AI研究の世界的権威が指摘した「生き残っていく会社の特徴」

2018/1/4

AI研究で知られる教授の口癖とは

「AIは、新しい電気のようなものになる」
これは、スタンフォード大学のアンドリュー・ング教授の口癖である。ング教授はAI分野では有名な研究者だ。
ユーチューブの画像を学習して猫を見分けられるようになったAI開発をグーグルで牽引したり、その後は中国の百度でAI研究を率いたりした人物で、オンライン教育のコーセラの共同創業者としても知られる。
AIが新しい電気であるという背後には、いくつもの意味がある。
もちろん、今は珍しがられているAIは、そのうち当たり前のようなものになるということがひとつ。そして、当たり前のものになった時には、誰でもスイッチを入れて使えるようになるということ。
さらに、電気の発明によってあらゆる産業が激変したように、今後AIによってすべての産業が影響を受けて変化せざると得ないということだ。
というわけで、起業家をはじめとして、AI会社を作ろうと目指している人々はたくさんいる。起業家でなくても、従来の企業でも、自社をAI対応にしなければと焦っているところも多くあるだろう。
ング教授が昨年秋、そうした企業に対して「この点に注意が必要」というポイントを語った講演内容が面白かったので、共有したい。

インターネット時代とAI時代

現在、AIに対する注目とハイプ(過剰宣伝)は、ちょうどドットコム・バブル時代にも匹敵するもののようである。同教授は、インターネット時代とAI時代を比較して、これを説明した。
ドットコム・バブル時代の失敗は、ショッピングのしくみとウェブサイトさえ作ればインターネット会社になると勘違いした人々がたくさんいたことだ。
無数のショッピング・サイトが生まれ、そして消えていったわけだが、ング教授は、その理由はインターネットの特性を最大限に生かせなかった会社がほとんどだったからと語る。
例えば、「A/Bテストを重視したかどうか」が挙げられる。A/Bテストとは、最終的なサイトやショッピングのしくみを決定する前に、2種類の候補を実際にテストして、ユーザーの反応を計測するというものだ。
インターネットだからできるテストを活用して、効果を最大限にする方法を利用しない会社は勝ち残れなかった。
同様に、製品やサービスを次々と変えていくとか、ビジネス上の決定権をCEOからエンジニアやプロダクト・マネージャー・レベルに移譲するといったことも、生き残ったインターネット会社の特徴だった。
「アマゾンは、こうしたことすべてをやっている」と同教授は言った。
2017年9月のO'Reilly AI Conferenceで講演したング教授(撮影:瀧口範子)

アルゴリズムよりよりデータが重要

さて、それではAI時代に生き残る、本当のAI会社とはどんな会社なのか。
ング教授が断言したのは、「従来のインターネット会社やテクノロジー会社が、ちょっと機械学習のエンジニアのチームを加えただけではダメ」ということだ。
必要なのは、「戦略的にデータを獲得しながら、チェスゲームのように領土を増やしていくこと」なのだという。
この場合の「データ」とは、「アルゴリズム」に対比するかたちで使われた表現である。
AIでは、アルゴリズムが重要だと思われているが、実はAIがどんどん賢くなるためにはデータがカギとなる。そのデータは、ユーザー行動のデータであったり、それに文脈を与えるためのより一般的なデータであったりするだろう。
もちろん、どんなAI手法を用いるかによってデータ利用は異なるわけが、同教授はある程度のデータがあれば、そこから製品を作り、その製品によってユーザーを獲得し、さらにそこから新たなデータを獲得するという循環を生み出すことがAI会社の肝になると言う。
そして、その循環を常に次なる目標や市場に広げていくことが、AI会社としての地位を確立するアプローチとなるのだ。
つまり、データ自体が武器であるからして、そのデータを生み出し獲得する方法を下敷きにすることが不可欠になるということである。
それ以外にも、中央化されたデータ・ウェアハウスで会社全体のデータを使えるようにすること、自動化をあらゆる方向に進めていくことも重要である。

あらゆる面での適応力が試される時代

また、面白かったのは、AIの見え方ではなく機能性を理解した、新しいジョブ記述(業務の定義)ができるプロジェクト・マネージャーの存在も必要だということだ。
インターネット時代には、サイト上の見え方やデザインそのものが機能性に結びついたことも多いが、AIはひとつのインターフェイスのかたちに縛られない。
にも関わらず、たとえばすべてをボット化するように業務を定義するプロジェクト・マネージャーがいれば、エンジニアと有効なコミュニケーションができなくなるだろう。
データ獲得の重要性やAIの本質を理解するマネージャーが必要になるのだ。
こうした話を聞いていると、AI時代とは、ただのテクノロジーの話ではないと痛感する。ビジネスの手法や組織内の編成など、あらゆる面での適応力が試される。
インターネット時代に洗われたのはつい最近だと思っていたが、またもや新しい大きな波がやってきたのだ。
*本連載は毎週木曜日に掲載予定です。
(文:瀧口範子、写真:gremlin/iStock)