ライドシェアに民泊。黒船と日本勢、火蓋は切られた

2016/3/14
黒船がこじ開けた新市場
テクノロジーの力で個人の遊休資産をつなげ、新たな経済活動を生み出すシェアリングエコノミー。その勢いはとどまるところを知らない。
新経済連盟の試算によれば、市場規模は2025年には10兆円以上。政府も2015年6月に閣議決定された日本再興戦略において、シェアリングエコノミーを検討課題とする方針を明らかにしている。
その背景には、労働者不足やホテル不足、交通手段の不足という、都市部・地方問わず直面する問題がある。また、1億総活躍社会、地方創生、観光立国といった、政府が果たしたいビジョンを、シェアリングエコノミーの力を借りて成し遂げたいとの思惑も透けて見える。
矢野経済研究所のリポートによれば、シェアリングエコノミーは「乗り物」「スペース」「モノ」「ヒト」「カネ」の5つに分類される。本特集では特に注目度の高い、「乗り物(ライドシェア)」「スペース(民泊)」「モノ」の3領域に着目する。
もともと日本でシェアリングエコノミーが広がる原動力となったのが、「黒船」であるアメリカのUber(ウーバー)、Airbnb(エアビーアンドビー)両社だ。
ウーバーもAirbnbも、世界各地で交通や宿泊の在り方を変え、一部のユーザーには熱狂的に受け入れられている。両社によって日本市場がこじ開けられ、新たなプレーヤーが続々と参入を狙っているのが現状だ。
既存業界からは不公平との声も
しかしテクノロジーが社会に広まるときの宿命として、既存のルールとの衝突が起きる。ライドシェアも民泊も、明確に規制違反だったり、グレーゾーンだったりするにもかからわず野放しになっている、と指摘されている。
特に、ルールの枠内で粛々とビジネスを行っていた既存業界からは「なぜシェアリングエコノミーだけが例外扱いされるのか」との猛反発が起きた。
たとえばタクシー業界は、「われわれ既存事業者は義務を果たしながらビジネスを行っている。それに引き換え、ライドシェアは、グレーゾーンなのに賞賛されている。この状況は明らかに不公平だ」(日本交通・川鍋一朗会長)と訴える。
では実際、どのようなテクノロジーが、どのようなルールに抵触するのか。シェアリングエコノミーの法制に詳しい岡本杏莉弁護士への取材をもとに、簡単に議論をおさらいしよう。
有償で乗せれば免許が必要
まずはライドシェア。「白タク」という言葉があるように、日本の法律では、営利目的での運転は交通事故のリスクや金銭トラブルへの懸念から厳しく規制されている。
タクシーの営業を規定するのは「道路運送法」である。同法によれば、「他人の需要に応じ、有償で、自動車を使用して」事業を営めば、それは「旅客自動車運送事業」と見なされ、免許が必要となる。
現在、東京で行われているウーバーのサービスは、この規制の範囲内で行われている。許可を保有する既存のタクシー会社と提携し、提携事業者のタクシーとユーザーを結ぶ仲介業者として配車サービスを行っているからだ。その際、ウーバーは仲介事業に必要な「第2種旅行業」の登録を行っており、法的にはなんら問題はない。
しかし、2015年2月に福岡で行われた、ライドシェア「みんなのUber」の実験では、国土交通省から中止を求める行政指導が下った。
これは東京での事業と異なり、一般人の自家用車と、乗りたい人を結びつけるサービスだ。その際、車に乗る人の利用料は無料、一方で自家用車を提供するドライバーには「データ提供量」というかたちで、走行時間に応じた対価がウーバー側から支払われた。
ウーバー側はこれをもって、道路運送法の「有償」の規定には抵触していないとの立場を取ったと見られたが、国土交通省は「事実上の有償運送に該当する」として、本プロジェクトは道路運送法違反だと見なした。
流れが変わった安倍首相発言
本プロジェクトの中止をもって、ライドシェアは一度沈静化したが、2015年10月、安倍首相が「過疎地などで観光客の交通手段として、自家用車の活用を拡大する」と発言。再び世間で注目を集めるようになった。
具体的には、過疎のため公共交通機関が機能していない、地方の「交通空白地」を国によって「特区」と認定。そこで実験的にライドシェアを実施するというものだ。
現在はまだ、既存の法制度との整合性を含めて議論が進んでいる最中だが、京都府京丹後市が特区への立候補を表明。富山県南砺市もウーバーと協定を結び、無償を前提にシェアリング交通の実験に乗り出した。
ウーバー日本法人社長の高橋正巳氏が「京丹後市や南砺市以外にも、北海道から九州まで各自治体から問い合わせが来ている」と話すように、地方を中心に動きが活発化している。
また、シェアリングエコノミーを推進する立場の新経済連盟(代表理事・三木谷浩史楽天会長)も2015年10月、ライドシェアのドライバーを道路運送法の適用外にする提案書を提出している。楽天は同年3月、アメリカのライドシェア企業Lyft(リフト)に3億ドルの出資をしており、国内でビジネスチャンスをつかみたい意図が見え隠れする。
これに対し、タクシー業界は2016年3月、「安全を破壊する白タクを断固阻止する」とデモ行進を行った。現在議論されているのは、あくまでも特区に限定した動きだが、「アリの一穴になる」として、タクシー業界の警戒感は強い。
都市部のタクシーは過当競争といわれる。それだけにウーバーへの警戒感は強い(画像:Rich Legg via iStock)。
民泊は「営業」の範囲がグレー
次に、民泊(ホームシェア)を見てみよう。ホテルや旅館などを規制するのは、旅館業法だ。旅館業法によれば、「宿泊料の提供を受け人を宿泊させる営業」をする場合、都道府県知事の許可が必要とされる。
つまり、「営業」でなければ同法に抵触せず、たとえば友人を家に泊め、見返りにちょっとした金銭をお礼としてもらうという場合は、営業許可は必要ない。これをもってグレーゾーンとされてきたのが民泊である。
「営業」の定義は法令上示されていないが、さまざまな判例で見ると、「反復継続の意思」をもって行われる場合は「営業」と見なされる。そのため、民泊で定期的な収入を得るホストについては、旅館業法に抵触していると判断されることがある。
もし「旅館業」と判断されれば、当然ながら相応の義務を満たす必要がある。
具体的には、宿泊者名簿の作成、フロントの設置、衛生基準を満たすための換気や採光、防火装置の設置、最低限度の床面積の確保などである。また、Airbnbでは評価の低いゲストの依頼を断ることができるが、旅館業法では原則として、客の宿泊を拒んではならない。
また、賃貸借契約の問題もある。賃貸借契約では通常、短期間に異なったゲストが出入りするケースは想定されていない。一方、旅行者がマンションの風紀を乱すことが社会問題となっているのは周知の事実である。そこで現在、賃貸借契約やマンション管理規約において、「民泊の禁止」を新たに付け加えるマンションが急増している。
政府内でも意見が割れている
とはいえ、全国各地でホテル不足は深刻になっており、先日も国内のホテル料金が平均で12%上昇したとの報道があった(国内ホテル料金、平均12%上昇 東京は1万6945円)。
Airbnbのホストを務める翻訳家のタカ大丸氏は、「このままでは東京五輪で大量に来日する外国人観光客を吸収しきれない」と指摘する。
そのため、実際のニーズを背景に、民泊領域ではライドシェアよりも議論が一歩進んでいる。
たとえば旅館業法を管轄する厚生労働省と、マンションを管轄する国土交通省は、民泊を旅館業法の「簡易宿所」と位置付け、簡易宿所に最低限必要な床面積を緩和し、ワンルームマンション程度の面積でも営業許可が取れるような案を検討している。
さらに先を行くのが内閣府の「国家戦略特区諮問会議」と「規制改革会議」だ。
厚労省・国交省があくまでも旅館業法の枠内、つまり民泊事業者には営業許可が必要だとする立場なのに対し、内閣府では、旅館業法の枠外で新たなルールを定め、さらにハードルの低い「届出制」によって緩やかに監視する立場を示している。つまり、政府内でも省庁によって見解が割れているのである。
現に、「特区」に指定された東京都大田区と大阪府では、民泊の独自規則を作成し、規則を満たす場合は許可証を発行している。
また、ライドシェアの提案を行った新経済連盟は、民泊においてもホストを旅館業法の適用外にするよう提案している。それと引き換えにプラットフォーマーに一定の対応を義務付けたルールをつくることを主張している。
もともとAirbnbの規約は、「自社はプラットホームの提供者にすぎず、物件を提供するものではない(つまり、旅館業法の範囲外である)」という立場だった。
しかしAirbnb日本法人社長・田邉泰之氏が「プラットフォーマーと利用者、それぞれの責任範囲について政府と議論している」と語るように、プラットフォーマーも一定の責任を担うという流れが進んでいるのだ。
東京のカンファレンスでプレゼンテーションを行う、Airbnb本社幹部のマイク・オーギル氏と、日本法人社長の田邉泰之氏(写真:ロイター/アフロ)。
企業、利用者、大臣は何を思うか
最後に、「モノのシェア」について。フリマアプリやネットオークションについては、特に行為自体を規制する法律はないが、代金を振り込んだのに商品が届かない、落札・購入したブランド品が偽物だったなどのトラブルは後を絶たない。
そこでプラットホーム事業者間で自主規制のルールを定めたり、正当な取引が行われなかったりした場合は、プラットホーム側が損害を補填(ほてん)するサービスを導入するなど、安全性を高める取り組みがなされている。
かようにリスクとルールが混在する中で、各プレーヤーは何を思い、どのようにして日本市場との折り合いをつけようとしているのか。本特集ではプレーヤーや利用者、そして担当大臣への取材からシェアリングエコノミーの「今」と「未来」を明らかにしていく。
第1部はライドシェア。ウーバーの世界戦略について、おぼろげながら見えてきた情報から経営面を読み解くとともに、スライドストーリーで最新トピックを紹介。日本法人の高橋正巳社長のインタビューから、抵抗が根強い日本市場における戦略を聞く。
また、既存のタクシー業界を代表して、日本交通の川鍋一朗会長に、ライドシェアの問題点とタクシー業界の「大義」を語ってもらった。
第2部は民泊。Airbnb日本法人への取材をはじめ、ポストAirbnbとして参入を検討するベンチャー企業、不動産業者の声を掲載。また定期的な収入を稼ぐAirbnbホストからは「住民トラブルを避けるために何をしているのか」「実際のところ、Airbnbは儲かるのか」といった生々しい話を聞いた。
第3部は「モノのシェア」。これについては前二者と様相が異なり、日本初のベンチャーがアメリカ市場に乗り込んでいく構図がある。フリマアプリの「メルカリ」は日本のユーザー数を着実に伸ばすとともに、次の戦略としてアメリカ市場を見据えている。
一方、CtoCの取引という点については、ネットオークションの「ヤフオク!」が日本においてトップを走っている。両者の戦略の違いから、モノのシェアの未来像を読み解いていく。
そして最後には、地方創生・国家戦略特別区域担当の石破茂大臣への独占取材を敢行。規制改革論議の現状と石破氏本人の問題意識、その先にある目指すべき国家像について聞いた。
「黒船」が外圧によって切り開き、既存業界が翻弄され、日本の新興プレーヤーも虎視眈々(たんたん)と狙うシェアリングエコノミー市場。今後数年の日本を占うトピックとして、ぜひ注視しておきたい。
(バナー写真:遠藤素子)