【本田圭佑×堀江貴文】批判なんて、知ったこっちゃない

2016/8/31

二刀流への批判

堀江 SVホルン、よく買えましたよね。
本田 正確に言うと、持ち分は49%ですので、実質的に経営参入という形ですね。オーストリアでは、NPOが51%以上を持たないといけないというルールがあるので、NPOの理事に身内を送り込んで、実質的に100%という形をとっています。
堀江 だけどよくやりましたよね。いくら投資したかは言えませんよね?
本田 まあ、数億円ですね。
堀江 現役のプロサッカー選手がチームを持つというのは、ヨーロッパでは普通なんですか?
本田 選手でオーナーという例は1人か2人は知っていますが、それは3部か4部のチームです。2部のチームのオーナーになるというのは、あまり聞いたことがないですね。
堀江 では、1部に昇格できたら、超画期的じゃないですか。
本田 1部になったら、そうかもしれません。
堀江 サッカーチームを買うというのは、確かにありですよ。本田さんぐらい稼いでいたら、チーム買えますよね。でも、実際に実行するところがすごいなと思ったんですよ。
本田 いえいえ。
堀江 サッカー選手がサッカーチーム持つというのは王道ですよ。
これまでも、スポーツ選手が居酒屋を始めるとか、変な投資ファンドに投資するとか、そういうのはよく聞きましたけど、本田さんは本業ズバリで投資をした。そこに僕は一番興味を持ったんですよ。
本田さんは、焦りじゃないですけど、人生を早く生きていきたいという思いがあるんですか?
本田 スピード感はあると思います。
堀江 そのスピード感がみんな結構ないんですよね。「オーナーになるなら、引退後でいいだろう」と批判する人もいるじゃないですか。
本田 もう批判ばっかりですよ。
堀江 選手と二刀流をすると、結果を出さないといけないというプレッシャーが人一倍かかるわけじゃないですか。勝手にハードルが上がる。本業の成績が落ちたら、「経営をやっているせいだろ」と絶対言われますもんね。
本田 いや本当にそうですよ。
堀江 ツッコミどころを自ら与えているみたいな。
本田 実際、突っ込まれています。
2015年もミランであまり良くなかったので突っ込まれているんですけど、知ったこっちゃないですよ。やりたいことをやるというところは、堀江さんを見ていても一緒だなと感じますけど。

意外と引きこもり

堀江 自分でハードルを上げて、叩かれネタも自ら出しているところは、すごいなと思いましたね。
本田 でも僕は、「批判されない」よりは「叩かれたい」って思うんです。僕の中では、「称賛」「批判」「放っとかれる」という順序なんですよ。
「称賛」されるのは、嫌な気がする人はいないので、まあいいですよ。ただ、放っとかれるのは、一番イラッとするというか、「俺を無視するな」と言いたくなる。
堀江 本田さんのやっていることは、心に刺さっていますよ。
僕がやっていることは、日本ローカルか、せいぜい東アジアぐらいですけど、本田さんはこのままいったらグローバルになれるじゃないですか。それに対する、恐れというか、自由が効かなくなることへの不安はないですか。
今は、イタリアだけでなく、ヨーロッパではどこへ行ってもみんな本田さんのことを知っているわけじゃないですか。さらに、経営まですることになったら、さらに知られることになってしまいますよね。
本田 でも全然大丈夫なんじゃないですか。
堀江 僕はヨーロッパに来ると、日本人があまりいないから、ちょっと安心するんですよ。ウィーンの空港も、ほとんど日本人がいないので、結構リラックスしながらここにも来たんですけど、本田さんは全然リラックスできないでしょう?
本田 僕はアメリカがリラックスできますね。
堀江 あ、そうか。でも、そのうちアメリカでも有名になって、リラックスできなくなるでしょう(笑)。
本田 アメリカでも、バレる回数は年々増えてきていますけど、まだまだバレないですよ。
堀江 それも時間の問題でしょう。
本田 そうなったら休めるポイントはなくなりますね。でもそれはもう仕方ないんじゃないですか。
堀江 例えば超大型クルーザーに乗って家族で遊んでいるところも、超望遠とかヘリから撮られますからね。どこで休めばいいか。いっそ宇宙で休みますか。
本田 でも、僕は堀江さんほど多趣味じゃないので、そんなに心配しなくてもいいかもしれません。
僕はこう見えて意外と家にいることが多いので。結構引きこもりというか、普段は、家でいろいろやることをやっていますので。
堀江 では、家は休まるんですね?
本田 家がいいです。
堀江 でも、家という物理的な場所があるわけなので、それは大変ですよね。
本田 そうなんですよ。
堀江 今後、すごい監視社会になってくるので、家などのプライベートな空間が見つけられやすくなりますよね。
本田 そうですね。ただ、もう慣れましたね。実際、たまに家の前でファンが待っていますから。
堀江 ですよね。
本田 オランダのフェンロ時代は、街のサイズがホルンと同じぐらいのサイズでしたけど(編集部注:ホルンの人口は約6500人)、子どもたちが僕の住んでいる家を知っているんですよ。
 自宅で昼寝しているときに、ピンポーンと鳴ったのでドアを開けたら、子どもたちが10人ぐらい並んでいて、「サインをくれ」と言ってきたこともありました。これぐらいプロサッカー選手と、近所の子どもたちとの距離感が近いんですよ。
 日本だったら、おそらくお母さんかお父さんが帯同していますよね。でも、こちらでは、子どもだけで来て、サインをもらって走って帰っていくんです。僕も全然気兼ねなく、「ああ、いいよ、いいよ、子どもならいくらでもサインするよ」という感じです。そんなところがいいですね。
堀江 ただ、これからは世界をフィールドにしてやっていくわけなので、時間の取られ方も変わってきて、気の休まる時間がなくなってくると思うんです。その覚悟はできているわけですね?
本田 できています。それぐらいの覚悟がないと前に進めません。

経営者は我慢の仕事

堀江 先ほど、(FC今治のオーナーである元日本代表監督の)岡田武史さんとも少し話したんですけど、岡田さんも経営者としてチャレンジしていますよね。
本田 岡田さんも監督時代とは変わりましたね。今日のFC今治とホルンの試合の後にも、岡田監督と一緒にメディアのみなさんに対応しましたけど、柔らかい感じでしたよね。監督時代の岡田さんはあんな感じではなかったですよ。
堀江 なるほど、なるほど。
本田 昔は、岡田さんはもっと怒りやすかったですよ。今日は、いろんな対応を全部怒らずにやっていましたね。そういうところは結構変わりました。
堀江 監督時代はかなり怒っていたんだ。
本田 結構、怒るような場面も多かったですね。監督として来ていたのであれば、今日も怒っていたかもしれない。
 やっぱり、会社を経営するにしても、経営者と社員は全然違うじゃないですか。堀江さんも、社長時代は、我慢しないといけないこともたぶん多かったでしょうし。
 そうした我慢の幅は、監督と選手にはあんまりない。我慢できずに怒っても別に誰にも迷惑をかけないというか、監督であればクビを切られたり、選手であればレギュラーから外されたりするぐらいですから。ただし、オーナーとなると全然違うと思います。
堀江 意識がね。
本田 はい。岡田さんも我慢しまくっていると思います。
堀江 さっき岡田さんと話したら、「我慢しまくっている」とは言っていなかったけど、「経営って本当に体力勝負だね。今年60歳になるんだけど、体がきついよ」と言っていました。
本田 そうですよね。
堀江 僕は20代の時に「社長は20代が一番いい。アスリートだってそうでしょう。僕は、30代中盤ぐらいで経営を引退して、アドバイザーやオーナーはやるけど経営はやらない」と言っていましたけど、誰も耳を傾けなかった。実際に、結果としてそうなっちゃいましたけどね。
(撮影:龍フェルケル)