「マーケティングの父」コトラーの華麗なる思考ライフ

2017/6/24
「マーケティング4.0」の時代へ
受話器の向こうにいる学長の言葉が、私の背中を押し、「マーケティングに人生を賭ける」決心をしました。
以来、この時の決断を後悔したことは一度もありません。
私自身の成長と共に、マーケティングという学問も大きな発展を遂げてきました。
「マーケティング1.0」から「マーケティング2.0」「マーケティング3.0」、そして「マーケティング4.0」へと大きく変化してきました。
初めての著書『マーケティング・マネジメント』は、初版の刊行から30年近くが経過した1996年に、『フィナンシャル・タイムズ』が「史上最高のビジネス書」の1冊に選定するなど、時代を超えて読み継がれるロングセラーとなりました。
現在、第15版まで版を重ねて世界中で読まれていることは、私にとって大変な栄誉です──。
次のテーマは「創造的引退」
今年、私は86歳という年齢を迎えました。
だからといって消極的にはなっておらず、まだまだやりたいこと、挑戦してみたい仕事のプランは尽きません。
次に書こうと決めている本のテーマは「クリエイティブ・リタイアメント(創造的引退)」です──。
目指すゴール
私が人生において大事にしてきた原則があります。
それは、より多くの繁栄と健康を、すべての人にもたらすのを助けたいという志です。
お金がある人だけではなく、すべての人に経済成長の恩恵が行き渡っていく世の中に近づけること。
それが、私の目指すゴールです──。
ドラッカーからの電話
私のオフィスに突然、「フィリップ・コトラーさんですか? 私はピーター・ドラッカーです」と電話がかかってきました。
まさかあのドラッカーから直接電話が来るとは。
「『非営利組織のマーケティング』を読みました。あなたに直接会って話をしてみたい。カリフォルニア州のクレアモントにある私の家まで足を運んでくれないだろうか?」
ドラッカーは熱心な東洋美術の収集家としても有名です。プライベートギャラリーには、日本の屏風や掛け軸といった素晴らしいコレクションが展示されていました。
親日家である彼は何度も日本の企業の相談に乗り、何度も助けてきましたが、お金を要求したことはないそうです。
その代わりに──。
フリードマンの影響
幸運にも、シカゴ大学では自由市場経済の中心的人物であり、ノーベル経済学賞受賞者でもあるミルトン・フリードマンの下で勉強する機会を得ることができました。
自由による競争を重視するというフリードマンの思想から、私は大いに影響を受けました。
常に競争を激しくしようとする彼の志向は、言い換えれば「選択肢を増やす」ということでした。
実践を伴うパワフルな思想家、フリードマンから直接受けた言葉で、特に印象に残っているのは「責任ある自由」についての言及です。
すなわち、市場は自由に機能しなければならないが、過度に自由を許し、寡占状態を生じさせてはならないと──。
サミュエルソンの聡明さ
博士号を取るため、経済学において最も先進的な大学の一つだったMIT(マサチューセッツ工科大学)大学院に進学しました。
その教授陣の中にいたのが、後にノーベル賞を受賞する経済学者のポール・サミュエルソンです。
彼の聡明さを象徴する有名なエピソードがあります。彼がハーバード大の学生だった頃、ある委員会で質問を受けたそうです──。
インドのシビアな現実
もしインドの企業が従業員により高い賃金を支払えば、労働の生産性は向上し、それによる利益が賃金コスト上昇分をカバーできるのではないか?
そうした新たなサイクルを生み出すことができれば、インドにも中流階級が誕生するはずだ。
そういった仮説を確信し、希望に胸を膨らませてインドへと飛び立ちました。
しかし、現地に着いた途端、私の目の前に広がっていたのは「極貧」というシビアな現実でした。
その経験が、「ソーシャル・マーケティング」という概念を生み出す基盤となりました──。
ビジネス的思考に対する拒否感
YMCA(キリスト教青年会)、アメリカ赤十字社、アメリカがん協会、シナゴーグ(ユダヤ教の会堂)など、これまで関わった非営利組織は多岐にわたります。
「寄付金をもっと多く集めるには?」
そういった質問に私は一つひとつ、答えていましたが、ある時、私は興味深い点を発見しました。
彼らは私に助言を求めながらも、一方でビジネス的思考に拒否感を抱いているのです。
「あなたはこの協会をビジネスとして考えている。しかし、私はビジネスとして活動しているわけではない」
これはアメリカがん協会の人から言われた言葉です。
私はこう答えました──。
最愛の妻ナンシーとの出会い
最愛のパートナーであるナンシーとの関係についても話しておきましょう。
ある日、大学でパーティーがあるという告知を見つけた私は興味を持って出かけてみたのです。
その会場に足を踏み入れた瞬間、一人の魅力ある女性が目に入ってきた。それがナンシーでした。
黒髪と大きな目が美しく、そして何より輝くような笑顔に惹きつけられました。
私はいそいそと彼女のそばに近寄って、「あなたを見ると、クレオパトラを思い出すようだ」と言いました。
すると彼女は茶目っ気たっぷりにこう返してきたのです──。
富は平等に行き渡っているのか?
(予告編構成:上田真緒、本編・構成:宮本恵理子、取材・翻訳・撮影:大野和基、バナーデザイン:今村 徹、参考書籍『コトラー マーケティングの未来と日本』