「私の一次情報」をコメントしたい。上海ピッカー鈴木梢一郎さん

2018/2/3
NewsPicksで活躍する一般ピッカーさんにお話を伺う「NP“コンフィデンシャル”」、31人目にご紹介するのは、上海在住の鈴木梢一郎さんです。
新卒で人材ビジネス大手に入社し、その後社内ベンチャー制度で立ち上がった福利厚生アウトソーシング会社の創業メンバーとなった鈴木さん。2012年からは活躍の場を上海に移し、中国ではまだ馴染みの薄いサービスをゼロから立ち上げてこられました。
そんな鈴木さんが、NewsPicksでコメントするときにこだわっていることとは?

日本を知るツールを求めて

ーー鈴木さんは2013年の12月からご利用いただいています。当時はまだ「社員とその知り合い」が中心の、ごく小さなコミュニティでした。
たしか当時は、ニュースをまとめ読みできるサービスが続々とリリースされた時期で、いくつか使ってみた中で定着したのがNewsPicksでした。
中国では政府によるインターネットの規制があるため、グーグルやフェイスブック、ツイッターといった海外のサービスには、VPNなどを活用しないとアクセスできません。
NewsPicksは、日本国内の様子を知ることのできる貴重なツールです。
「知的好奇心を満たしたい」、そして「多様な考え方に触れて刺激を受けたい」。このふたつの思いを満たせるサービスとして重宝しています。
鈴木梢一郎(すずき・しょういちろう)
大学卒業後、福利厚生アウトソーシングのベネフィット・ワンで営業マネージャーや事業部長、新規事業立ち上げを担当後、執行役員を経て、2012年に上海へ。ベネフィット・ワン上海の立ち上げから携わり、総経理に就任。

NewsPicksに感じる可能性

ーーNewsPicksを、日々どんなふうに使いこなしていますか。
まず「総合トップ」にあるニュースに目を通して全体を掴んでから、「マイニュース」に上がってくるニュースを読んでいきます。
特に興味があるのは、中国を含む海外ニュースとテクノロジー、そして企業買収や金融関連のニュースです。NewsPicksにはそれぞれの分野に詳しいピッカーさんがいるので、フォローして、彼らがピックした記事を読むようにしています。
それからオリジナル記事も、年々充実してきましたよね。ピッカーの関心にリアルタイムで応えていこうという気概が伝わってきて、新しいメディアの可能性を感じます。
そのなかでもやはり、中国に関する特集は読み応えがありました。
紅いシリコンバレー」では、深圳(シンセン)にエコノミストの川端隆史さんによる突撃ルポから現場の熱気が伝わってきました。「『中国崩壊論』の崩壊」では政治経済をマクロ視点で俯瞰する記事で、基礎をおさらいすることができました。
上海に来て6年になりますが、現場でもがきながら見えてきたことも多くあるものの、近づきすぎて見えにくくなった部分もあります。外の視点で冷静な分析が読めるのはありがたいし、今後も継続的に追いかけてほしいです。

ベンチャーの創業メンバー

ーー鈴木さんは、福利厚生のアウトソーシングサービスを展開する、ベネフィット・ワンの創業メンバーのひとりだったそうですね。
私が大学を卒業した1999年は、就職氷河期の真っ只中。最初は教員を目指していたので、教育実習に行ったりしていました。
教員になる準備を進めながらも「世の中のことを知らない自分が、このまま教壇に立っていいのだろうか」という思いが拭いきれず、まわりより周回遅れで就職活動を始めることに。
志望したのは、教育や人材育成の分野です。その中でも新しいことに挑戦できそうな、ベンチャー企業に的を絞ったところ、ご縁があったのが総合人材サービスのパソナでした。
そしてパソナの社内ベンチャー制度で立ち上がった、福利厚生のアウトソーシングを手がけるベネフィット・ワンの営業部に、希望どおり配属してもらいました。
ーー新卒でベンチャーに飛び込んだのですね。
当時は、企業がコスト削減のために社宅や保養施設を売却したり、社員旅行を止めたりと、福利厚生を見直した時期でもありました。さまざまな企業の人事部に飛び込みで営業に行っては、「新しい福利厚生のあり方を考えましょう」と提案して回っていました。
私が入社した頃は30人ほどだった社員数も、みるみる規模を拡大して1000人を超え、ジャスダックや東証2部に上場も果たしました。会社が成熟していく過程を体験できたのは、私にとって財産です。
そして2012年、私にとって転機が訪れました。
海外進出プロジェクトの第1号をやってみないか、と声がかかったのです。

ひとり、上海へ

ーーはじめての海外赴任、言葉や文化に慣れるまでは大変だったのでは。
たったひとり、知り合いもいない土地に移り住んでゼロからビジネスを興すのは、予期せぬことの連続でした。オフィスを借りて、スタッフを探し、システム開発をする。サービスをローンチするまでも一苦労でした。
とはいっても、振り返ってみれば、ここまでの苦労はすべてお金で解決できます。
本当に大変なのは、「稼ぐ」こと。
利用企業を一社ずつ口説いて回り、レストランやホテルといった福利厚生の“取り扱い商品”の部分も、すべて現地で仕入れなくてはなりません。
ーー利用者と取り扱い商品、どちらから注力すればよいのでしょうか?
正解はないと思いますが、ひとつ私が確信しているのは、「いい商品がないと売れない」と考える人は、いい営業にはなれないということです。
売れない理由を商品のせいにしていては、何年たっても売れない。そのうちにお金が先にショートするでしょう。
ーーいろいろご苦労が多いかと思いますが、最も難しさを感じたことは?
日本人の私が未だに苦労するのは「見込み案件の読み」です。
日本では一度「やる」とGOサインが出れば、部下はそれに従って動きます。前言撤回は会社の信用に関わりますから、めったなことではくつがえりません。
ところが中国では、経営会議で意思決定された後でも、トップの意見が突然コロッと変わってしまうことがあるのです。
「◯◯会社の契約が取れそうです」と本社に報告したのに、一向に話が進まないこともしばしば。同様の悩みは、アジアのみならず欧米もまた抱えており、日本と海外の組織の違い、文化の違いを感じます。
本当にサービスが導入されるまでは、なんでも起こりうる。一喜一憂せずに心を開いてやっていくほかありませんね。

「私の一次情報」を書く

ーー鈴木さんご自身もコメントをつうじて上海の様子を描かれています。コメントするときに気をつけていることはありますか。
私が現場で体験したことや感じたことなど「私の一次情報」だけを書くようにしています。
上海に来たばかりの2012年には各地で反日デモがあり、日本メディアでも大きく取り上げられていました。その影響もあって、しばらくは中国に関する報道やネットでの反応は、厳しい語調のものも少なくありませんでした。
上海には日本人がおよそ6万人、日系企業が3000社以上あると言われています。トヨタ自動車の前身である豊田紡織も、創業の地は上海でした。自動織機を独自に開発し、紡績事業で貯めた資金で、自動車事業をスタートさせたともいわれています。
日本の先達は上海に根を下ろして開拓し、この地で雇用を生み出してきました。
現地でビジネスをする一人として、日中の距離が少しでも縮まるようにとの思いから、私が知っている「中国」をお伝えしたいと思い、コメントしています。特に上海では、生活に密着したテクノロジー活用が発展しているので、実際に利用してみて気づいたことを書くようにしています。
ささやかですが、上海の素顔を知るきっかけになれば嬉しいです。
ーー鈴木さんのコメントを遡って読み返してみて、コメントを控えられていたのかな、と感じる時期がありました。“お休み”期間を経て、NewsPicksを再開くださったのはなぜでしょうか。
ひとりの利用者としての実感ですが、NewsPicks上でピッカー同士が互いに揶揄する
コメントが増えた時期があったように思います。たとえその矛先が自分に向いていなかったとしても、私がNewsPicksに求めている「知的好奇心」や「多様な考え方に触れる」といった目的が、その時期は満たされにくくなりました。
しばらく間をあけて、またアプリを立ち上げたときに、予想以上にコメント欄の雰囲気がよくなっていたんです。よく持ちこたえたなあと思いましたし、私もまたコメントを再開するようになりました。
上海ではアイスホッケーのチームに所属している。「チームはアメリカ、中国、日本の混合チーム。試合中の行動にお国柄が出て興味深いです」(鈴木さん)

根を張り、仲間を増やしたい

ーー上海駐在も6年になりますね。鈴木さんの今後の展望をお聞かせください。
ベネフィット・ワンの事業は、世界進出第1号の上海をはじめ、タイやインドネシア、シンガポール、そして米国やドイツにも拠点を増やしています。
私たちが手がけるのは、信頼関係の構築やビジネスパートナーの意思決定に時間を要するビジネスです。商習慣の違いを学びながらチューニングし、種を蒔いてから結果がでるまで忍耐強く関係構築する必要があります。
やっぱり私は、事業の立ち上げが好きだし、切り込み隊長の役割を担うのが好きなんです。そして中国を含め、海外で一緒に戦ってくれる仲間探しもしています。
新しいマーケットを開拓する面白さを味わいながら、今のビジネスを世界に広めていきたい。このチャレンジングな環境で、私は根を広げ、深く掘り下げていきたいのです。

鈴木さんのおすすめピッカー

「自分が読んで面白かった記事を、ほかの方がどう読んでいるか興味があるので、特定の人のコメントに絞らず読んで刺激をいただいています。

最近読んで印象に残ったのは、福建省にある福州大学の山口優子さんのコメント
中国がめざましく発展していくのを『遣唐使時代のように随時取り入れて』いけば、お互いに発展できる。そのとおりだなと共感しました」(鈴木さん)