【日本高野連副会長】プロと一つになれない、高野連のトラウマ

2017/1/13
日本の野球人口が減少していくなか、なぜプロとアマチュアは手を取り合って「一つの野球界」として活動しないのか。
多くのファンが疑問に思っているにもかかわらず、プロアマの壁、読売新聞と朝日新聞の利害関係など、あまりにも複雑な問題が多く存在するため、一つになれないのが実情である(詳しい背景を知りたい人は、筆者の過去記事参照)。
Jリーグが誕生して以降の日本サッカー界の発展を見れば、プロとアマが一つになって取り組むメリットは火を見るより明らかだ。
野球界もそのことに気づいていないわけではなく、過去30年、プロアマの関係は大幅に改善されてきた。たとえばプロ経験者が高校球児を指導するには、1984年に「10年の教諭経験」を条件に道が開かれ、5年、2年と徐々に短縮され、現在は3日間の研修会を受ければ資格回復することができる。
その一方、プロ選手が高校生を指導してはならないなど、日本野球の普及・振興において、不可思議な規定も依然存在するのも事実だ。
日本野球の将来を憂えるNewsPicks編集部の中島大輔とスポーツジャーナリストの氏原英明が、何とか道を切り開けないかと、関係者やピッカーと一緒に考えていく本連載。
第3、4回では日本高校野球連盟の西岡宏堂副会長のインタビューをお届けする。話を聞いて感じたのは、傷つけられたアマチュア側にいまも残る「トラウマ」だ。
プロとアマの間に残る遺恨
――過去の歴史を振り返ると、プロアマの壁が必要な事情があったから、つくられたことは理解できます。ただ、日本野球界の現状を考えたとき、この存在についてどう考えていますか。
西岡 プロアマの壁がつくられたのは五十数年前の話ですが、二度と同じ問題を繰り返さないためには、過去に何があったかをちゃんと伝えてくださいとプロ側にも話しています。
私と同い年の尾崎(行雄)という浪商(大阪体育大学浪商高校)のピッチャーや、土井正博さんなど、(1960年代)当時の大阪では中退してまでプロに行った連中がいたんです。
でも、その2人以外はプロで成功していない。彼らと一緒に高校で野球をやろうといった同学年の選手にとってみれば、尾崎や土井さんが中退していなくなった途端に、翌年は甲子園に出られなくなります。プロはそれでいいけど、残された同学年の選手はどうなるんだ、という問題がありますよね。
水面下でしょうけど、夏の選手権大会中に接触して、あとは(入団)発表だけという状態にこぎつけていた。仮契約のようなことをしていたんじゃないのかな、と。いまでは考えられないですが、そんなことが行われていました。
そのほかにも高校野球でチームを編成して外国に遠征に行くじゃないですか。それぞれ目をかけている選手にいろんなチームが支度金というか、お小遣いを渡したことも発覚したんです。
それが当時の(日本高野連)会長のご立腹を招いてしまって、「社会人は何ぼ(プロアマ規定を)緩めたと言っても、学生野球は絶対に緩めない」と、厚い壁になりました。
西岡宏堂(にしおか・ひろたか)
 1944年大阪府生まれ。三国丘高校、同志社大学を経て、滋賀県立膳所高校で教師に。野球部のコーチ、部長を経て、監督として1978年夏の甲子園に導いた。滋賀県高校野球連盟会長、膳所高校の校長などを経て、定年退職後、日本高校野球連盟に。現在は副会長を務めている
――そういう歴史を考えたら、いまは大幅に緩和されました。緩和していった理由や背景について教えてください。
罪のない選手たちのことを一番に考えました。プロをやめた選手がセカンドキャリアで何を望んでいるのかというと、プロのアンケートを見ると、高校野球や大学野球の指導者。(2010年に)新しい学生野球憲章ができて、高校側としてプロと関係改善できる一番の方法として、「教員免許をとる代わりに、研修制度を設けてください。ハードルを下げたい」と、こちらから話を持って行きました。
そうお願いしたのが10月11日。それから1年経っても何の返事もない。球団は「選手たちのセカンドキャリアを考えていないんだ、相変わらず」と思っていたんです。
そうしたら1年以上経ってから、「提案された研修制度について、いろいろ議論してきました。一度同じテーブルについて、研修制度について話し合いを持たせてください」と言ってきたんです。僕らは言ったら、すぐに返ってくると思っていたんですよ。
――テーブルについて、具体的にどんな話をしましたか。
話し合いのなかで、「報酬はどうするのか」となりました。教員だったら教員としての収入があるけれども、教員免許を持っていなかったら外部指導者になってしまいますからね。
ようけおカネを持っている私学ならいいけど、公立高校にはそんなおカネはありません。「結局、私学ばかりまた強くするのか」と、公立高校から反対されます。「甲子園が私学ばかりになってしまっていいのか」となるのは困るんですよね。
(日本プロ野球)選手会、OB会(全国野球振興会=日本プロ野球OB クラブ)とも話していたら、「報酬なんか、こちらは考えていません」と。「すべてのプロ野球選手が元高校球児です。そこからスタートしているんです。だから、高校野球に対する恩返ししか考えていません。恩返しとして指導したいのが本音なんです」と彼らが言い出したんです。「じゃあ、いいよ」と。
指導者を招く際、どこの都道府県でも、外部指導者を依頼する制度があるんです。県ごとによって1回の額は決まっていて、2000〜3500円の間ですよね。
野球なら指導者はたくさんいますが、空手やヨットとか、指導できる人は少ないです。学校の先生にもいない。そういう学校にヨット部があっても、指導できる人がいない。そこで外部指導者を頼むという制度が世の中にはちゃんと存在しているんです。1日なんぼ、1時間なんぼと決まっているから、それを使うとなりました。
キャッチボールOK、ノックNG
――広島の新井貴浩がプロ野球選手会の会長だったころ、「プロ側が高校生に教えたい」と話していました。実際にはなぜできないのでしょうか。現在は広島でコーチを務める東出輝裕が現役時代、母校の敦賀気比で指導した、しないで話題になったことがありましたが、それがいけない理由を教えてください(「日刊サイゾー」の記事参照)。
学生野球憲章に「学生野球指導資格(が必要)」ってはっきり断っているからです。東出くんは現役でしたから、資格回復などしているはずがない。もしあの記事が事実であれば、それを受け入れた敦賀気比高校の部長さんを謹慎処分にしないといけないことになります。実際、何がどうだったかはわかりませんが。
自分の練習として行って、(野球部の後輩と)一緒にキャッチボールはしていいわけです。誰かを連れて行くことをできない場合もあるじゃないですか。だから現役の(野球部の)子とキャッチボールしてもいい。
そのときに変な投げ方をしていたら、選手は「どうしたらいいんですか」と聞きますよね。それに対して「みんな集まれ」と言って指導するとまずいけれども、直接聞いてきた選手に対して「それはな」とアドバイスくらいしてもおかしくないでしょ? そこまで僕らは目くじら立ててどうこうとは、考えていません。
「もう少し膝を曲げたほうがゴロの捕球にはいいんだよ」「あえて力を抜くんだよ」とか、言えるじゃないですか。チームとして全員に指導するのは問題だけれども、一人ひとりと一緒に練習しているときに、当然アドバイスがあっていいんじゃないですかと思っています。そのことでどうこう言うつもりはないです。
――トスバッティングはいいとか、線引きはどこにありますか。
トスバッティングはいいんじゃないですか。でも、ノックを打つとダメです。それは自分の練習ではないじゃないですか。自分の練習としてやっていって、そのなかでアドバイスを求められたときに答えてやるのはOKです。
早稲田実業の清宮幸太郎がプロの指導を受けることができたら、どれくらい大きな打者に育つだろうか(写真:BFP/アフロ)
――学生野球憲章に指導資格を持っている人しか指導できないと書いてあるからプロ選手が指導してはいけないという理屈はわかりますが、現場の要望を聞いていると、高校生もプロに教わりたいし、プロも教えたい。そうなれば、お互いの技術も上がります。単純に、「教えてもいいじゃないか」と思うのですが。
いま一番問題になっているのが、指導資格を回復された方のなかには、個人で野球塾を開いている方がいます。それは商売ですよね。高校生はあまり行っていないと思いますが、小・中学生を相手に野球塾をして収入を得ています。そこで1人、月なんぼかもらっている。ところが高校を指導しに行ったら、ボランティアだとなるわけですね、いまのところ。県によって、一番上で3000円くらい。なので、その差が大きいですよね。
正直な話、名前はいいませんが、ある方が学校側に頼まれて「いいよ」と指導しに行って、「1回5万円ください」と要求されたことがあるんですよ。学校はびっくりして保護者会に相談したら、保護者会は指導してもらいたいからおカネを用意したケースが出ました。これを問題視しているんですよ。「話ちゃうやんけ? 恩返しだったのに、カネよこせ言うんか」っていう話で。
僕らは初め、「資格回復研修を受ける参加料、弁当は自分らでもってこい。そのほかの講習を受ける費用は一切いらない。恩返しをしている方からカネをとるわけにはいかん」と考えていたんです。必要経費はそちらの負担で、資料代はこちらで用意するから一切いらない、と。
プロ側は「そう言わんと、学生側も有料にしてください。そうじゃないと、うちはできません」という話になっちゃったんですよね。「プロ側は有料で、学生野球側は無料では困る。足並みを合わせてよ」ということで、しょうがないな、と。こんなことで潰れては困るとスタートしました。その辺で随分考え方が違いました。
プロ野球にはガッカリしている
――北海道野球協議会のように、プロアマが一緒になることで大きな利点を生み出している組織が日本にもあります(詳しく知りたい人は、筆者の記事参照)。プロが暗黙の了解を破ってきた歴史も大きいとは思いますが、どうすれば協力してもっといい日本野球界をつくれますか。
せっかく学生野球指導資格回復の制度ができたけれど、実際に現場で監督をやっている方ってそんなに多くないです。非常勤のコーチまでを含めて、どこに行っているかがあまり把握できていないんです。報告義務を課していないので。
「おいおい、恩返しって母校を指導するだけだったのかよ」と、僕は非常に不満なんです。せっかく回復したんだから、自分の住んでいる町の高校に行って教えてやってよ、と。そう願いを持っています。
ただ実際には、期待したほど動いていないというのが現状です。なんとか元プロの方たちの指導力を生かしたい。そう思っているんですけど、「恩返し」と言うていたのはごく一部のプロの気持ちであって、ほとんどは母校のことしか考えていないのかなと、ちょっとガッカリしています。もっともっと行ってほしいんです。
一部恩返しをしてくれている方がおられる以上、この制度は間違っていないと思っていますけどね。私が希望したほどは行ってくれていないのが、正直なところです。
<編集後記>
いつまで昔の出来事にとらわれているんだ、と感じた読者もいるかもしれない。過去にとらわれていたら、現在や未来を変えることはとてもできないと筆者自身も感じた。とはいえ、傷がそう簡単に癒えないのもまた事実である。まずは高校野球側の言い分を聞き、何とかプロと歩みを一緒にするための方策を考えていくしかない。1月20日(金)掲載予定の次回では、日本野球界が一つに統一されていないことで生じている「指導における問題」、そして高校野球自体の課題について聞いた話を紹介する。
(バナー写真:BFP/アフロ)