10月下旬から開催された東京モーターショー2017。NewsPicks編集長佐々木紀彦がモデレートする6日間連続のトークライブ「THE MEET UP」の模様をリポートする。最終日は「クルマ×都市」をテーマに、トヨタ自動車株式会社コネクティッドカンパニーコネクティッド統括部部長  山本昭雄氏、WHILL, Inc. CEO 杉江理氏、株式会社 刀 代表取締役CEO 森岡毅氏が登壇した。
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トヨタのがんばりが日本を支えている

佐々木:最終日となります今日は、「クルマ×都市」ということで議論していきたいと思います。
山本:トヨタ自動車の山本と申します。IT関係の仕事にずっと従事しておりまして、アメリカで経営企画をやったあとに、このコネクテッド、ITS関係を担当しております。
杉江:WHILLの杉江と申します。「すべての人の移動を楽しくスマートにする」をミッションに、次世代モビリティの開発、インフラ事業をやっています。
森岡:株式会社 刀(かたな)の代表の森岡と申します。昨年まで大阪のテーマパークの経営をしていましたが、さらなるチャレンジということで、自分の会社を起こしたところです。
佐々木:森岡さんは、どういったクルマが好きですか?
森岡:クルマはなんでも好きですけど、私、人生でトヨタ車以外乗ったことないんです。これ、ほんとの話です(笑)。
山本:(笑顔で立ち上がって握手を求める)
森岡 毅(もりおか つよし)  株式会社 刀  代表取締役CEO
戦略家・マーケター。1972年生まれ。P&G、P&G世界本社、ウエラジャパン副代表を経て、2010年にUSJ入社。2012年、同社CMO、執行役員、マーケティング本部長。高等数学を用いた独自の戦略理論、革新的なアイデアを生み出すノウハウ、マーケティング理論等、一連の暗黙知であったマーケティングノウハウを形式知化した「森岡メソッド」を開発。経営危機にあったUSJに導入し、わずか数年で劇的に経営再建した。2017年、マーケティング精鋭集団「株式会社 刀」を設立。
森岡:先日、レクサスの新型LC500hを納車してもらいました。その前はレクサスSC430に11年間、アメリカにいるときもシエナとレクサスに乗っていました。トヨタで走ると、後ろに日の丸が見えるような気がして。トヨタのがんばりは、日本国の経済を下から上から、さらに横からも支えていると思っています。

「都市とは何か、移動とは何か」を再定義する

佐々木:今日はクルマ単体だけでなく、どう社会が変わっていくかを考えていきたいと思います。まず山本さん、今トヨタとして、どんな都市像を描いていらっしゃいますか? もちろん、クルマが中心だとは思いますが。
山本:それをお話しする前に「クルマがどう変わっていくか」に触れたいと思います。大きく3つのキーワードがあると思っています。
ひとつは情報化、自動運転、AIでクルマががらりと変わります。2つ目にコネクテッド。クルマがどんどんいろいろなものにつながっていきます。これで社会に大きな付加価値を加えることができると。3つ目は内燃機関の変化ですね。電動化、FCV、電気、こういうようなエネルギーの変化です。
この3つが変わることによって、クルマが大きく変わってきます。その中でも大きいのが自動運転とコネクテッドです。自動運転はもちろんですが、コネクテッドで大きく変わるのがビッグデータですね。
山本 昭雄(やまもと あきお) トヨタ自動車株式会社コネクティッドカンパニーコネクティッド統括部部長
1963年神奈川県生まれ。筑波大学理工学群(社会工学都市計画専攻)。トヨタ自動車に入社後、情報システム・業務プロセス改革関係に従事、米国トヨタ自動車販売副社長等を歴任後、経営企画、ITS企画で新規モビリティ事業企画を推進。2017年4月より、マルチメディア製品・サービス企画、MaaS、ビッグデータを手掛ける社内コネクティッドカンパニーの統括部長となる。
全てのクルマの中のデータが蓄えられ、共有される。それによって都市の課題解決に貢献することができます。
例えば「通れた道マップ」ですね。熊本の地震、土砂災害の時にどの道が通れるかを、実際にクルマが通ったデータをもとにリアルタイムで可視化しました。これによって防災計画が立てられるし、物資を運ぶルートも全部わかる。
これは一例ですけど、移動の手段以上の意味で社会に役立つものをつくり、都市の課題解決に貢献していく。それが我々のミッションであり、「START YOUR IMPOSSIBLE」という新しいキャッチコピーに集約されています。
佐々木:壮大な話が出てきましたね。森岡さんはどうですか。
森岡:そんな予測もあるので僕はトヨタにはがんばってもらいたい。これからは消費者の根源的欲求から次のパーソナルモビリティをどう定義するのかにかかっていると思う。都市と移動の再定義です。
「クルマとは何か」と。その価値は「疲れない馬」からどんどん変わっていった。「自己実現・夢」と言った人もいたでしょう、バブルの時代なんかそうだったと思います。今はもしかして「フリーダム」かもしれない。
この次の価値がわからないと、クルマが便利なだけの多機能な家電製品みたいになってしまうのではという懸念があります。クルマ自体の文化的な進歩がそこで止まってしまうのではという恐れを持っているんです。
コネクテッドはすばらしいんだけど、コネクテッドした先の価値を明確に意識しながらがんばることによって、次の100年もトヨタはすばらしい会社であり続けるんじゃないでしょうか。
佐々木:今の森岡さんの問いかけに対して、山本さんに今後のクルマの価値は何かという仮設はありますか?
山本:はい。クルマは今まで移動手段でしかなかった。移動手段の中でこういう機能があるというだけではなく、これからは簡単にいえばクルマがiPhoneみたいになる。
移動するという基本的な価値を担保して、走る喜び自体は追求しますが、そこにデータや自動運転を入れて、サービスを入れる。走る喜びにサービスを超えたことを加えて付加価値をつけていく。ひとつのデバイスという感覚を持っていかないと、だめだと思いますね。
森岡:今のお話も非常にわかるんですけども、助手席にスマホ持っている人がいて、運転のうまい人がハンドル握るという今の世界からどう変わるのか。そこがもっと明確になったほうがいいと思うんです。
もうちょっとジャンプが欲しいなという気がしていて。そこがあれば、競合に追随されないコネクテッドの価値が出るのかなと。

超高齢化社会とパーソナルモビリティ 

佐々木:山本さんや杉江さんが思いつく、都市生活における新しい価値は何ですか?
山本:都市って、けっこう地盤沈下している1980年代にたくさん作られたニュータウンとか。
例えば多摩ニュータウンは駅から1〜2キロ離れていて高低差もかなりある。ここで、シニアの方たちがほんとに苦労してシルバーカーを引いて坂を上がっていらっしゃいます。そういう場所が、全国にたくさんあるわけですね。
そこに杉江さんのWHILLが登場すると、移動がグッと楽になる。実は来週からニュータウンに杉江さんのWHILLを持っていって、カーシェアリングサービスの実験をはじめるんです。
目の前にある移動ストレスの強い都市をどうにかする。この課題に対して、杉江さんのWHILLはものすごいポテンシャルがあるので、かなり期待しています。
杉江 理(すぎえ さとし) WHILL, Inc. 最高経営責任者(CEO)
1982年生まれ静岡県浜松市出身。日産自動車開発本部を経て、一年間中国南京にて日本語教師に従事。その後2年間世界各地に滞在し新規プロダクト開発に携わる。元世界経済フォーラム(ダボス会議)GSC30歳以下日本代表。
杉江:本当にそう思います(笑)。都市近郊と郊外、いずれも過疎化が進んで移動の問題があります。移動の距離で考えると、郊外は中長距離、都市は近距離なんです。そうなると、都市ではWHILLみたいなもののほうが役立ちます。郊外になると、クルマのほうがよかったりするんですけど。
現実に移動に強いニーズを持っているのは、高齢の方だと思うんですよね。高齢化社会の最先端をいける分野でもあると思います。
森岡:非常に大事な視点だと思います。日本は超高齢化社会のモデルケースになると思うので、新しい問題解決の提案としてすばらしい。日本人らしい消費者ニーズを捉えた細やかな発想と洗練さで、他の国がまねできないようなところまでいってもらいたいなと思いますね。

テーマパークでは移動距離と消費額が相関する

佐々木:パーソナルモビリティには、他にどんな可能性がありますか?
森岡:私がこの前まで某テーマパークの経営をしていて得た知見ですが、人の移動スピードが適切に上がれば1日の人間の活動量と経済効果って、むちゃくちゃ上がるんですよ。
簡単にいうと、1日テーマパークで過ごす10時間の中でどれだけ人間が移動するかという移動距離と消費額とは、完全に相関するんです。移動距離が10%延びたら消費が10%伸びます。
ですから、観光地で細かいところまで自由にいける、疲れないというモビリティが出てきた時にものすごい経済効果になる。
しかも、これは日本だけじゃない。「ラスト1マイル問題」といって、どこの観光地も最後の1〜2キロをどうやって埋めるのかに困っています。この距離についても、これまでと違う楽しみ方ができますよね。
移動している間も街の空気を肌で感じて、移動そのものが観光になるし、スピードもコントロールできる。タクシー業界からしたら脅威だと思いますが、消費者の相互的な経済効果でいうとひとつのブレークスルーだと思いますね。
こういうことを積み重ねていくと、どんどん日本の観光戦略にもプラスになる。早くこのモデルを日本でクオリファイして海外に輸出し、国富を稼いでもらいたいですね。

コネクテッドカーが集めるデータに「よだれが出る」

佐々木:今後、コネクテッドの中でデータをどんどん取れるようになり、ビッグデータ化することで、都市やクルマは変わってくるんでしょうか?
森岡:すばらしいデータが取れると思います。よだれが出ますね(笑)。データというのはそれ自体はデータにすぎなくて、意思を持って初めてデータは情報に変わる可能性が出てくるんです。
佐々木:山本さん、データはどういうふうに使えるんですか。渋滞予測とか基本的なことにはもちろんでしょうが。
山本:用途は無限大ですね。私もよだれが出ます(笑)。ただ森岡さんがおっしゃったようにデータそのものだけじゃなくて、それをソリューションにつなげなきゃいけない。クルマのデータだけでなく、携帯のデータ、電車のデータ、ヤフーやグーグルの検索のデータ…。こういうようなものを、いかにくっつけていけるかが大事ですね。
我々のコネクテッドの戦略では2020年までに日米の全部の車に通信機をつけようとしています。そうして集めたデータを生かしてサービスを出したい。今、まさに一歩踏み出したところです。それをいかに価値に変えるか、森岡さんにぜひご教示いただきたい。
来年夏にクラウンがフルモデルチェンジするんですが、全車DCM(車載通信モジュール)標準装備です。今度のクラウンのコンセプトが、「コネクテッドクラウン」なんですよ。
コネクテッドをクラウンから始めるということで。森岡さん、杉江さん、2台目でけっこうですので、ぜひクラウンを買ってください(笑)。
佐々木:(笑)。どうしてクラウンからなんですか?
山本:やっぱりトヨタのフラッグシップですから。もっと言うとクラウンのテコ入れの意味もあります。

日本も市場のひとつに過ぎない

佐々木:では最後に、どんな切り口でもいいので、クルマを都市とつなげて生かすために、どうしていけばいいのかを、それぞれご意見いただければと思います。
山本:「すべての人に移動の自由を!」です。移動の自由を社会に行き渡らせて、誰もがチャレンジできる世の中にしようということ。先ほど森岡さんがおっしゃられたように、移動することによって、そこに経済が生まれるという意味も込めました。
もうひとつ、「東京モーターショー」から「JAPAN東京モーターショー」に名前を変えられないかというのも思っています。東京でやっているので名前に「東京」がつくのは仕方ないんですが、我々クルマ業界がこの先を超えていくには、「都市のクルマ」だけではだめなんです。
都心も地方も一体になって、我々が日本をどう変えるか。それも含めて、JAPANというのを次回からつけたいと提案したいですね。
佐々木:ありがとうございます。杉江さん、どうぞ。
杉江: 日本に×をつけたんですが、この意味は、これからものを売る時代ではなくサービスの時代に突入していく。その時にできるところでやる、普及しやすい場所でやると、いろんな戦略があるわけです。
大事なのは、日本もひとつの市場にすぎないということ。日本から始めなくてはいけない決まりもない。やれる場所を発見して、そこでまず勝って、そのあと世界で勝っていく。
それをやった企業がたまたま日本の会社だったという順番のほうが僕はいいんじゃないかな、と。もちろん、僕は日本が大好きですし、ポテンシャルがあると思っていることは付け加えておきます(笑)。

クルマに潜む「無意識」をつかむ

佐々木:森岡さん、最後締めにお願いします。
森岡:今日の私のテーマは一貫して「マーケティングの力で、価値の再定義を」です。これからは、作ったものをどう売るかという順番で考えていると負けてしまう。
EVの時代からは、技術よりもアイデアの勝負。消費者の価値を大きく強くつかむ勝負です。そのために日本の会社にがんばってもらいたいなと思うんですが、消費者価値をつかむことで、ものづくりのベクトルに意志を働かせることができるようになる。意志の力で日本の技術に指向性を持たせて、それが当たれば間違いなく勝てると思います。
佐々木:どうすれば、正しく価値を再定義できるのでしょうか。
森岡:消費者理解ですね。消費者って、我々が質問しても本当のところを教えてくれないんですよ。でも、それは当たり前で、消費者自身がわからないから。消費者は自分の行動を自分の意思で決定していると思っていますが、実はそうでもなかったりする。
例でいうと、テーマパークに行く頻度と確率は、男性ホルモンで決まってきます。男性ホルモンは、異性と出会い子孫を残したいという意思を持つホルモン。異性との遭遇確率を高めるために、人間は無意識に外に出るんですよ。
消費者に「なぜテーマパークに行ったの?」と聞くと、「むしゃくしゃして」とか「すっきりしたくて」とか答えるんですが、実はホルモンに支配された行動なんです。そういうのが、いっぱいある。
ほかにもいろいろ研究したんです。毛髪量、血圧、生理現象などと実際の行動のパターンの解析とか。その分析からも、人間がある特定の行動をするには、何か理由がある。それを理解した上で、我々にとって好ましい行動をとる確率を高める戦略を選ぶことができると思うんです。
クルマに乗ることも、根源的、本能的な行動だと思います。まずそれを理解して、そこから派生する技術との接点を見極めること。さらに、その周辺にある新しい価値が何か、そこからさらに相対的に大きな価値が何かを絞り込んでいきます。
こうすることで、かなり成功確率が高い方向性が見えてくるはず。そこをやらずに何かしようとしても、夢のリストが並ぶばかりで結局なんの話かわからなくなっちゃう。ノウハウはいろいろありますが、結局は、競合よりも消費者をより深く理解できるかどうかで勝ち負けが決まる時代が来ていると思います。

佐々木:今日はみなさん、ありがとうございました。
(取材:今井雄紀 撮影:飯本貴子 編集:久川桃子、工藤千秋)