに関する質問をしたという。
「ユーザー」と言えば聞こえがいいが、要するに子どもたちが自宅のスマートスピーカーを使い倒しているということに他ならない。
こうした現状がもたらすのが、アマゾンなどの企業が私たちの子どもの個人情報をどれほど知っているのか、そしてもし情報が流出したり誤った使い方をされたり、拡散されてしまったらどうなるのだろうという問いだ。

子どもが無意識に情報を漏らす危険性

だが、この種の機器がもたらすマイナス面に頭を悩ましているのは親だけではない。人間と機械学習システムとの音声コミュニケーションを進化させようとしている企業の幹部たちも同様だ。
彼らの多くもまた子育て中。複雑な倫理的問題に直面しているのは仕事の上だけではなく、家庭においてもだ。
「子どもたちがこの手の音声アシスタントを余裕で使いこなしているのには正直、とまどいがある」と語るのは、感情認識システムを開発するアフェクティーバ社(ボストン)の研究員、タニヤ・ミシュラだ。
ミシュラには10歳に満たない小さな子どもが3人いる。子どもたちは家で宿題をする時や、何か知りたいことがあると両親には頼らず(親はすぐに相手をしてくれるとは限らないので)、音声認識アシスタントに質問することがしょっちゅうだという。
5月にNYCメディア・ラボの主催で行われたカンファレンスでミシュラは、そんな子どもたちを見ているうちに、親として、そして企業人としての責任を考えずにはいられなくなったと語った。「『本当にそれを作るべきなのか』と問いかけてくれる存在が私たちには必要だ」
グーグルで音声認識アシスタント技術のプロダクトマネジャーを務めるスティーブ・マクレンドンも、自分の子どもたちはスマートスピーカー「グーグル・ホーム」と非常に自然にやりとりしていると語った。
子どもたちの会話に感動したマクレンドンだが、同時に問題が起こりうることにも気がついた。「特に気になっているのが、無意識のうちに情報を漏えいしてしまう可能性だ」と彼は言う。
グーグルなどAI関連事業を手がける企業側に言わせれば、音声認識アシスタントは家族の会話を継続的に聞いているわけではなく、『ヘイ、Siri』とか『OK、グーグル』といったコマンドで「目を覚ました」時だけ機能する。
だが気づかないうちにアシスタントを目覚めさせ、録音をスタートさせてしまった例はこれまでにいくつもある。
子どもと音声認識アシスタントの対話の仕方に懸念を抱いているのはAI企業の幹部だけではない。米連邦議会もそうで、2013年に成立した児童オンラインプライバシー保護法を改正し、未成年者からのデータ収集に対する規制を強化しようという超党派の動きが出ている。
改正法案では、テクノロジー企業に対し13歳未満の子どもから情報を集める場合には親の同意を得ることを義務づけている。また議員たちは、子どもが個人情報を公開してしまった場合に親が消去できる手段を盛り込みたいと考えている。

音声認識アシスタントを擬人化する

だが親にとっては子どもの個人情報の漏えい以上に気になることが他にある。また、音声認識アシスタントと容易にやりとりできることが、子どもの学びや自尊感情、そして世界観に影響を与えてしまうのではという懸念もある。
子どもとAIシステムの対話に関する研究は緒に就いたばかりで結論に至るにはほど遠いものの、親が眠れなくなるようないくつもの示唆がある。
たとえば、2005年にカリフォルニア大学サンディエゴ校の研究チームは、小型の人型ロボットは幼児を10時間以上楽しませることができるかという実験を行った。
子どもたちは最初は怖がったものの、数十回にわたってロボットとふれあううちにロボットに好意を持つようになり、最終的には玩具というより遊び仲間のように扱うようになった。長期的な友人関係が始まったのだ。
2016年にはマサチューセッツ工科大学(MIT)の研究チームが3~10歳の子どもを対象に、アレクサやグーグル・アシスタントのような音声認識アシスタントとやりとりする様子を調べた。
すると、子どもたちは自分たちがアシスタントに教えることもできれば、教えられることもあると答えたという。年上の子どもたちは、アレクサは自分たちより賢いと何の疑いもなく思い込んでいた。
また、子どもたちは一部の音声アシスタントに対し好意的な感情を持ち、大半のアシスタントに対していつも正しいことを言っているとの印象を持った。年長の子どもたちでさえ、ロボットに対し一定の感情移入を行っていた。
音声認識やAIを扱う企業の幹部たちも、自分の子どもたちが自宅の音声認識アシスタントを擬人化する様子を目にしている。そうした関係性には不安を感じずにはいられないものの利点もあり、自宅でスマートスピーカーなどを使い続ける理由になっている。

「息子は英会話に自信を持てるようになった」

オーディオバースト社の副社長であるアサフ・ギャドは、2年前に家族とともにイスラエルからシリコンバレーに移り住んだ。同社はAIを利用した音声コンテンツの検索エンジンを開発しているイスラエルの企業だ。
ギャドの息子はすぐに英語を理解できるようになったものの、まだ言葉にはたどたどしいところが残っていて、気後れしてなかなか知らない人に話しかけることができなかった。「ところがグーグル・ホームを手にしたら、息子は気後れせずに話しかけた」とギャドは言う。
「そしてグーグル・ホームが息子に返事をするようになるとすばらしいことに、息子は英会話に自信が持てるようになった。(グーグル・ホームの)利点がリスクを上回ると納得した」(オーディオバーストの開発した技術は、グーグル・アシスタントにもアマゾンのアレクサにも取り入れられている)
ギャドの家には今やスマートスピーカーが3台もある。当初はマイクが事実上、四六時中オンになっているのが気になったという。「だがそもそも、携帯電話のマイクだって四六時中オンになっている」と彼は言う。「それが嫌ならインターネット接続そのものを切るしかない」
統合コミュニケーションツールを開発する企業、ダイアルパッドのブライアン・ピーターソン共同創業者兼技術担当副社長には小さな子どもが2人いる。子どもたちはまだ読み書きもできないが、自宅のスマートスピーカーを使いこなしているという。
今のところは心配はしていないとピーターソンは言う。「(小さくて)聞いてまずいようなことはまだ知らないからね」
ピーターソンはこの10年間、私たち人間がウェブブラウザや電子メールやアプリにせっせと情報を入力してきたことを挙げ、もはや私たちは自分の情報を支配する手段を手放したも同然だと述べた。
「私は少なくとも大手企業は信頼している。信頼しすぎているのかも知れないが」と彼は話す。「プライバシーについては、グーグル・ホームに質問するのも(ブラウザの)クロームを使ってグーグルで何か検索するのと違いはない。メカニズムは違っても、入力という意味では同じだ」
自宅のグーグル・ホームに文句があるとすれば、それは主に「反応が悪くて『OKグーグル』を言うのにもすごく時間がかかる」ことだと彼は言う。子どもたちが大きな音で音楽を流すせいで、ピーターソンの音声コマンドが聞きとりにくくなっているからなおさらだ。
おかげでいつも、大きな音を鳴らすスピーカーに駆け寄ってその上に覆い被さるようにして「OKグーグル!」と叫ぶはめになっているそうだ。「これがわが家の日常における最大の問題だ」とピーターソンは言った。
原文はこちら(英語)。
(執筆:Christine Lagorio-Chafkin/Senior writer, Inc.、翻訳:村井裕美、写真:© 2018 Bloomberg L.P/iStock)
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This article was translated and edited by NewsPicks in conjunction with IBM.