【落合×石川】クルマはもはや道具ではない、デザインだ

2017/11/25
10月下旬から開催された東京モーターショー2017。NewsPicks編集長佐々木紀彦がモデレートする6日間連続のトークライブ「THE MEET UP」の模様をリポートする。3日目は「サイエンス」をテーマに、メディアアーティストの落合陽一氏と予防医学者の石川善樹氏が登場した。
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健康になるクルマを作ろう

佐々木 3日目の本日のテーマは「サイエンス」。このテーマで議論していきたいと思います。
今日のゲストの1人目は、現代の魔法使い・メディアアーティストの落合陽一さん、2人目は新時代の予防医学者の石川善樹さんです。
落合 僕のキャリアは3つあります。メディアアーティスト、大学教員、自分の会社の経営です。アートは個人的な活動で、作品を作るのは学生の時からやっていて、今でも個展を開いています。
研究者と経営では近いことをやっていると思っていて、例えば特殊なレーザーで空中に絵を描くとか、音波の波面制御をするとかをやっています。まあ、何をやってるかというと「波とポテンシャル場のオプティマイゼーション」をずっとやってるんですね。
落合 陽一(おちあい よういち)筑波大学学長補佐・図書館情報メディア系助教・メディアアーティスト
1987年生まれ。東京大学大学院博士(学際情報学)。 専門はCG,HCI,VR,視聴触覚提示法,デジタルファブリケーション,自動運転や身体制御。 ピクシーダストテクノロジーCEO。2015年米国WTNよりWorld Technology Award 2015,2016年Ars ElectronicaよりPrix Ars Electronica, EU(ヨーロッパ連合)よりSTARTS Prize、国内外で受賞多数。
オプティマイゼーション=最適化処理。最適化処理はめっちゃ得意です。
普通、研究者って縦串で、AIだけ、ディスプレーだけをやるものなんですが、うちは横串のラボ(研究室)なので、最適計算をやっている人もディスプレーをやっている人も、カメラをやってる人もいます。そこを横串で刺すと何か新しいことが出てくる…そんなことを目指しています。
佐々木 自動車は好きですか?
落合 自動車、好きです。乗ります。というか乗せてもらいますね。
佐々木 次に石川さん、自己紹介をお願いします。
石川 人がよりよく生きるにはどうしたらいいのだろうということを考えて、研究しています。(落合)陽一君とは似てる部分があって、会社もやってるし大学で先生もやっているし、趣味として論文を書くっていうのもやってます。
石川 善樹(いしかわ よしき) 予防医学研究者
1981年、広島県生まれ。東京大学医学部健康科学科卒業、ハーバード大学公衆衛生大学院修了後、自治医科大学で博士(医学)取得。「人がよりよく生きるとは何か」をテーマとして、企業や大学と学際的研究を行う。 専門分野は、予防医学、行動科学、計算創造学など。
佐々木 石川さんもいろいろ横串でやってますもんね。
石川 そうですね。予防医学っていうのはとにかくエリアが広いんで、横串でやらざるをえないところはありますよね。
佐々木 石川さんは自動車についてどう思っていらっしゃいますか?
石川 モビリティの未来とかは考えますね。クルマって基本的に座りっぱなしじゃないですか。「座る」ってすごく健康に悪いので、どうにか改善できないかな、とかそういうのは考えますね。
佐々木 今の状態でいうとクルマは明らかに体に悪いんですよね。
石川 座りっぱなしですからね。まことしやかに言われてるのが、たばこ業界が健康を害していると訴えられて負けたように、自動車業界も健康被害で訴えられたら負ける可能性があるんだと。リーガルリスクがある。
だから予防医学の人は自動車業界に、あらかじめ「乗ってるけれど健康になる」クルマを作りませんか?と提案しているんですね。
佐々木 地方の方はクルマに乗ってばかりで歩かないから、東京の人より健康に悪いっていいますよね。
石川 アメリカは(国土が広くて)運転時間が長いから、ドライブ中に間食するんですよ。なので、食というソリューションも含めて運転についてハーバードでは研究してますね。

フォードは20世紀のジョブズだ

佐々木 「20世紀」の象徴として、T型フォードがあると思うのですが。
落合 圧倒的な象徴ですよね。フォードとスティーブ・ジョブズは、けっこう近いです。両方とも、大量生産品の鬼なんです。ただそこにプレゼンテーション能力が強くあって「大量生産品じゃない」と言い放ったのがスティーブ・ジョブズかなと。
石川 確かに、1つのものをありとあらゆる人に売りつけるという意味では似ていますね。
佐々木 石川さんにとってフォードはどんな存在ですか。
石川 すごい人ですね。アメリカのお金持ちは儲けると、財団を作って、新しい学問を立ち上げるんですね。たとえば私がやっている予防医学というのは石油王ロックフェラーが立ち上げた学問です。同じくロックフェラーが立ち上げたもうひとつ有名な学問が人工知能です。
佐々木 ロックフェラーが立ち上げたんですか!
石川 ロックフェラーが最初に資金提供しているんです。
そして、フォード財団が立ち上げた学問が、マーケティングなんです。それに絡んで、フォードがどうやってクルマをアメリカ全土に売っていったかという話が、面白くて。
フォードのPR担当者が広告会社を呼んで「T型フォード売りたいから、案を持ってきてほしい」と依頼して、代理店が持ってきたのが「売る前にやるべきことがあります。それは道をつくることです」ということだったそうです。
それまでのアメリカは馬車が走っていたのですが、ニューヨークの鉄橋は馬車が通るのは耐えられるものの、クルマに耐えられる設計にはなっていなかったんですね。
つまり、フォードは実は、全国に道を造った人でもあるわけです。
佐々木 私財でですか?
石川 私財ではなく、行政と協力しながらです。日本も田中角栄が列島改造をしてくれなかったらこんなに道路はないですからね。
ある意味、問題と解決策を一緒に作ったんです。道を造ってしまえばそこを通りたくなりますからね、天才ですよね。

自動運転が哲学するもの

落合 「ヘンリー・フォード、トーマス・エジソン、ノーバート・ウィーナー、マーク・ワイザー」。僕はこの4人の人たちが好きなんでそこから話をしていきたいと思います。
ヘンリー・フォード、トーマス・エジソン、ノーバート・ウィーナー、マーク・ワイザーの4人のキーマン
佐々木 これからのクルマを考える上でも知っておくべきキーマンの4人ですよね。
落合 まずはエジソンですね。エジソンはやってることが全部チャーミングなんですよ、最適解に向かってるから。ただ、最適解にいくと、マーケティングの壁を超えられないんですよね。
例えば、エジソンは、あるべき電流は直流だといって、直流をやりだすんです。エジソン・ラボの中は直流の電気が流れてるから直流が便利に決まってるじゃないですか。だから、我々みたいに高度に発達した社会になると(一般的な電気機器で)使ってるのは直流なんですよ。
一方、いきなり直流で社会を回そうと思っても、交流じゃないと電圧は減衰するし、電圧変換はどうするの?みたいな不都合も多いんですよ(だから、現代社会では交流で発送電され、電気機器は交流から変換された直流電流を電源としている)。それなのにエジソンはエジソン・ラボの中は直流だから直流で勝負してくる。面白いと思いますね。
でも、ヘンリー・フォードは「じゃあ道造るか」「自動車作るか」とくる。そこ、わかってんなって思いますね。
思想として考えると、あの2人は世界にまだないものをどう広めるかということをやっていった人です。電気がない世界にどう電気を広めるか。クルマのない世界にどうクルマを作るか。
逆にそういうものが十分に広まった状態でどうなるか、ということを考えたのがマーク・ワイザーだと思っています。「ユビキタスコンピューティング」、コンピューターが至るところにたくさんあった時、人間は本当にコンピューターを認識するの?と。
「カームテクノロジーになるんじゃないの?」「存在を認識しないんじゃないの?」と考えた。確かにインターネットが発達した世界では、インターネットはギークな存在ではなくなって、エンドユーザーも使うようになりました。
ノーバート・ウィーナーはサイバネティクスの人ですが、人間と機械は実は似ていて、どっちも通信と制御の理論で考えることができるよねと。そうするとインターネットのような、あるネットワークに接続された個人がどういう振る舞いをするのかはすごく考えられていて、工場で働く人間の労働者というのは、目というセンサーから入ってきたものをロボットアームにかわって手で並べているのだから、これは制御で解けると。
ただ、全然人間的利用がされていないと言うんですね。そして、こう考えるわけです「考えながら動く機械は作れるはずだ」と。
現代のように機械が広がった時に、ノーバート・ウィーナーが考えたようなことを人間がやる必要がなくなったわけなんですよ。
そのあたりをちゃんと考えないと、電気やコンピューター、ロボティクスが発達した世界をちゃんと俯瞰できないと思います。つまり人間をその認識タスクと操作タスクから解放するのが自動運転だし、それを実現するのに十分な資源がある時、人間はどうするのかということを、過去の事例から振り返ってみると面白いなと思ってます。
佐々木 こういう変化のタイミングでは、そういう哲学的な深いところからまず考えていかないといけないということですね。
落合 思想がアップデートされますからね。
佐々木 石川さんはどう思います。
石川 落合君は多分、次の主義を作る人だと思うんですね、思想家ですね。資本主義がやってきて、それを肯定したのがアダム・スミスの国富論ですよね。アダム・スミスが面白いところは「人間の本質って、社会って何なのだろう」とかをよく考えて、資本主義の捉え方を示したところです。
今でこそ資本主義が当たり前すぎて「そうだよね」って思うんですが、当時は事件だったわけですよ。「何ですか、それ?」って。
今ポスト資本主義の新しい主義がきていて、落合君はその思想の礎を与えるというか、そういう人なんだと思いますね。

テスラはクルマを駆逐できるか

佐々木 ではこの4人も踏まえた上で、今、自動車業界で一番重要な人はテスラをつくったイーロン・マスクだと思うのですが、彼は50年後、100年後から振り返った時に、自動車の歴史に残るような人になるんですかね?
落合 スティーブ・ジョブズのレベルまでいくかはわかりませんね。テスラが確実にすごいのは、今自動運転がどうこう言われている時代に、すでにデータ収集用のクルマを大量に走らせていることです。
集めたデータ量からいったら、もう他社が追いつけないくらいに集めてるんですよ。それはテスラの株価が上がっている理由にもなっていて、それは面白い。ただ、そのワークフローが、すべてのクルマを駆逐するほどにイノベーションを起こすのかといわれると、僕はまだイメージできないですね。
佐々木 今日までのセッションでも、自動運転は必ずトピックになっていますね。そんななか、落合さんが好きなクルマのひとつとして挙げてくれたのが、AudiのA8ですね。
なんでこのクルマが好きなんですか?
落合 なんかね、テスラよりも自動車っぽいから。
佐々木 テスラは自動車っぽくない?(笑)
落合 だってテスラは電化製品っぽいじゃないですか。
石川 車輪がついたスマホって感じですよね
落合 そうそうそうそう。タブレットでできたクルマみたいで。A8はわりと、レトロフィットしてるんですよ。
レトロフィットって大切で、いきなりドライバーが(車としての)スマホを受け入れるかっていうと、あんだけ技能訓練されてたら無理だと思う。
アップルのユーザーインターフェースも最初はクラシカルな感じでした。一方、そこを破壊するデザインは、ダイソンが出してくることを期待してもいます。

人類に時間をもたらす自動運転

佐々木 自動運転が普及することによって社会の仕組みはどう変わると思いますか?
落合 移動コストが下がりますよね。僕、都内はタクシーでしか移動しないんですが、それだとだいたいタクシー代が月に20万円くらいかかるんですね。タクシーを使うことで時間を捻出していて、車中ではずっと仕事するか寝てます。
そう考えると、1日2時間半くらいは人より長いし、単純計算で月に3日分くらい人より長い。労働時間に換算すると5日くらい人より長いことになる。それで1日4万円くらいの仕事ができるならペイするじゃないですか。自動運転が普及して移動コストが下がると、全員がこういう暮らしをするんじゃないかなと思いますね。
佐々木 実質的に寿命が延びるわけですね。
落合 グーグルに勤めてる人は高給取りで(年収)1500万円とか普通にもらってますよね。そんな彼らにストレスを与えてるのが、サンフランシスコの高速道路の出口の混雑なんですよ。
朝、それだけで40分くらい待つことがあるんですが、さっき言ったA8なら、ピッて押しておけばずっと走ってくれるんですよ(AudiのA8はレベル3の自動運転を実現、渋滞時に自動運転に身を委ねることが可能)。
その40分があったらメールを返せますよね。その40分が20日あったら…彼らの1年分の給料を考えると、1年で償却できそうじゃないですか。そういう換算でクルマを買うようになると思うんですよね。僕は明らかにその換算でタクシーを使っているから。
佐々木 楽しみのためじゃなくて生産性向上みたいなことのために買うってことですね。
石川 ストレスの研究でも、すごく面白いトピックがあるんです。人間ってよくできてて、ほとんどのストレスに適応するんです。ネガティブなものにも、ポジティブなものにも。
それでも3つだけ、全然適応できてないストレスがあるんです。
1つ目が病気、2つ目が子どもの突然の死。そして3つ目が通勤のストレスなんです。人類はまだ通勤のストレスに適応できてないんですよね(笑)。これだけ適応上手の人間が。
落合 それはだいぶクルマを買うインセンティブになりますね。

「良い暮らし」の再定義をしよう

石川 自動運転が我々の生活にどういう影響を与えるのかを考えるときには、そもそも「良い暮らしって何?」というのを考えたほうがいいと思っているんです。
戦後の暮らしを振り返ると、いろいろなことが自動化されていくことで僕らは便利に豊かになってきたと考えられていますよね。
それで、東芝が電気洗濯機を発売した当時、どういう広告でそれを売っていたのかを最近調べたんですが、40分の時間を節約して、主婦に何をしてもらいたいと言っていたか。それは、読書なんですよ。洗濯から解放され、主婦の読書時間ができますよとうたってたんですよ。
そこで生み出された時間で何をしたいか、そもそも自分はどういう暮らしがしたいのか。もはや「良い暮らし」のシンボルが無い時代ですよね。それを不在にしていろんなものを自動化して便利にしても、多分その時間はスマホに使って終わりですよね。NewsPicks見て、終わりですよ(笑)。
佐々木 NewsPicksならいいと思います(笑)。
石川 さて、どうでしょうか?(笑) いずれにせよ、そもそも、何が自分にとって良い暮らしなのかを考えずに自動運転だけ考えても何にもならない気がします。

現代人は能動疲れ

佐々木 最後に、お二人に「日本(クルマ)再興戦略」ということで、モビリティとか新しい技術だとかをどう生かせば日本全体がいい方向に進むか、ということをキーワードで書いていただきたいと思います。では石川さんから。
石川 今回のテーマが「BEYOND THE MOTOR」なので、まず、モーターとは何かという話を。モーターって「人生に動きを与えてくれるもの」という意味なんですね。それを超えるってどういう意味かを考えたいと思います。動く時には「受動」と「能動」ってあると思うんですよ。
人類の歴史を考えると受動の時代が長かったと思うんですね。生まれた瞬間から生き方が決められていた。そこに登場した初期のクルマは、人々にどこにでもいけるという能動性を与えてくれたと思うんです。
20世紀以降特に、受動の世界から能動の世界へと変わったと思うんですが、今は能動疲れが起きてるんじゃないかと思うんですね。自由すぎて逆に面倒臭い、と。
クルマは多分、能動の象徴だったと思うんです。それを超えていくって、受動と能動の間、どちらでもない揺らぎがあることだと思うんです。
だから「BEYOND THE MOTOR」でいうと、受動でも能動でもない、不確かなところにいかに揺らぎを与えてくれるのか、というのがテーマになるのかなと思います。
落合 工業製品も受動でいられるためのものだからね。能動する必要がない、つまり自分で動かなくてもいい人類を育てるというのが、近代以降の考え方だと思います。
佐々木 そういう意味では普通に走っている時は自分で運転して、高速に入ったら自動運転で「受動」になるとか。
落合 自動運転は受動ではないんですよ。自分で運転する必要がないから能動になっちゃうんですよ。あれはけっこう苦痛ですよ。
「やべえ、これまで時間が潰せてたのに時間潰せなくなっちゃった!」ってなる。だからこれはね、そこがポイントなんですよ。
佐々木 それが揺らぎでもあるということなんですかね。迷いというか。
落合 運転はね、受動的なんですよ、すごく。やるべきことが与えられるからね。
佐々木 そっか、選んで行っているわけじゃないから。
石川 それこそ哲学者の國分(功一郎)先生に言わせると、受動と能動の間に中動態があるという話をされていて、「どちらでもないもの」ってある気がするんですよね。その象徴にクルマがなっていったら、それはなんて面白いんだろう!って思います。

クルマの定義は人それぞれになる

落合 おれ最近言ってるんですけど、「Transportation as Nature」ということを考えると「End to End transportation(E2ET)」、つまり目的地と目的地の間をトランスポーテーションするということが普通になる。そうすると「運転」をあんまり意識しなくなります。
つまり目的地と目的地があって(移動のための)Howは関係なくなって、エクセルのマスを2つ埋めるような世界観になっていく。それってナチュラルに受け入れられるから、その間の生活は多種多様で、それを規定すること自体がナンセンスになると思うんですよ。多分。
クルマに乗っている時間をどうやって「End to End」にできるかというのはすごく課題だと思います。
この、間を抹消するような過程を今のクルマメーカーは受け入れることはできない。だけどエンドユーザーが望んでるのは、そこの間をどうやったらソフトウェアにできるか、こっちが規定した生き方をさせないかということがひとつ、「BEYOND THE MOTOR」のキーワードなんだけど、何かをしてほしいとか、やたらおせっかいなんですよね(笑)。
今クルマに乗るって特殊な行動だと思うんですよね。そういう考え方をどうやったらトランスポーテーションできるか、クルマに乗るっていう行動が無意識に行われるようになるというか、なんかね、そんな感じがします。
僕、タクシーに乗ってる時、クルマに乗っているって思ってないんですよ、仕事しよ、寝よって思ってるんですよ。
佐々木 そうなるとこれまでクルマを運転しなかった人もこれから乗るじゃないですか、だからクルマの普及率って断然上がりますよね。より自然になっていって生活に溶け込むわけですよね。そこで何をするかっていうと、クルマメーカーはプラットフォーマーになればいいんですか? 変なことをせずに。
落合 うん。テスラみたいなことを考えてもいいし、人によっては住空間に特化してもいいし、おせっかいなことはしなくていいと思うんですよね。
佐々木 今の自動車業界は、プラットフォーマーなんですかね。
落合 プラットフォーマーにはなってはいないですよ。クルマは道具で、ブランドで選んでいる。道具じゃなくなったら勝ちなんですけれど。

東洋的クルマが日本を救う?!

佐々木 例えばトヨタって全部自分たちでやるのが強みだったわけじゃないですか。そういうところが、1つのレイヤーだけのプラットフォーマーになって、オープン化していろんなところを取り込んでいくのって一番苦手なんじゃないですか?
落合 どっちかですよね。ブランド化して、トヨタに乗る人の生き方を規定してあげれば道具じゃなくなれますよね。
例えば、スタバでMacを広げて耳にAirPodsつけて、手にApple Watchつけていて、ポケットにiPhoneを入れてる…っていうのは生き方じゃないですか。そこまでデザインされている。だからよくトヨタフォンを作れって言ってるんですけれど。
石川 その話を聞いていて、横串界の王者というか、垂直統合で横串がめちゃくちゃうまいのがルイ・ヴィトンだと思うんですね。「ラグジュアリー」という1つのテーマで、何でもありじゃないですか。
そう考えると、落合君が言っているのは、ネイチャーっていう軸で、横串を刺してしまえば超強くねえか?ってことだと思うんですよね。打倒LVMHですよ。
落合 LVMHが強い理由はフランス的だからですよ。フランス人が言っていることってかっこよく聞こえるんですよ。
でも、おれたちは東洋がかっこいいと思わなくなっている時点でダメだと思う。東洋がかっこいいと思えるようになればトヨタは勝てる。
佐々木 マインドフルネスも、元々日本にあった考え方ですよね、横文字にしただけで。
落合 そうそう。西洋人は西洋人をかっこよくみせようと必死だから。
そんなことしなくていいんですよ。この前ある記事で、日本人はスマホを使ってるから、休暇でもオンとオフの区別がつかなくて非常にやばい、みたいなことが書いてあったんですけれど、「オンとオフの区別をつける」というのは極めて西洋的な考え方で、日本人は昔から300日くらい余裕で働いてますから。生活の一部なんですよ、それは。
別にそれをストレスと感じないようなマインドセットを作れたのに、それを中途半端に西洋化するから過労で人が死ぬんですよ。だから変な外来語もやめたほうがいいし、東洋的なかっこよさを作った方がいいと思うんだよね。
(取材:今井雄紀 撮影:飯本貴子 編集:久川桃子、田井明子)