日本の未来を先取り。台湾に学ぶ「7つのなぜ?」

2018/3/19

課題最先進国、台湾

台湾が気になる。
そんな風に感じている日本人が、最近、多くはないだろうか。日本の隣人であり、かつては日本の領土でもあり、いまは国交がない台湾。しかし、日本にとっては、切っても切れない縁で結ばれた大切な隣人である。
人口約2350万人、面積では九州ほどの台湾に、強くひかれる日本人が増えている。
その理由の一つは、“日本にありそうでない動き”が台湾で進んでいるからだ。
台湾が抱える課題は、日本にもそっくりそのまま当てはまる。
人口減、産業の空洞化、外国人労働者問題、原発依存からの脱却、若者の不満など、枚挙に暇がない。とくに台湾の少子高齢化は、日本を上回るスピードで進んでいる。台湾は“課題最先進国”と言える。
だが、台湾はこうした難しい課題に、時に大胆に、時に繊細に、時に楽観的に向き合っている。課題へのソリューションを編み出し、いち早く動き始めている。
本特集「台湾に学ぶ『7つのなぜ?』」では、台湾で起きている新しい変化や新しい取り組みを、できるだけ詳しく、その背景も含めて紹介していきたい。
もちろん、日本人にとって台湾が気になるのは、台湾が“課題最先進国”であるからだけではない。
もともと台湾の対日本感情が良好であることは知られているが、昨今の日本においても、対台湾感情は極めて良好だ。

旅行人気はNo.1。雑誌の特集も続々

台湾の日本大使館にあたる台北駐日経済文化代表処が昨年行った世論調査がある。
「アジアのどこの国にいちばん親しみを感じるか」という質問に対して、台湾と回答した人は52%近くに達した。これは13%の韓国や3%の中国を圧倒的に引き離している。
日本における同種の世論調査でも同様に、中国や韓国への親近感はかなり低い数値にあり、台湾と比べると対照的と言える。
こうした世論を意識してか、かつては台湾に冷淡に見えた日本政府も変わってきた。
安倍晋三首相は、2月に台湾・花蓮で発生した花蓮地震の際に「台湾加油(台湾頑張れ)」と色紙を書いた動画を公開して、台湾の人々を感動させた。
安倍首相の直筆の色紙を1面トップで報じる台湾の新聞(野嶋撮影)
台湾への観光旅行も、対中国、対韓国、対香港などが盛り上がりに欠ける中で、極めて順調に推移している。
かつては倍ほど差をつけられていた対韓国と比べても最近は遜色ない人数にまで伸び、年間200万人が目前となっている。日本の高校の修学旅行先でも台湾はトップ。正月の渡航先でもハワイと人気No.1を争っている。
女性誌や情報誌による台湾特集も次々と刊行されている。
担当編集者たちに聞くと、「中国、韓国、香港よりも台湾は確実に売れる」というのが、編集者たちが台湾特集を組みたくなる大きな理由だという。
日本の女性誌や情報誌では台湾特集が目白押しだ(筆者作成)
実際、私がよく使う羽田空港―松山空港(台北)便は、どの航空会社でも予約がなかなかとりにくい状態で、格安チケットの値段も昔は往復3~4万円で買えたが、今は5万円を切ることは滅多にない。
こうした台湾ブームの背景には、言うまでもなく、2011年の東日本大震災に際して、200億円という巨額の義援金を台湾が送ってくれたことがある。
その後の台湾への関心の広がりは「どうして台湾がそんなに日本を大切にしてくれるのか」という素朴な疑問が出発点となっているように見える。
だが、その一方で、台湾社会の「今」について、日本では意外なほど知られていないのが現状だ。本特集では、なくべく、日本人が知らない台湾、もしくは、十分に知らない台湾についてお伝えしていきたい。

「アジア初」の脱原発、同性婚

台湾では現在、台湾統一を掲げる中国と距離を置くことを掲げて当選した女性総統の蔡英文氏率いる民進党が政権与党の座にある。
民進党政権の誕生で、中台関係は一気に緊迫するかと思われたが、蔡英文総統の冷静な対応もあり、今のところ情勢は予想より落ち着いている。
その一方で、過度の中国依存から脱却していくための措置を着々と進めている。
経済・ビジネスの面でも、日本と台湾が置かれた立場は似ている。
米国、中国という両大国に挟まれる中で、どこに勝機を見いだすのか。どう両国と差別化していくのか。台湾の「ものづくり中間管理職的なポジション」戦略や、思わぬところで世界のヒット商品を生み出す仕組みから、日本が学べることは多い。
エネルギー政策でも大胆な策を打ち出している。2025年にすべての原子力発電から撤退する「非核家園(原発なき郷土)」を表明し、アジアではいち早く、脱原発とエネルギーの多角化に本腰を入れて動き出した。
「アジアで初」はほかにもある。同性による婚姻を認める最高裁の憲法解釈を受け、来年中の「同性婚合法化」に向けて歩み始めている。
外国人労働者の受け入れという点でも先進国だ。
人口減による労働力不足に対応するために、アジアで最も早い段階から介護や工場へ外国人人材の導入を積極的に進めてきた。すでに60万人以上の外国人労働者が台湾で暮らしている。
外国人との共存や融合を、台湾ではどのように実現しているのだろうか。その最前線をレポートする。
そんな台湾に対して、今の日本人に求められているのは、過去の「中国と台湾」という冷戦的な対決図式だけで台湾を見ないことである。
同じ課題を抱えながら生きている仲の良い隣人として、台湾で起きている変化を見つめ、学ぶところは学び、協力できることは協力する素直な姿勢が必要だ。
そんな問題意識から、この連載では「なぜ」台湾にできるのか、という切り口から、「台湾で起きている7つの変化」を取り上げ、「台湾から学ぶヒント」を少しでも提供したい。
台湾の先進性を支えているのが、若者の圧倒的な元気さだ。初回と第2回では、その若者の間で巻き起こる「独立書店ブーム」と、「政治参加ブーム」を紹介したい。
(デザイン:九喜洋介)