人々の関心を利益に変えるビジネスが消費者の嫌悪を招くなか、いずれ既存の大手ソーシャルメディアを破壊する勢力が現れるだろう。問題は、フェイスブックがその破壊される大手になるのかどうかだ。

スティーブ・ジョブズの「予言」

スティーブ・ジョブズは2010年に、今では通用しないこんな言葉を残している。
当時、サムスンなどの競合が出し始めていた大画面のスマートフォンについて尋ねられたアップルの共同創設者は「そんなものは誰も買わないだろう」と否定的な見解を示した。スマートフォンの理想的な画面サイズは、片手でタイピング可能なぎりぎりの大きさの3.5インチだとジョブズは述べた。
むろん、大画面スマホの売りはタイピングのしやすさではなく、写真や動画を見やすいことだ。ジョブズもそれは理解していたが、アップルが次に出そうとしていた「iPad」が、スマホ以上にそのニーズを満たすと考えていた。
そして、アップルが大画面スマホの時流に乗れば、消費者は2台のデバイスのうち1台しか買わず、自社製品どうしで売上を食い合う結果になる、と。
しかし2014年までに、ジョブズの読みは外れていたことが明らかになった。市場シェアをそれ以上減らす代わりに、アップルは大画面化した「iPhone 6」とさらに大画面の「iPhone 6 Plus」を発売し、爆発的なセールスを記録した。
とはいえ、自社製品の売上を食うという点で、ジョブズは正しかった。大画面の「iPhone」が登場したことで、iPadのセールスは落ち込んだからだ。しかし、それは価値のある犠牲だったといえる。アップルは、自分たちがすべき仕事を他社まかせにするのをやめ、自分たちでやることを選んだのだ。
そして今、このエピソードを参考にすべき人物はフェイスブックのマーク・ザッカーバーグCEOではないだろうか。

ダメージコントロールは有効か

この15カ月間というもの、ザッカーバーグCEOとフェイスブックはダメージコントロールに追われ、ユーザーや政府機関の信頼を取り戻そうと試みてきた。
これまでも批判の種には事欠かなかったフェイスブックだが、2016年の米大統領選をめぐってフェイクニュースやロシアの介入が疑われるプロパガンダの拡散に中心的な役割を果たしたことは、同社の評判にかつてないほど長引くダメージを与えている。
そのダメージはフェイクニュースや選挙への介入といった問題の枠を超え、フェイスブックはユーザーのメンタルヘルスを悪化させ、イデオロギーによる社会の分断を深刻化させるのではないかという疑問さえ取りざたされるほどだ。
これに対し、一時は自社の責任を否定するそぶりを見せていたザッカーバーグCEOも、ダメージ回復に取り組むことを約束している。その一環として、広告の審査や嫌がらせ報告への対応といった業務に当たる人員を大量に雇い入れる計画だ。
また、ニュースフィードに表示される投稿の選択方法を変更し、友人や家族の投稿を優先表示するという。これは、「有意義な交流」をもつことが精神面の健康を増進する可能性を示した調査結果に基づく措置だ。
さらに同社は、ニュースメディアの信頼度をユーザーに評価してもらい、クラウドソーシング的に集めたその評価を基に、ニュースフィードに表示する記事を決定する計画も明らかにしている。
フェイスブックのこうした取り組みが、どれほど誠実で真っ当なものになるかは判断しがたい。あいかわらず、フェイスブックのやり方には最低限の透明性しかない。
また、外部の意見よりも自社の原則、たとえばいかなるソリューションも規模が調整可能で「コミュニティ」の価値を反映したものでなくてはならないといった方針を優先させる姿勢も変わっていない。
こうしたバイアスにとらわれているフェイスブックは、しばしば同じ間違いを何度も繰り返す。最近の一連の取り組みにしても、人々の対立を煽るようなフェイクニュースなどを一層のさばらせるだけで、減らす効果はないと考えられる要素がすでに指摘されている。

「人間心理の弱点を利用する行為だ」

たとえフェイスブックが、自社を民主主義にとって危険な存在でなくすことに成功したとしても、それでは不十分だと考えるユーザーは多く、その数は増え続けている。
ザッカーバーグCEOにとって厄介なことに、そうした見解を示す人々のなかには資産家のショーン・パーカーやAsana(アサナ)の共同創設者ジャスティン・ローゼンスタイン、ベンチャーキャピタリストのチャマス・パリハピティヤなど、初期のフェイスブックを支えた関係者が何人もいる。
彼らが考えるフェイスブックの根本的な問題は、自社がデザインした通りにユーザーを行動させようとするあまり、ユーザーの思考や振る舞いをゆがめてしまう点だ。
「人間心理の弱点を利用する行為だ」とパーカーは指摘する。「われわれの子どもたちの脳にどんな影響が及ぶか、わかったものではない」
最近は、シリコンバレーの影響力のある人々がフェイスブックなどのソーシャルメディアの利用を減らしたりやめたりする動きを聞くことが多い。
「リーン・スタートアップ」創設者のエリック・リースは先日、「自分の正気を保つ試みの一環として、ツイッターやソーシャルメディアからほとんど離れている」とツイートした。
エンジェル投資家のジェイソン・カラカニスもこの1月、自身の番組『This Week In Startups』の収録で筆者に似たようなことを話した。アップルのティム・クックCEOも、身内の子どもたちにはソーシャルメディアを使わせたくないと発言している。
彼らは、テクノロジーとの付き合い方において世間の動きを先取りしている、いわゆるアーリー・アダプターを自認する人々であり、今回もその一例になる可能性があることをフェイスブックは憂慮すべきだ。
「消費者は、このビジネスモデルが自分たちの利益にならないことにいずれ気づくだろうし、すでに気づきつつある」と、作家で評論家のアンドリュー・キーンは『リコード』に語っている。「ザッカーバーグが目下取り組んでいる改革は、いわば沈みゆくタイタニック号のデッキチェアを並べ替えるようなものだと思う」

ザッカーバーグ版「イノベーションのジレンマ」

かくいう筆者も、こうした流れに乗っている1人だ。2017年10月にすべてのデバイスでアカウントをログアウトして以降、フェイスブックからほぼ完全に離れている。
2006年以来初めてフェイスブックのない生活を送ってみて、それが自分の幸福や知識にわずかな貢献しかしていなかったことがよくわかった。しかしその一方で、フェイスブックが実際に役立っていた部分もあることや、それを活かした価値ある製品の可能性も見えてきた。
フェイスブックのソーシャルグラフは、プライベートと仕事関係の連絡先を可視化する一種のデジタルマップとして、個人的にはありがたい機能だ。
もしもフェイスブックに連絡先、写真、メッセージ、グループの機能は備えるが「さらなる利用」を促す行動エンジニアリング的な要素を一切排したバージョンがあれば、月額数ドルを払って利用してもいいと思う。
しかし、フェイスブックがそのような製品を開発しないのには、明白な理由がある。米国ユーザーの平均的な利用時間は1日40分間にのぼる。筆者がこれと同じ時間を同サービスに費やすと仮定すると、同社が筆者から得る広告売上は年間60~80ドルの計算になる。
新製品を開発したところで、筆者のような人間が進んで支払う利用料はまず間違いなく広告主が支払う金額より少ないだろう。それなら、筆者のようなユーザーを現状のままの製品に呼び戻すほうが利益を得る方法としてはるかに手っ取り早く、確実性が高い。
この状況は、ザッカーバーグ版の「イノベーションのジレンマ」だ。
イノベーションのジレンマとは、ハーバード大学のクレイトン・クリステンセン教授が説明したシナリオで、このジレンマに陥った企業は市場変化を取り入れると自社のビジネスに損害を与えることになるため、変化に乗り遅れてしまうというものだ。
これは、大画面スマホを買う消費者がiPadも欲しがるだろうかという疑問を抱いたスティーブ・ジョブズの置かれた状況と似ている。顧客がもたらす売上を、わざわざ減らす理由がどこにあるのだろうか。

フェイスブックの地位を誰が奪うのか

その問いに対しては、当時のアップルが出したのと同じ答えが当てはまる。つまり、自分たちがやらなければ、ほかの誰かがやるということだ。
ユーザーの興味や関心を手軽に採掘できる天然資源のように扱わないテック製品を求める兆しはすでにある。フェイスブックのニュースフィードを非表示にしたり、iPhoneの画面をモノクロ表示にして興味を引きにくくしたりといったことを試す人が出てきているのだ。
「テック依存の解決策を求める大きなマーケットが存在する。テック企業がその存在に気づく日が、もう目の前まで来ていると思う」と、『ニューヨーク・タイムズ』紙のコラムニスト、ケビン・ルースはツイートしている。
そうした日が来れば、他のどこかの企業がフェイスブックのビジネスを破壊し、同社のソーシャルメディア支配に終止符を打つ絶好のチャンスになるだろう。ただし、ザッカーバーグCEOがその種の脅威を見逃さない人物であることは、ほかの状況に関して証明済みだ。
スナップチャットが若いユーザーの支持を集めていたころ、人気のあった「ストーリー」機能をフェイスブックは臆面もなく傘下のインスタグラムに取り入れた。そうした機能は、インスタグラムとフェイスブックがそれまで体現していたものとおよそ対照的なコンセプトであったにもかかわらずだ。
しかし、フェイスブックに再び脅威が迫っていることは間違いない。ソーシャルメディア自体は、この先も消えることのない強力なテクノロジーだ。しかしそれを、エンゲージメントを高めることに最適化しなくてはならない理由はない。
フェイスブックが誇るユーザーの囲い込みにしても、フェイスブック以上に市場のニーズに合致し、フェイスブックの欠点を取り除いたソーシャルメディアが登場すれば、かつてフェイスブックがマイスペースに取って代わったのと同じ速さでフェイスブックの地位を奪い去るだろう。
フェイスブック、グーグル、アップル、マイクロソフト、アマゾンという消費者向けテック大手のうち、ユーザーをできるだけ長く滞在させることをビジネスモデルの基盤にしている企業はフェイスブックだけだ(グーグルの場合、傘下のユーチューブを除く広告モデルは、ユーザーの滞在時間を長くすることではなく、利用頻度を上げることを基盤にしている)。
この先、シリコンバレーのアーリー・アダプターたちにならって、アテンション・エコノミー(人々の関心が価値を生むとする概念)に背を向ける消費者が増えれば、これまでフェイスブックをソーシャルメディアでほぼひとり勝ち状態にしていたその持ち味が、今度は同社をひとり負けに追い込む原因になるだろう。
マーク・ザッカーバーグが賢い人物なら、そうなるのをじっと見ていることはしないはずだ。
原文はこちら(英語)。
(執筆:Jeff Bercovici/San Francisco bureau chief, Inc.、翻訳:高橋朋子/ガリレオ、写真:pixelfit/iStock)
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This article was translated and edited by NewsPicks in conjunction with IBM.