AIで自然災害を最小限に食い止めるには

2018/1/11

地球はどうなっていくのか

ここ数年、自然災害が世界各地で起こり、その被害が想像以上に大きくなっている。ニュースを見ていても、「エキストリーム・ウェザー・イベント(極端な気候事象)」という表現が頻繁に使われていて、地球は一体どうなってしまうのかと考えざるを得ない。
一方でテクノロジーに支えられた進歩が起こっているのに、反対側からはまるで世界が崩れ去っていくのではないかという感覚を覚えるのは、私だけではないだろう。こんな気候事象に対して、テクノロジーは無力なのだろうか。
まさにここに、AIを使おうとしているスタートアップがある。
気候や自然の動き自体を変えることはできなくとも、その影響をどうにかAIの力で最小限に食い止めることは可能なのではないかと、この問題に挑んでいる。ワン・コンサーンという、シリコンバレーの企業だ。

データで被害状況を予測

同社は、災害が起こった際に被害状況を予測して、有効な方法で救援活動が行われるようにするしくみを開発している。
例えば、地震。
都市の中でどの建物がどの程度老朽化しているかとか、どのくらい密集しているかといったデータ、そこにどんな人々が仕事をしていたり住んでいたりするのかといったデータ、そして実際の地震による災害のデータ。
そうした様々なデータを組み合わせて、都市内の特定の場所での被害がどのようなものなのかを予測するのである。
救助活動では、そうした詳細な予測に基づいて人員を配置したり、物資を供給する計画を立てたりすることができる。
これまでならば、緊急の連絡が入ったとか、把握できたところから救助、救援活動を行うといった、いわば場当たり的なアプローチだったものが、現実の被害状況に少しでも合わせた方法に変えることができるわけだ。

地元行政とも提携

ワン・コンサーンは、リアルタイムでの災害、災害シミュレーション、各都市の復興計画の政策立案のためという3通りにこのしくみを提供しようとしており、現在各地の地元行政などと提携して開発を進めている。
われわれも、SNSの利用やドローンでの撮影・モニターなど、自然災害に関してはテクノロジーが有用であるという兆しを感じてはいる。
だが、そこに立っている建物や、そこを日々行き来し、そこで生活している人々といったこまごまとした現実を予測可能なデータとして読み取るという視線はなかっただろう。
たいていの場合、地震を起こすプレートの存在というつかみどころのない大きな予想と、地震を生き延びることができれば、どこどこの小学校の体育館に避難しようという自分自身との計画とで頭がいっぱいなはずだ。
シリコンバレーがあるカリフォルニア州でも、地震への恐怖が消えない(撮影:瀧口範子)
ワン・コンサーンのアプローチは、都市構造や人口構成のモデルなどを利用して、ちょうどその中間のスケールで災害のインパクトそのものを予測、把握しようとする。
毎日の生活の中で、あの古いアパートには高齢者が多いとか、あそこに幼稚園があるからどういった状況になる可能性があるということを、データ化して共有可能なものにしてくれるわけだ。
実際、ワン・コンサーンのプラットフォームでは、夜間に地震が起こった場合は、小学校は心配しなくていいといったような計算もする。動いている都市をできるだけ動的に把握しようとするのだ。

2005年に大地震を経験して

同社の共同創業者は、若い頃に7万人の死亡者を出した2005年のパキスタンの地震を経験している。
スタンフォード大学で地震工学を学び、クラスメートと3人でAIを利用した地震の影響をモデル化し、2014年のカリフォルニア州ナパでの地震の影響を予測したところ、実態にかなり近いものになったのだという。その3人が共同創業者になった。
自然の力を食い止めることはできない。
だが、人間が作り上げた社会へのその影響は、AIが何とかして推測しようとする。ぼうぜんと立ち尽くすしかなかった災害に、少しでもテクノロジーが割って入ろうとしている。
*本連載は毎週木曜日に掲載予定です。
(文:瀧口範子、バナー写真:chombosan/iStock)