上場廃止を決意。還暦の誕生日、借金63億円を背負う

2017/4/16

地獄をさまよう

僕が幻冬舎を上場廃止しようと決めたのは2010年だった。
そのころは幻冬舎株も分割はしたものの1株14万~15万円台と、だいぶ下がってきていた。業績が悪化していたわけではないが、そのときの景気や出版界の沈滞ムードの影響を受けたのだろう。
業績は同じなのに株価が下がることには不満も感じたが、上場廃止するなら、株価の下がった今がチャンスだ。
僕は自分のイニシャルを社名にしたTKホールディングスという僕が100パーセント株主の特別目的会社を設立し、幻冬舎株のTOB(株式公開買い付け)を発表した。
1株22万円という、市場価格の50パーセント増し以上の価格で、市場に出回っている幻冬舎株をすべて自分のところに買い戻そうとした。MBO(経営陣買収)に踏み切ったのである。2010年10月29日のことだ。
ところが2週間後、予想外の事態が発生した。
イザベル・リミテッドという、ケイマン諸島に設立された謎のファンドが、僕が買い取ろうとしていた株を、TOB価格よりも1000円高い価格で買い集めていたのだ。
株価がおかしな動きをしているのは知っていたが、大量保有報告書が提出されて、それがはっきりした。
僕に何の義理もない株主なら、1000円高く買ってくれるほうに売るに決まっている。
そのイザベルファンドは、瞬く間に幻冬舎株の3分の1以上を押さえた。これはゆゆしき事態だ。
全株式の3分の1を握ると、特別決議に関する拒否権が発生する。上場廃止は特別決議事項にあたる。
つまり僕がいくら上場廃止をしたくても、イザベルファンドがそれを拒否すれば、上場廃止ができなくなるということだ。
イザベルファンドとの攻防戦は3カ月に及んだ。その間、僕は一晩たりともまともに眠れなかった。
まずTOBを成立させるために、TKホールディングス(=僕)はみずほ銀行へ63億円の借金を申し込んでいる。上場が廃止になれば、TKホールディングスと幻冬舎が合併するから借金は問題がなくなる。幻冬舎にはキャッシュがあるからだ。
それなのに、もしも上場廃止にならなければ、僕は莫大な借金を背負いながら、上場を維持しなければいけないのだ。