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河原シンスケ氏(3)

【河原シンスケ】アートは「動物的勘を試す機会」になる

2016/8/9
第1回:パリでアートの仕事をするということ 
第2回:70歳でも恋愛。フランスの自由な恋愛スタイル
第3回:アートは「動物的勘を試す機会」になる

買う人がいない

坂之上:日本のアートシーンがより盛り上がって、さらに世界でも認められていくようにするためには、何が大事だと思いますか?

河原:日本のアートシーンがダメなのは、「買う人がいないこと」です。もうそれに尽きる。

坂之上:確かに。日本人はアート作品、買わないですよね。

河原:そう。アートをやろうとしてる人はいっぱいいるけれど、お金がないから、続けていけない。でも少しでもいいから買ってくれる人がいたら、続けられる。

坂之上:フランスでは、一般の人たちがアートを買うのですか?

河原:はい。

坂之上:じゃ、例えばまだ発掘されていない才能ある人の絵を買おうって思ったら、日本ではどういうところに行けばいいのでしょう?

河原:まずは美術の学校に行ってみるのもいいですよ。例えば卒業制作展覧会とか。

坂之上:そこで好きな作品をみつけたら、「買いたい」って交渉するのね?

河原:そこで一番大事なのは作品のよしあしを自分で判断することですね。

坂之上:展覧会で賞とってるのを選ぶんじゃなくて。

河原:おっしゃるとおり。人はね、何をするにしても、「本当に自分で判断しているか」といえば、やっぱりまやかしで選択していることがほんとうに多いと思うのです。

坂之上:人が良いと言うものが良いって思わされてる?

河原:アートを選ぶということは、自分が本当にそれを好きかどうか、「動物的勘を試す機会」でもあるわけです。

坂之上:「動物的勘を試す機会」ってなんだか、どきどきします。

河原:すごいでしょう? ハンターになれ、ということです。

坂之上:ハンターですか。

坂之上洋子(さかのうえ・ようこ) ブランド経営ストラテジスト。米国ハーリントン大学卒業後、建築コンセプトデザイナー、EコマースベンチャーのUS-Style.comマーケティング担当副社長を経て、ウェブブランディング会社Bluebeagleを設立。その後同社を売却し、中国北京でブランド戦略コンサルティングをしたのち帰国。日本グローバルヘルス協会最高戦略責任者、観光庁ビジットジャパン・クリエイティブアドバイザー、東京大学非常勤講師、NPOのブランディングなどを行った。『ニューズウィーク』誌の「世界が認めた日本人女性100人」に選出

坂之上洋子(さかのうえ・ようこ)
ブランド経営ストラテジスト。米国ハーリントン大学卒業後、建築コンセプトデザイナー、EコマースベンチャーのUS-Style.comマーケティング担当副社長を経て、ウェブブランディング会社Bluebeagleを設立。その後同社を売却し、中国北京でブランド戦略コンサルティングをしたのち帰国。日本グローバルヘルス協会最高戦略責任者、観光庁ビジットジャパン・クリエイティブアドバイザー、東京大学非常勤講師、NPOのブランディングなどを行った。『ニューズウィーク』誌の「世界が認めた日本人女性100人」に選出

動物的勘は鈍っている

河原:僕はマサイ族に会いにいったことがあって。彼らの動物的勘をみたときに、自分たちは、ITを駆使して、どこか進化していると思っていたけれど、逆だと感じたことがあります。

坂之上:先進国にいて、実は動物的勘は鈍っていると。

河原:はい。そして芸術に対しても、同じだな、と。

坂之上:美術館には人が押し寄せてると思うのですけれど。

河原:そう。美術館に行く人が多いのはすごくいいなと思うんですけれど、そこで自分が何を感じたかよりも、話題だからってことのほうが大きい気がするのです。はやってる展覧会で、評論家もみんなもよかったと言っている。でも果たしてほんとうに良いのか?

坂之上:正直に感じてないと?

河原:一歩進んでみて、大学でも近所の画廊でも行ってみて、本当に自分が好きかどうかを考えてみる。そういう白紙状態で自分が何を感じるか、みてみる方が、ためになるんじゃないかな。

坂之上:もっと動物的に敏感になる、ことを意識してみる?

河原:そうですね。失敗してもいい。たぶん最初は失敗する。でも、だんだんそれによって学ぶことが増えるし。

坂之上:そして部屋に自分の動物的勘で選んだ絵を一枚飾る。

河原:そうすると大きな変化があると思います。

河原シンスケ(かわはら・しんすけ) 武蔵野美術大学卒後、80年代初頭よりパリを拠点に活動を開始。フランスのフィガロ、エル、マリクレール、ヴォーグ等のイラストや、プランタンデパート、エルメス、バカラ等の広告を手掛けるほか、ルイ・ヴィトン「LE MAGAZINE」のクリエイティブ・ディレクション、La Rochelleのリゾートホテル「côtè ocean」の総合デザイン及び、250m2の天井画を完成させる。2007年には、オーナー・デザイナーとして、サロンレストラン「usagi」の総合プロデュースを手がけた。

河原シンスケ(かわはら・しんすけ)
武蔵野美術大学卒後、80年代初頭よりパリを拠点に活動を開始。フランスのフィガロ、エル、マリクレール、ヴォーグ等のイラストや、プランタンデパート、エルメス、バカラ等の広告を手掛けるほか、ルイ・ヴィトン「LE MAGAZINE」のクリエイティブ・ディレクション、La Rochelleのリゾートホテル「côtè ocean」の総合デザイン及び、250m2の天井画を完成させる。2007年には、オーナー・デザイナーとして、サロンレストラン「usagi」の総合プロデュースを手がけた。

「忘れること」は非常に大事

坂之上:絵もそうなのかもしれないですが、動物的に考えて「もの」を買ったのは、わたしの場合、コップの口に当たるところを意識するようになってからかな、と思うのです。

河原:ふちのところね。

坂之上:それまでデザインとかブランドとかで選んでいたのに、口の感触のほうに気をつけるようになったんです。このふちならこの飲み物って。

そう感じはじめたら、スプーンもヨーグルトを食べるときは、分厚い高級スプーンより200円のスプーンの口当たりのほうが好きだなぁ、みたいに広がって、こういう話じゃなくて?

河原:そういう話です。

坂之上:それに気づいてから、はじめて食器だけじゃなくて、いろんなものを自分で選ぶ自信がついてきました。わがままに。

河原:そう。本当は感覚でちゃんと判断してるのに、情報を優先させているから、精神や肉体がどんどん鈍ってしまってる。

そこが鈍らないようにいろいろ意識してやると、だんだん自分のハンター度が上がってくるんじゃないかなと思います。主体的な意志を持つのがこれからの時代とても大事になってくると思うので。

坂之上:人々がこれが正しいと言っていても、それを鵜呑みにしないというようなこと?

河原:やっぱりマジョリティ(多数)が正しいという世の中でしょう?

坂之上:はい。多数に流されずやって、それでうまくいかないときは?

河原:まあ、そういうときはしょうがない(笑)。うまくいかないことは。忘れます。

坂之上:いいですね。「挫折は忘れる」とか、「終わった仕事は忘れる」と河原さんは「忘れる」キーワードが多いのですが、それが大事?

河原:そう。もうね、忘れるのが癖になってます。どんなことがあっても、そんなにくよくよしない。グローバルでサバイバルしていく上で、「忘れること」は非常に大事だと思いますよ。
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(撮影:遠藤素子)