先進国一、勉強しない日本の会社員に明日はあるのか?

2017/11/27
ワーク“アズ”ライフの時代
「ワークライフバランスなんて、クソ食らえ! ですよ」
2017年11月6日の夕刻。経済産業省17階の特別会議室に、「現代の魔法使い」こと筑波大学学長補佐の落合陽一氏の声が鳴り響いた。
筑波大学学長補佐の落合陽一氏
リカレント教育(大人の学び直し)や柔軟な働き方を審議する「我が国産業における人材力強化に向けた研究会」での一コマだ。落合氏がゲストスピーカーということで、オブザーバー席は満席。
「今の時代、仕事と余暇を切り分けるなんてことは崩壊しています。これからはワーク“アズ”ライフの時代です」
落合氏がそう宣言すると、会場からはドッとどよめきが起こった。
自分の時間を切り売りし報酬に変える、ワーク“フォー”ライフからワーク“アズ”ライフへ──。
ワーク“アズ”ライフとは、落合氏の著書『超AI時代の生存戦略』によると、その定義は「差別化した人生価値を仕事と仕事以外の両方で生み出し続ける」ことだ。
それを実現するためには、「自分の中で価値創出のポートフォリオ・マネジメントが出来ること」が重要で、その価値を生み出すために、サイエンス、アート、エンジニアリング、デザインの教育の拡充が急務だ、と落合氏は力説した。
「5年前までは、修士論文レベルだった価値が、今では15歳ができるようになりました。8歳の年齢差がわずか5年でなくなる時代なのです」
自己投資の概念が希薄
第4次産業革命による急激な産業構造の変化が起き、本来、“経験豊富”であるはずの社会人も、勉強しなければ「次世代の子ども」にも劣る存在に落ちてしまう時代……。
ましてや、人が100年も“健康に”生きる時代が到来する時、「教育を受ける」「仕事をする」「引退する」という従来の3つの人生ステージを送るモデルは通用しなくなる。
だからこそ、今後は、大人になっても新たな技能や知識を習得するための教育や経験、人的ネットワークを蓄えることが重要だ──。
現在、政府では「リカレント教育(仕事と学びが循環すること)」の推進や、それを可能にする「柔軟な働き方」の実現に向けて、審議を重ねている。
だが、現状、「大人の学び直し」には課題が山積している。先の研究会の第2回に登壇した慶應義塾大学特任教授の高橋俊介氏は、「日本のホワイトカラーは、先進国で最低というほど、自己啓発していない」と断言する。
「そもそも、日本は、自己投資するという習慣や概念が希薄です」
慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科特任教授、高橋俊介氏
事実、日本のサラリーマンは、他の先進国とくらべて、大人が勉強していないことは、データにも現れている。
OECDのデータによると、25歳以上の社会人が、短期高等教育機関へ入学する割合は、OECD諸国中で最下位。30歳以上の「修士」課程への入学者の割合も、3.2%と低く、トップのイスラエルの53%とは大きな開きがある。
高橋氏は、「社会人が勉強しない」のは、「自分のキャリアは自分で創るという自律的なマインドセットがない」からだと分析するが、なるほど、「首都圏管理職の就業意識調査」(日本人材機構)において、キャリアに目標があると答えた人は4割程度しかいない。
キャリア目標もなく、仕事力を高める学びも不足しているせいだろうか。同調査によると、「同世代の中で『活躍している人』の割合」は、「3割以下」と答えた人が過半数を占めた。
このデータだけを見ると、まるで日本のサラリーマンは、先進国一勉強もしておらず、目標もなく、活躍していない人が大半のように見えてしまう。
もちろん、一口に「学び」と言っても、いわゆる大学院など教育機関での学習だけではない。仕事や読書、社外活動からの学びも大いにあるはずだ。それにしても、あまりに寂しいアンケート結果ではないか。
だが、この現状を、日本の会社員のやる気のなさのせいだと考えるのは早計だ。
というのも、新卒一括採用、年功序列、終身雇用という「日本型雇用システム」において、社会人は勉強しても、報酬や待遇という形でその見返りが期待しにくい。これでは、勉強することに対する意欲が低下するのは自明の理。
いや、それどころか、日本の会社の中にはいまだ、社外で活動する余裕があるなら働けといった圧力が働く場合もある。実際、社会人大学院の学生中には会社に内緒でこそこそと通っている人も多い。
また、日本の社会人向け教育機関や、リカレント教育を推進するためのインフラは他の先進国に比べて充実しているとはいえない。
そもそも、リカレント教育のリカレントとは「循環」という意味だ。だが、ここ日本では、仕事と学習が循環する仕組み自体が乏しいと言える。
つまり日本のサラリーマンは学びたくても学べない環境にいる、とも解釈できる。
もっとも、政府が悪い、会社が悪いと嘆いているばかりでは生産的とは言えない。
そこでNewsPicksでは、人生100年時代に必要な多様な働き方や、リカレント教育(仕事と教育が循環する原理)」のあり方などについての、「政策提言」や政府の「労働政策に対するご意見」を募集する。(※アンケートは締め切りました)
いただいた「政策提言」や「ご意見」を、2017年12月18日開催の、経済産業省主催の審議会「我が国産業における人材力強化に向けた研究会 必要な人材像とキャリア構築支援に向けた検討ワーキンググループ」の場で、NewsPicksが皆様に代わって発表する(皆様から頂いた政策がどのように審議されたかについては後日リポート記事を掲載予定です)。
そして、「大人の学び」やそれを下支えする「柔軟な働き方」の実現を考えるためにも、NewsPicksでは、「人生100年時代の大人の学び」と題する特集を掲載する。
具体的なラインナップは以下の通りだ。
第1回は、「働き方改革」の旗振り役である経済産業省大臣の世耕弘成大臣のインタビューだ。
働き方改革やリカレント教育普及の本丸は、新卒一括採用、年功序列、終身雇用に代表される「日本型雇用システム」からの脱却だが、これについての世耕大臣の考えは? 「同一労働同一賃金」の実現、副業の解禁は現在、どこまで議論が進んでいるのか? はたまたリカレント教育推進の目玉として政府が推進する「実践的専門職業大学」の実像とは? 世耕大臣の本音が炸裂する。
【世耕大臣】副業解禁、大人の学び。急務は年功序列の撲滅
特集第2回は、ここへきて、なぜ政府は大人の学びや副業解禁を推進し、企業は社員に「自律的キャリア支援」を説くのか? 政府と企業の本音と建前を豊富なインフォグラフィックで徹底解説する。
第3回は、リクルートキャリアの前社長で、現在、島根県で高校教育改革や都心部からの「Iターン」を推進する水谷智之氏に、大人の学びの極意について聞いた。水谷氏は、リクルートという「仕事が学びが一体化した組織」を作った中心的人物だ。そこで、どうすれば、仕事と勉強が相乗効果をもたらす満足度の高い人生を送れるのかについて、伝授してもらった。
第4回は、「おっさんが変われば、日本が変わる」のコピーで一躍有名になった森下仁丹の「第四新卒」(ミドル、シニアもポテンシャル重視で採用する)採用について、同社社長の駒村純一氏に話を聞いた。
ほかでもない駒村氏自身が52歳のとき三菱商事から、森下仁丹に移籍したキャリアの持ち主だ。なぜ、50歳を超えた段階で、駒村氏は新たな世界に挑戦したのか? そして「第四新卒」採用したミドル・シニアの人物像とは。
そして第5回には、トヨタ自動車から「3社同時転職」ともいえる驚きの転身を果たした人。三井住友銀行を飛び出し、地方の名門酒造会社社長の右腕として、古民家再生人として3足、4足のわらじを履く人、小売の会社に勤めながらベンチャー留学した人など「柔軟な働き方」で「大人の学び」を実現した人の豊富な事例を掲載。それと共に、こうした働き方を仲介する各社のサービスも紹介する。
三井住友銀行、ベンチャー経営などを経て、地方の酒造メーカーの”社長の右腕”や古民家再生などを手がける田部井智行氏(撮影:小林正)
第6回には、アップルの社長ティム・クックが「ぜひ、話がしたい」と懇願したという、83歳の現役女性アプリ開発者、若宮正子さんを直撃。オンライン上でプログラミングを学び、シニア向けゲームアプリを開発するに至った開発秘話。そして、何歳になっても学び続ける情熱を保つ秘訣について語ってもらった。
あのティム・クックが絶賛した83歳の女性アプリ開発者、若宮正子氏。パソコンを本格的に触り始めたのは東京三菱UFJ銀行を定年退職後だというから驚きだ。
第7回は、売り上げ26万部超のベストセラーとなった「定年後」著者の楠木新氏が登場。日本生命の人事マンと作家という仕事を両立させ、「定年後」ブレイクを果たした楠木氏に、副業の極意について聞いた。
特集のラストは、新進気鋭の人材開発学者である東京大学の中原淳氏による、「大人の学びの極意 決定版」をお届けする。勉強より仕事を優先せざるを得ない大人にとって、実現性の高い学び方の神髄に迫る。
(デザイン:九喜洋介)