斜陽の時代に「記者」を選んだ、ミレニアル女子たちのホンネ

2018/5/14
「どちらが新時代の記者・編集者にとって魅力あるメディアか、公開トークバトルでもやりませんか?」
2018年4月。NewsPicks編集部は、オリジナルコンテンツを取材・執筆できる記者・編集者について、初めて公募を開始した。それに伴い、4月25日に開催されたNewsPicks × BUSINESS INSIDER JAPANの合同採用イベント「ジャーナリスト2.0」。
昨日に続き、当日の現場レポートをお届けする。今回は、対バン3本勝負の2本目、「新人記者トークバトル」だ。
*前回までの記事
#00 BUSINESS INSIDER JAPANを大解剖
記者採用対決。強敵ビジネス・インサイダーを知る7つのルール
#01 NewsPicks×BI 編集長トークバトル
【激論】2人の異端編集長が考える、新しいメディアのカタチ

業務連絡は、夜何時までOKか?

司会・大室 では、セッション第2部に移りたいと思います。BUSINESS INSIDER JAPAN(BI)とNewsPicksの新人記者の登場です。ここからが、リアル・ジャーナリスト2.0です。
では、まずは自己紹介から。
西山 紙を読まない若手、BIの西山里緒です。今日は、今、乗りに乗っているNewsPicksさんを、ボコボコにしていいと聞いているので、めちゃめちゃ気合いが入っています。
西山里緒(にしやま・りお)Business Insider Japan記者
91世代のミレニアル記者。 テック、政治経済、EU、ポップカルチャー、アートなどに関心あり。スウェーデンとオランダに4年留学、ドイツの漫画出版社と欧州議会で働いた後、チームラボ広報を経て現職
 NewsPicksの岡ゆづはです。紙のフリーペーパーが大好きです。よろしくお願いします。
大室 岡さん、すでにやや劣勢ですけど、大丈夫ですか。では早速。西山さんは、BIに入った理由、きっかけは?
西山 学生時代、ヨーロッパに5年くらいいて、大学に行ったり、政治活動をしたりしていたんです。帰国するときに、政治に関する何かをやりたいなと思いつつ、でも日本の政治には、全く興味が持てなくて。
メディアも全然、面白いところがないなと思って、帰国後は最初、チームラボという会社に入ったんです。
ここでの仕事はすごく面白かったんですけども、やっぱり、もうちょっと政治や社会に関わる仕事をしたいと思い始めたときに、BIが日本にできたので、入ろうかなと。
ちなみに、統括編集長の浜田さんのことは、知りませんでした。
大室 ヨーロッパで政治活動をやろうと思っていて、チームラボに来て、編集長のことを知らなくて、BIに入った。いやあ、完璧ですよね。ある種、この世代としては完璧なキャリアに近い。
ところで、よく柔道をやっている人って、組んだ瞬間に、相手が強いかどうか分かるって言うじゃないですか。僕、産業医をやっていると、いろんな人の話を毎日のように聞くので、話した瞬間に「この管理職は怖い」かどうか、だいたい分かるんですよ。
浜田編集長、怖くないですか?
西山 めちゃめちゃ怖いですよ(笑)。
大室 その浜田さんに、ビジネス向けのチャットツール「Slack」で、「この仕事やって」と頼まれたら、「いいね!(絵文字)」と送るらしいですね。それ、どういう気持ちで送るわけですか。
西山 BIはミレニアル世代のためのメディアなので、これでいいんだと思ってます。
大室 むしろ編集長に、「私たちの作法」を教えてあげようと。
西山 そうです。
大室 なるほど。浜田さん、その辺は覚えはいい?
西山 私、夜10時以降は、Slackをオフにしていて、土日も通知を切っているんですよ。
夜10時以降に、浜田さんが私に連絡をしようとしたことがあって、そのときは反応が遅かったと思うんですが、その後に浜田さんに、「急な用件もあるから、SlackをONにしておいて」と軽く言われたんです。
でも、10時以降にSlackするとか、非常識じゃないですか? そんなに緊急だったら、Facebookのメッセンジャーで連絡してほしいです。
大室 浜田さんの10時って、多分、普通の会社員の午後4時ぐらいのイメージですよ。それで文句を言ったら、浜田さんは何と?
西山 ちょっとバトって、「30代になったら子どもができたり家族ができたりして、仕事したくても時間的な制約ができる」「20代しか仕事には没頭できないのよ」と。
でも20代に、なんで仕事だけをしなきゃいけないんだろう、と。ちょっと理解に苦しみましたね。
大室 岡さんは、どうですか。NewsPicksで、10時以降に業務連絡がくることはあるんですか。
 あります。私も、普段は夜Slackの音が鳴らないようにしているんです。ただ特集中とかは、ちゃんとONにしています。
岡ゆづは(おか・ゆづは)NewsPicks記者
東京大学卒業。学生時代にロイター通信、英BBC、東洋経済オンラインなどに向け、日英で執筆やラジオ番組の制作を行う。2017年4月よりNewsPicks編集部。
大室 連絡がつかないと、怒る先輩って多いと思うんですけど。無視する?
 できるだけ、気を付けてはいるんですけど。音が鳴らないと、気づかないですね。
大室 そ、そういう感じなんですね。

「Tinder記者」はどっちだ

大室 NewsPicks上で西山さんのコメント欄を見ていたら、西山さんは誰よりも先に、自分の記事に「私が書きました!」とアピールしてますね。
「Tinder専属記者との呼び声の高い私」というコメントもありましたが。
西山 この話、是非、したいんですけども。
大室 なにかあるんですね。じゃあ、恋愛アプリ「Tinder」について。
西山 みなさん、Tinderってご存じですかね。いろいろな人とデートするためのマッチングアプリ。
大室 いわば、出会い系のアプリです。
西山 「出会い系」って言わないです。そんなネガティブな言葉は使いません。
大室 すいません。でも出会い系って言わないと、伝わらないので。
西山 オンラインで、デートする相手を見つけるアプリなんです。2016年の始めに、それにめちゃくちゃはまっていたんですよ。
これは面白いという記事を、2017年の6月くらいに書いて、すごくバズって、個人的に大満足だったんです。
ところが、そんな私のところに、2017年12月、NewsPicksの岡さんという記者が、Tinderの記事を書いたというニュースが飛び込んできました。
 にゅ、ニュースですか。
西山 ニュースというか、噂で聞いて。「Love×Tech」という特集をしていたんですよね。
 そうです。いやあ、ありがたい。
これは、アプリの開発者たちに「テクノロジーを駆使して最適な相手を見つける」とはどんなメカニズムなのかを取材するだけでなく、実際に使ってみて「リアル」まで検証したという記事です。
大室 岡さん、書いてましたね。西山さんにしてみれば、ライバル現る、ですね。
西山 そうなんですよ。私のほうが、早くからやっているぞと。
まさかライバルが出てくると思わなくて、慌てて、「もう若者はTinderを使っていない」という記事を書いたんですよ。
 え、そうだったんですか(笑)。
大室 そんなに潰しにかかってるんだ。
西山 でもそれは、あんまりバズらずに、ちょっと悔しい思いをして。
大室 ちょっと、流行っていないというには早過ぎたね。

コインチェック「笑い声事件」の真相

大室 ところで、西山さんの渾身の記事というのは、ありますか。
西山 Tinderもそうですけど、私、コインチェックの仮想通貨流出事件を一番最初に報じてるんですよ。自称なんですけど。
話を聞きつけてすぐに渋谷のコインチェック本社のドアを叩いて、「ドンドンドン、すいません、コメントください」と。
そのとき、ドアがガチャっと開いて、すぐにガチャっと閉められて、ドアの向こう側から笑い声がしたんですよ。
すぐにSlackで編集部に共有して、「これ、何なんですかね?」と。すると、自分の感じたことを書く、みたいな手法があるんだよと先輩たちにアドバイスされて。
何だっけ、新聞用語であるんですよ、そういう手法。
──後方から浜田 雑感……。
大室 外野の浜田編集長から、赤が入りましたね。ジャーナリスト2.0は、新聞用語もどうでもいいんです。1.0のことは忘れて、アップデートしていますからね。
西山 雑感」という言葉を、そのとき初めて知って、はっとして、すぐに書いたという。
大室 ちなみにこれ、炎上したという噂を聞いたんですけど。笑い声が聞こえていたという、いわば悪意のあることを書いたから。
西山 だいぶ炎上しましたね。
大室 そうだよね。笑い声が聞こえてきたというのは事実だけど、時と場合によっては、批判されうる記事になる。

「新聞5紙」はチェックすべきか?

大室 岡さんは、自分が担当して、面白かった記事はありますか?
 突撃系でいうと、「リア充を買ってみた」という記事を、インスタグラムの特集でやりました。「リア充代行サービス」というものがあって、お友達1人、2時間8,000円で買えるんですよね。
お友達の女の子2人を雇って、大江戸温泉物語に行って、温泉にも入らず、ひたすらリア充に見える写真を撮るという。
インスタブームを取り上げる上では、キラキラした部分だけでなく、「闇」も避けては通れない。ということで、サービスを提供する会社の社長を直撃し、実際に体験もしてきました。
#闇 レンタル友達大盛況。平成女子が「リア充代行サービス」を使う理由
大室 「インスタ映え」の最前線ですね。リア充になれない人が、リア充ぶるために、友達を買いに行く。
ちなみにお二人は、どうやってそういったネタを収集してくるんですか?
西山 コインチェックの場合は、Twitterでずっと追っていたら、そういう動きがあることが分かって。
TwitterとかFacebookとか、あとは海外のメディアをよく見るようにしています。「feedly」というキュレーションアプリがあって、そこに自分でブックマークしておくと、ぶわーってニュースが見れちゃう。
ちなみに私、浜田さんに、新聞を読んでいないことを怒られるんです。ただ、紙は読んでいないんですけど、一応、SmartNewsでタブを保存して、一面だけピピピッとチェックしていて。
大手5紙は、ちゃんと登録しているんですけど、それでも一面の記事が漏れちゃうこともあるじゃないですか。そしたら浜田さんに、「今日、朝日の一面に出てたでしょう」ってめっちゃ怒られたことがあって。
うわーと思ったんですよ。もちろんメディアの人間だから、大手新聞のニュースはフォローしなきゃいけないというのは分かるんですけど、同世代の中だったら、これでも相当見ているほうだぞという気持ちもあって。
これに私は、どう答えを出したらいいのかなと。岡さん、読んでます? 5紙というか、旧来メディアの記事。
大室 「旧来」でまとめた。まあ、いいや。
西山 旧来というか、新聞紙。
 うーん、どっちかというと、海外メディアから先に漁りますね。
西山 やっぱり。私もそうです。

NPは「強い者に優しい」のか?

大室 NewsPicksは、さっきの編集長バトルでも話した通り、ちょっと「男子校感」があるじゃないですか。
 すごくありますね。
大室 中で働いてみて、どうですか。
 NewsPicksというコミュニティは男子比率が高いし、中の記者の人も男性が多いので、やっぱり男子校感はありますね。
でも、とても面倒見が良い先輩方が多くて、「ここが良くない」「こういうところを改善したらいいんじゃない」と、すごくはっきり言ってくれますね。毎日、すごく面白いです。
大室 なるほど、はっきり言ってくれる。BIはどうですか。
西山 BIは、全然男子校じゃないですね。私、NewsPicksの男子校感に、違和感があるんですよね。
大室 ちょっとそれ、大きめの声で言おう。
西山 20代〜30代に人気なのは分かるんですけど、強い者に優しいメディアで、弱い人の声を封じている感じがあるなと思っていて。岡さん、そう思いませんか?
 そうですかね。確かに、コメント欄にマウンティングがあるなと感じることはあります。
ただ私は、長いものに巻かれるのがあまり好きではなくて、記者としてNewsPicksが強い人に優しいメディアだと思ったことは、あんまりないんですよ。
大室 でも確かに、新自由主義というか、「稼ぐのが勝ちよ」という空気感はありますよね。
西山 そう思います。NewsPicksさんがこの前、特集していた「ニューエリートの創り方」にもありましたが、オールドエリートは「自分至上主義」。自分が中心で、お金が欲しい。
ニューエリートは、もっとコミュニティに貢献するとか書いてあるんだけど、そもそもその特集の、「どうすれば君は、ニューエリートになれるのか」という視点そのものが、既に自分中心じゃない?みたいな。
ワーク・アズ・ライフ時代到来で、エリート像が激変する
大室 NewsPicksのコメント欄をGoogle翻訳で読んだら、だいたい主語に「I(アイ)」って出てきますからね。みんな、「俺が、俺が」と言っている。
 BIの中で、弱い者を助けている記事って、例えばどんなのがありますか?
大室 助けているというか、現場の声を拾っている感はありますよね。
西山 そうですね。例えば「アフター3.11世代」という特集で、東日本大震災後に就職活動をした人たちは、お金ではじゃなくて、もっとコミュニティに貢献することに価値を置くという仮説を立てて、取材していったんです。
そもそもBIが読者ターゲットにしている「ミレニアル世代」って、その時点で既に弱い者なんですよ。人口も20代〜30代は上の世代より少ないし、金融資産も、上の世代のほうが持っている。
仮想通貨や副業が盛り上がるのは、そこから逃げ出す人たちの逃げ道だから。「ビットコインはノアの箱舟」という言葉がありましたけど、そういう人たちを救わないメディアって、意味があるのかなと思うんですよね。

「ミレニアルは、グローバルだ」

大室 ミレニアル世代は弱いのか。これは面白いですね。
 弱いんですかね?
大室 例えば落合陽一さんは、ある種、今どきの人だと思うんです。落合さんがよく言うのは、「テクノロジーが変化したときは、若さは強みである」と。
つまり、「僕らは強者だ」という言い方をするんですよ。
落合さん的な未来感で言うと、テクノロジーの変化で、既存のルールが全て変わる。このときは、若さは強さになる。しかし、取り残される若者も出てくる。これは、弱者である。だから、取り残される前に、こっちに来なよ、という。
大室正志(おおむろ・まさし)産業医
医療法人社団同友会・産業保健部門 産業医。産業医科大学医学部医学科卒業。専門は産業医学実務。ジョンソン・エンド・ジョンソン統括産業医を経て現職。現在日系大手企業、約30社の産業医業務に従事 。NewsPicksでは第一期よりプロピッカーを務める
 私はちょっと端から見ていて。NewsPicksでマウンティングが展開される部分もあるけど、そういうのに疲れちゃう人たちも、いるじゃないですか。
だから別に気を張らなくても、「ゆるNewsPicks」みたいものがあってもいい。
大室 なるほどね。
BIの場合は、メディアとして、旧来型の右派とか左派とか、何かしら世論を寄せたいといった思想はあるんですか。
西山 個人的にすごく意識しているのは、ミレニアル世代って、グローバルに価値観がつながっているんですよ。今の20代、30代は、世界的に見ても住宅ローンを組めない、学費が高過ぎて奨学金が返せない。
今までとは比べものにならないくらい格差が拡大していて。その反動として、ミレニアル世代は刹那的で、ちょっと高価なアボカドトーストが好き、というジョークがあるんですけど。
 私もアボカドトースト、好きです(笑)。
西山 私も大好きなんです。そういう価値観って、日本でもしっくりくるというか。
そういった価値観を紹介していくときに、あんまり「日本は、日本は」とはしたくなくて。もっと世界と有機的につなげていくというか、海外のミレニアル世代も同じ価値観を持っているんだろうなと考えながら書いています。
 私は正直、ミレニアル世代がそんなに弱いとは感じていなくて。特にブロックチェーン界隈は同世代が多いので、友達を辿って取材したりしています。
イーサリアムの生みの親であるヴィタリック・ブテリンも1994年生まれ。私と同い年だと分かって、びっくりしたり。
【独白】ブロックチェーンの天才、「非中央集権」に賭けた思い
大室 でもそれは、技術を持っている若者は強いという話ですよね。いわば「スタンフォード史観」というのかな。
ただ、全員がスタンフォード大出身のテック系の若者ではない。
やっぱりNewsPicksは、得てして進学校の部室感がある。自分たちの周りだけを見ていると、確かに強者しかいないので。
西山 岡さんって、東京出身ですか。
 はい。
大室 東京出身、東大女子です。大したものですよ。
西山 やっぱり。でも私も、実は東京育ちで、中高一貫の女子校出身。多分、すごく裕福というか、恵まれた環境で育った部類の人間です。
地方出身の人の話を聞くと、自分がいかに狭い世界で生きてきたか気付かされます。もうちょっと考えないとな、と。
大室 ということで、リアル・ジャーナリスト2.0の雰囲気が、何となく理解していただけたんじゃないでしょうか。面白かったですね。
休憩を挟んで、最後のバトルロワイヤルに移りたいと思います。
*明日の「NewsPicks ✕ BUSINESS INSIDER JAPAN」ウケた企画、スベった企画トークに続きます。
(執筆:池田光史、撮影:加藤昌人)