【後編】メディアは語らず。それでもトヨタに「大波」が迫っている

2017/2/20
トヨタ自動車のお膝元である愛知県で、この本を読んでいないビジネスマンはいないーー。昨年10月に発売された経済小説「トヨトミの野望 小説・巨大自動車企業」(講談社、梶山三郎著)は、世界最大の自動車メーカーであるトヨタをモデルに、その「創業家支配」というタブーに切り込んだ問題作だ。NewsPicks編集部は、トヨタを騒然とさせている覆面作家への120分にわたるロングインタビューに成功。全3回に分けてお届けする、オリジナル記事の後編を公開する。

メディアは問題提議できず

──トヨタをモデルにした巨大自動車メーカー・トヨトミ自動車の経営社宅には、新聞記者が「夜討ち朝駆け」のために姿を表します。実際のトヨタと、それを取材する記者たちの距離感はどのようなものでしょうか。
トヨタは日本最大の広告スポンサーです。
たとえばトヨタの決算が赤字になったりするのは、上場企業として公表している事実です。それを報じることについては、無論とやかく言いません。
ところが、私が書いた小説「トヨトミの野望」で目指したような、大きな問題提議は難しいでしょうね。とりわけ創業家にかかわるものはタブーです。
しかもリーマン・ショック後、トヨタはずっと好業績で推移してきました。そのために広告予算も潤沢です。
また広告部とは別に、メディア対応をしている広報部にも予算があって、さまざまな財界雑誌やモータースポーツ雑誌、あらゆるメディアに目配せをしています。だから取材者にとって「トヨタのことは書きづらい」 というのは本当のことです。
──では書籍に仕立てるなんていうのは、論外ですね。
こんなインタビューで話すのも何ですが、2016年11月に発行されて複数回にわたって増刷をしていますが、大手新聞社の書評には掲載されていません(編集部注:2017年2月に朝日新聞書評欄にて初掲載)。週刊文春に小さく取り上げてもらったくらいです。
一方で、トヨタが発信したい内容は、常日頃から親しいメディアやジャーナリストに対して「売り込み」があります。
これは推測に過ぎませんが、『豊田章男が愛したテストドライバー』(2016年小学館、稲泉連著)などは、まさにトヨタとしては是非書いてもらいたいテーマですよね。あれは、とても分かりやすいコンセプトの本です。
──気概のあるメディアはないのでしょうか。
メディアは、トヨタ批判をあまり大々的にはできません。とは言いながらも、金の切れ目は、縁の切れ目とも言えます。
トヨタがこれからずっと好業績で推移するならば問題がありませんが、もし落ち込むことがあれば、これまで書けなかったテーマに挑むメディアが出るかもしれません。
しかし、そうなったタイミングで問題提議しても、時既に遅し、かもしれません。だからこそ、私はエンタメ小説という形で発表したのです。
(写真:Koichi Kamoshida via Getty Images)

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